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サツキとダンの新しい世界  作者: 手絞り薬味
サツキとダンの新しい世界
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第3話サツキ編    異世界芸の伝授

 トントントントン。


 お父様の肩を叩く。

「ああ、気持ちいいよ。ありがとうサツキ」

 何度も感謝の言葉を口にするお父様と、私達を穏やかに微笑みながら見るお母様。

 お父様は銀の髪、お母様は金の髪。

 金銀なんておめでたいよね。

 たぶん二人共七十代だと思うんだけど、髪はフサフサしているしとっても元気。

 そしてお父様もお母様も、ホントにちょっとした事で凄く喜んで可愛がってくれる。

 うん。私もお父様お母様大好き。

 血の繋がりって、あまり関係無いんだなー。


 トントントントン。


 調子よく叩いていると、ノックの音がしてメイドのマチルダが現れた。

 マチルダは茶色の髪を綺麗に編み込んだ二十代後半くらいのお姉さん。

 この屋敷にはメイドはマチルダしかいないんだけど、これがまた良く働くんだよ!

 いつ休んでいるのかなって凄く不思議。

「失礼します。サツキ様」

「ん? 何?」

 振り向いた私に、マチルダは言った。

「お客様です」

 え? 私に?

 この世界に来て間もない私に知り合いなんていないよ?

 首を傾げる私にマチルダはニコニコと笑う。

「ワーガル様がおみえになっていますよ」

 ……え?

 私は益々首を傾げる。

「ワーガル? 誰?」

「まあ、ダンが? サツキに?」

 私の声とお母様の声が重なった。

 え? ダン? 隣の美容マッサージ男?

 じゃあ『ワーガル』って、ダンの苗字か。

「いつ知り合ったんだい?」

 お父様が驚いている。

「何日か前に、会ったの」

 それだけ言うと、マチルダが急かすので客間へと行った。

 部屋に入るとダンが立ち上がり会釈をしてきた。

 私も会釈をする。ソファーに座るとダンも座った。

 ダンは何故か怖い顔をして私を睨み付けている。

 怒らせるような事したっけ?

 ちょっとビビりながら訊いてみる。

「あの、私に何かご用ですか?」

 するとダンは、何故か視線を逸らした。

「その、小さな相談がある」

「相談?」

 たった一度会っただけの私に?

 ダンは頷いて、私の目を真っ直ぐ見つめた。

「俺は騎士だが、……その長が、俺にお笑いをやれと言うのだ。明日試しに見せなければならないのだが、どんなものをやればいいのか分からない。あなたなら、何かよいお笑いを知っていると思うのだ。恥ずかしいものを教えてもらいたい」

「……え?」

 そんな事言われても……っていうか、何故私に訊く?

 友達どころか知り合いと言う関係ですら無いような気がするのですが。

 いきなり来てお笑い芸教えろって、……宴会でもあるのかな。

 それも『恥ずかしいもの』って凄い条件。

 もしや、今までの宴会でめぼしい芸はやり尽くしたけど、長……上司だよね、に『ダン、面白いのやれよ!』とか無茶ぶりされたから、私に日本のお笑い芸を教えて欲しいという事なのかなー。

 うーん……。

 まあ事情はよく分からないけど真剣な感じだし、私を頼って来たのだから何かよい芸を教えてあげたいな。

 ダンを見てみる。

 体力はありそうだから、走ったり跳んだりするものがいいかなぁ。

 そこでふと、ダンが腰に下げている剣が目についた。

 あ! そうだ、あれがいいかも!

「ニホンのお笑い芸人がやる、棒におでこ付けて十回まわって走る、えーと、伝統芸? グルグルバット! 結構笑えるよ」

「グルグルバット……?」

 首を傾げるダンに、私は笑顔で頷いた。

「ちょっと、その剣貸して」

 私が手を伸ばすと、ダンが驚いた顔で剣をしっかり掴んだ。ケチ男!

「ちょっとだけだよ」

 催促するように掌をダンに見せて振ると、渋々と言った感じで剣を鞘ごと渡してくれた。

 うわ! 重たい!

 よろけた私をダンが支える。

「ありがとう」

 お礼を言うと、ダンは真っ赤になった。なんでだろう?

 そして丁度その時、紅茶を運んで来たマチルダが私を見て一瞬目を見開き、そして微笑んだ。

 うん、大丈夫。怪我は無いよ。

「じゃあ、やってみるからね」

 その剣をバットに見立てて実演してみせる。

 いーち、にーい、と二回だけまわって剣を置いて走る。

「本当は十回まわるんだよ。分かった?」

 私が訊くと、ダンは神妙な面持ちで頷いた。

「分かった。帰って屋敷でやる」

 自己練習? グルグルバットを?

 宴会芸一つに、もの凄く気合いが入ってるよね。

 もしかして一番面白い人には賞金が出るのかな。

「頑張ってね」

「ありがとう」

 ダンはお礼を言って帰って行った。

 みんな、笑ってくれるといいね。

 頑張れー!


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