続ー1サツキ編 二ヶ月目の憂鬱
付き合い始めて二ヶ月目に突入。
ダンってば、かっこよくて優しくて逞しくて、こんな素敵な男性が彼氏なんて本当に幸せ! なんだけど……。
私は今、難しい問題に直面している。
そりゃあね、まだ早いって思われるかもしれないけど、でもこれだけいい男なんだから焦るのも仕方ないでしょ? それなのに――。
ぜんっっぜんプロポーズされる気配がない!
なんで? どうして?
そりゃまだ二ヶ月だけど、私のこと『可愛い、愛してる』って連呼してるじゃない!
やることやってるわけだし、ダンの性格上すぐにプロポーズしてくると思ったのに……。
こないだなんて郵便屋さんに『奥様』って呼ばれたんだよ。
世間は私をダンの伴侶と見なしてるんだよ、事実婚だよ! それなのに肝心のダンが結婚の『け』の字も言わないってどうなってんの?
私だってただ黙って待っていたわけじゃないよ。礼儀作法とか字の勉強とか、ちゃんと花嫁修業していたんだから。
立派な若奥様になれる自信はある!
で、さっきダンに欲しいものがあるかと訊かれたから、思い切って『愛が欲しいな。結婚しようよ。ずっと一緒って約束して』って逆プロポーズしたの。
そ・れ・な・の・に!
ダンってば眉間に皺を寄せて『それはいいから別のものを言ってくれ』って言ったんだよ。
それはいいって何? 『そのことはまあ置いといて』みたいな感じ?
まだ結婚なんて早いって思ってるの? それともまだ一人に縛られたくないとか、恋人としてはいいけど結婚となるとちょっと違うかなとかそんな風に思ってるの?
まさか断られるなんて予想外で、ショックのあまりベッドに潜り込んでちょっとだけ泣いちゃったよ。
ダンは私の背中をさすってくれて……でも今欲しいのはそんな優しさじゃなくてプロポーズなの!
そのまま寝た振りしていたら、ダンは掛け布団を少し捲って私の頬にキスして部屋を出て行った。
うぅ、悔しいよぅ……。私、ダンの奥さんに相応しくないのかな?
頑張ってるのに、私の気持ち、伝わってないのかな?
ダンは不器用で、見てるこっちが胸焼けするほど甘いものが好きで、真顔で愛を語ってくれて、背が高くてかっこよくてお金持ちで優しくて……早くしないと他の女に取られちゃうかもしれない。
う……。
嫌! それだけは絶対駄目! ありえない!
私のなんだから、誰にも絶対渡さない。
もっともっと頑張って、『俺の奥さんになるのはサツキしかいない。愛してる、結婚してくれ』って言わせてみせる。
そうよ、こんなことで挫けてなるものですか。ダンを好きな気持ちは誰にも負けないんだから。
ダン、絶対に逃がさないんだから。私の溢れる愛を思い知るがいい!
ダンは私のものなの! って、世界中に響く声で叫んじゃうよ。
私は拳を握りしめて立ち上がった。