第22話サツキ編 衝撃の真実
ホワイトタイガーが止まり、私はハッと目を覚ます。
あ、屋敷に着いたんだ。
ハードな祭りに疲れはて、ウトウトしていたみたい。
あれだけ怖かったホワイトタイガーにすっかり慣れた私、凄い!
ダンが私を抱きあげておろす。
しまった、ヨダレが……。
ハンカチがないので袖口で拭きながら、ダンと手を繋いで屋敷の中に入った。
あー、早くお風呂に入って寝よ……って思っていたら、いつものメイド服を着たマチルダが現れて「こちらです」と私達を案内する。
え? もう深夜なんですけど。これ以上遊ぶ体力ないんですけど。
「もう眠い」
私が言うと、ダンが抱っこしてくれた。
いや、そうじゃなくて……まあいいや。
マチルダに付いて行くと、あ、居間だ。お茶にしようってことかな?
うーん、お腹いっぱいなんだけど。
マチルダが居間のドアを開ける。
……ん? んん?
あ! オシャレ原始人!
派手な服着て、ネックレスとか指輪とかブレスレットにピアスまで満載でチャラ男丸出しオシャレ原始人がソファーに座ってる。
なんでうちに居るの?
それにお父様とお母様、ニナとえーと名前忘れたけどニナの下僕と……誰? あの女性。
髪の色がダンと同じ赤――だけど顔が……そう、ニナだ。ニナそっくり!
なんで? もしかして二人は姉妹とか?
混乱する私にオシャレ原始人が立ち上がって近付き、ダンごとガバッと抱きしめる。
うわ! マッチョに挟まれた!
苦しい、てゆうか暑苦しい!
「やめ……」
「サツキに触るな!」
ダンの怒声が聞こえたと思ったら、急に息が楽になる。
あー苦しかった……って……オシャレ原始人が床に転がってるじゃない。
ふと見ると、ダンが拳を握っていた。
……殴った? 絶対殴ったよね。
嘘、穏やかなダンが人を殴るなんて……。
オシャレ原始人は頬を擦りながら、不敵な笑みを浮かべて立ち上がった。
「強くなったな、ダン」
知り合い……?
長い髪を掻き上げながらオシャレ原始人が再び近付いて来てダンの肩に手を乗せる。
あれ? あれれ?
私は首を傾げた。
並んだダンとオシャレ原始人……よーく見ると、似てる?
え? なんで……。
その時、ダンが衝撃的な一言を放った。
「サツキ、俺の父さんだ」
……父さん?
父さんってつまり……父親!?
「ええ!?」
うわ! そうなの?
うわうわうわ! びっくり。
ダンを置いてジャングルに旅立った馬鹿……じゃなくてワイルド親父!?
見た目は都会にいるような感じなのに。
そしてお父さん……若い!
ちょっと歳の離れた兄弟で通るよ。
ダンは更に、ニナに似てる女性を手で示して言う。
「母さんだ」
……え? 母さん?
女性は優しい笑顔で優雅なおじぎをする。
ええと……。ニナそっくり女性が母さん?
じゃあニナは……何?
ダンはマザコンで母親に似たニナを恋人に選んだとか?
でも他人にしては似すぎているような……。
あー! 考えても分かんない! 直接訊く!
「ダン! ダンのお母様とニナが似てる。どうして?」
するとダンではなく、ニナが笑いながら答えた。
「それは親と子供だから……でもそうね、ちょっといっぱい似てるわね」
親と子供……親と子供……親子!?
ダンの顔を両手で挟んで瞳を覗き込む。
じゃあ、ニナは……。
「何!?」
「何……?」
ダンが眉を寄せて首を傾げた。
つまりこれは、えーと。
私はダンのお父さんを指差す。
「お父様」
次にお母さんを指差した。
「お母様」
最後にニナを指差して訊く。
「ニナ、って家族!?」
ダンが驚いたように目を見開いて、それから私をギュッと抱きしめた。
「ああ、そうだ家族だ」
うわあぁあ! わ、私ってばとんでもない勘違いしてた?
ニナがダンの……あれ? 姉と妹どっち?
まあどっちでもいいや。
とにかく家族だったなんて!
ん? だったら何でニナは私を『泥棒猫』って言ったんだろう?
うーん……あ、ブラコンか。
ニナはブラコンなんだ。
でもそれはそれで、これから私がダンにアタックするにあたり、面倒くさいことになりそうだなぁ。
――って思ってたら、ニナがお腹を擦りながら爆弾発言をした。
「もう一人いるの、ここに」
え? ここにってもしかして……。
下僕が赤い顔をしてニナの肩を抱く。
一瞬の間の後、ワッと歓声が上がった。
「おめでとう、ニナ!」
「おめでとう!」
ええ? やっぱ赤ちゃん!?
下僕がニナに手を出したのかぁ。そりゃ目の前であんな際どい格好されたら、ついついケモノになっちゃうよね。
そうか! 以前ダンとニナが話してた『結婚』って、下僕との結婚を相談してたんだ。
妊娠したけど結婚はどうしようと悩むニナに、ダンが早くした方がいいとアドバイスしてたんだね!
私ったらまたもや早とちりの勘違いしちゃってた。
しかも、赤ちゃんが生まれるならニナはもうダンに構っている暇なんてない。
うわ、やったあ! グッジョブ下僕!
私はダンの腕から下りて、下僕に駆け寄り手を握った。
「おめでとう!」
「サツキ!」
え? ぐえ!
またダンに乱暴に抱っこされる。
もう! 何よ!
ドッと笑いが起こり、お父様がパンパンと手を叩きながら言った。
「さあ! 乾杯しよう」
……はい? さっきまで散々飲み食いしたのにまだ飲むの?
結局それから二時間程お酒を飲んで、やっと本当にお開きになる。
みんな……特にダンとダンのお父さんは信じられない量の酒瓶を空にしたけど大丈夫かなぁ。
「ダン、大丈夫?」
吐いたりしないでね。
ダンは頷いて私の頬をグリグリ撫でる。
痛い痛い。これは見た目普通だけど相当酔ってるな。
「大丈夫! ほら行けダン! 頑張れ!」
ダンのお父さんがダンの背中をバシバシ叩いて豪快に笑う。
うーんお父さんも相当酔ってるな。
お父様とお母様が私をギュッと抱きしめて頬にお休みなさいのキスをした。
あれ? なんか二人の目が潤んでいるような……気のせいかな?
お父様お母様と、今日はうちにお泊まりするらしいダンの家族と別れて私とダンも部屋に戻る。
だけどその途中、付いてきていたマチルダが、何故か私だけを引っ張った。
「サツキ様はこちらへ」
「え? でもダンを……」
部屋に連れて行かないと――と言おうとしたら、ダンが片膝付いて私の手の甲にキスをする。
「また後で」
後で? 『また明日』って言いたかったのかな?
やっぱり酔ってるよ。
ダンは立ち上がり歩いていく。
ちょっと心配だけど、ダンとそこで別れて私はマチルダに付いて行った。
「何処行くの?」
マチルダが微笑み、目の前のドアを指差す。
「ここですよ」
ん? あれ? すぐ近くじゃない。
「開けてください」
私が? 何でだろ。ドッキリでも仕掛けてあるとか?
ゆっくりノブを回してそっとドアを開け、中を覗き込む。
「え!?」
……お姫様の部屋だ。
いやもうびっくり。
いつぞやパンフレットで見た天蓋付きお姫様ベッドが部屋の中央に置かれていて、カーテンも家具も乙女感満載。
ビラビラのヒラヒラって感じ。
「ここが今日からサツキ様のお部屋です。さあ、お風呂へどうぞ」
促されてお風呂へ。
わ! お風呂も乙女。
お母様ったら、内緒で乙女部屋を用意してくれてたんだね。
でも何でこのタイミングでバラすんだろ?
うーん……まあいっか。それよりお風呂入って寝よ!
私はサッと入浴して、それからマチルダが用意してくれたネグリジェを着てベッドに入る。
「お休みなさいませ。良い夜を」
マチルダが部屋から出て行く。
ふぁー。眠い。
大あくびして私は目を閉じる。
今日は凄い一日だったなぁ。
疲れたけどダンがフリーだって分かったのは収穫だった。
うん、明日からもっと積極的に迫っていこう。
そうだ、もうまどろっこしいことはやめた!
思い切って……で、「責任取って」って泣けば、真面目なダンなら逃げられないよね。
よし! 頑張るぞ! 善は急げ、明日夜決行だ!
ドンドン!
ん? ノックの音?
マチルダかなぁ。何か忘れ物でもした?
「はーい」
ベッドの中から返事をする。
ドアが勢いよく開いた。