表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サツキとダンの新しい世界  作者: 手絞り薬味
サツキとダンの新しい世界
41/101

第21話サツキ編   トーラコスプレ祭り

「うぉおーっ!!」


 ええ……!? な、何?

 ドアが開いた途端、私達は奇声をあげる奇妙な格好した人達に囲まれた。

 やたら長い裾のドレスを着た女、天井に届く程高い帽子をかぶった男、蝶の羽根みたいなの背負ってる人も、奇抜な化粧をしてる人もいる。

 あ、お父様とお母様だ。

 お父様はピンクの服と七分丈のズボンと羽根付き帽子っていうピーターパンもどきな格好して、お母様はヒラヒラのドレスを着て、長い髪の毛を上に立たせてそこに花をたくさん挿している。

 マチルダとヤンもいる。真っ赤なローブの派手な魔法使い風。

 で、その隣にいるのはニナだ……けどそれって蔦だよね。

 蔦をグルグル体に巻き付けている。所々肌が見えていやらしい!

 さらにその後ろに、上司が金ぴかの腹部が露出した鎧を着て立ってる。

 お腹見えてて鎧の意味あるの? 私が敵なら確実に腹部を狙うよ。

 上司の横にいる男も凄い。ダンに負けず劣らずマッチョな大男なんだけど、毛皮をまとって棍棒を持って、まるっきり原始人な格好してる。

 でも長い金髪と髭、顔も彫りが深くてかっこいい。耳飾りとかネックレスみたいなのもしててちょっとお洒落だな。

 うん、『オシャレ原始人』だ。

 ――何て思ってたら、オシャレ原始人が私に向かってウインクする。

 え……、何この男。ちょっとチャラい感じだなぁ。

 うーん、それにしても……これって仮装大会なのかな?

 ダンが私の手を引いて一歩踏み出す。すると人々が急に静かになって、サッと左右に分かれた。

 ん? 少し先に杖を持ったおじいさんがいる。

 ハートが描かれたラブリーな服着て、頭に冠かぶって……いや、それよりその後ろの台座の上……。

 髪が長くて緑と白のフリフリの服着た金髪萌え萌え美少女が、右の掌を天に向けたポーズをバッチリ決めてる等身大らしきフィギュアがある。

 ……あれって今の私と一緒の格好だ。

 それに何だかあの萌えキャラ見たことあるような……うーん、何処でだろ……うーん……あ! そうか、絵本に描かれてたんだ――たぶん。

 よく見ると、この部屋の中には他にもフィギュアが並んでるじゃない!

 あ、あそこにダンと同じ格好の青年のフィギュアもある! お父様やお母様と一緒の格好のフィギュアも。

 てことはこれ……もしかして……。


 コスプレパーティー!?


 うわ、こういうのって異世界共通なんだ。

 日本の友達にもいたんだよ、コスプレにハマってる子が。

 絵本か小説か漫画かなんか、そんなようなもののキャラクターになりきったコスプレイヤーの集まりなんだね、これ。

「ダン!」

 えーと、『コスプレ』ってトーラ語で何て言うんだろ? えーと、えーと……。

 悩む私の頬をダンが撫でる。

「幸せだろう」

 え? 幸せ? この格好するのが幸せってこと?

 やっぱコスプレイヤーか。

 うーん、ダンにこんな趣味があるとは、人は見かけによらないんだね。びっくり。

 ダンに手を引かれておじいさんの前まで行く。このおじいさん、たぶんコスプレ協会の会長さんだ。

 おじいさんは大きく息を吸い、満面の笑みで突如歌い始めた。


 あなたは~一生これを愛しますか~?

 心の支えにして~生きて行きますか~?

 命が~燃える程~楽しみますか~?


 うわ。おじいさん、踊りながらもの凄く気持ちよさそうに歌ってる。ミュージカルっぽいなぁ。

 『これを愛しますか』ってコスプレを愛するか訊いてるのかな?

 変な歌詞……って、う、周りの人達も歌いだした。


 さあ~! その愛を教えて~!


 ……げ。みんな踊ってる。

 回ってるよ。クルクルクルクル回ってるよ。むしろ回ってない私達の方がおかしいみたいじゃない。

 これはキツい。ヤバイ集団のヤバイ儀式だ。

 出来れば関わり合いになりたくない。って言うか、もう帰りたい。


「はい! 一生愛します」


 あ、ダンが元気よく返事しちゃった。

 その上ダンは、唖然としている私に小声で命令する。

「サツキ、誓え」

 ええ!? いや、私別にコスプレにそんな思い入れはないんだけど。

 それにこんな怪しい集団の仲間入りはちょっと……。

「サツキ」

 うーん……、でも好きな人の趣味は理解してあげたいし、お父様とお母様も人一倍踊ってるし……、一応返事しておくかぁ。

「はい」


「わー!!」


 周りの人達が歓声を上げる。そして――。

 え!? な、何!?

 一斉に何かを投げつけてきた。

 痛い痛い! なにこれ!

「サツキ!」

 ダンが私を抱き上げて走る。


 祝福を――!


 あれ? 今何か頭の中で響いた気がするけどなんだろ……ってそんなこと悠長に考えてる場合じゃない!

 建物の外へ出て、そこで待ってたホワイトタイガーに乗る。

 走りだすホワイトタイガー。

 うわ! 早い!

 必死でダンにしがみ付く。

 もう! いったい何なの!? 訳が分からない!

 鬼は外的なやつ!? コスプレパーティーに節分要素混ぜてみましたみたいな!? 

 少し走ると、ダンはスピードを落として私の背中を撫でた。

「サツキ、大丈夫か?」

 優しい瞳が私を覗き込む。

「う、うん。でもこれ――」

 何なのと訊こうとした時、また体に何か当たる。

「痛い!」

 何!? 手元に転がった物を拾う。

 これ……、花の種かな?

 いったい何処からだろう、と顔を上げた私は驚愕した。


 オシャレ原始人が巨大なウサギに乗って笑ってる……。


 え、これは幻? ウサギ、このホワイトタイガーより大きいんですけど……。

 それによく見ると、このオシャレ原始人誰かに似ている気がする。誰だっけ?

「きゃあ!」

 ダンが私を抱きしめてスピードを上げる。

 謎のオシャレ原始人を引き離し、どんどん走っていくと……ん? あれ? なんか賑やかな音楽が聞こえ始めた。

 今度は何だろう?

 スピードが落ちたのでダンの腕の中から顔を出す。

 あ、大通りだ。だけど、様子が全然違う。

 嘘……、コスプレイヤーがいっぱい。赤ん坊から老人まで、みんなコスプレしてる……。

 建物も旗や花で派手に飾り付けられ、屋台みたいなのが並んでる。

 あ、楽器を演奏してる人達がいる。さっきから聞こえている音楽は、この人達が演奏してたんだ。

 少し前に通った時は無人だったのに、この変わりようは凄い。

 ダンが私を抱えてホワイトタイガーから下りる。

 人々がわっと寄ってきて、ダンと驚く私の手を引いて輪になる。そして……。


 マイムマイム!?


 メロディはちょっと違うけど、マイムマイムだよね、これ!

 うわ、小学生の頃運動会でやって以来だよ。

 みんな超楽しそうに踊ってるよ。

 何故マイムマイム? そして何故みんなコスプレ?

 やらされてる感はない。みんな心から楽しんでるよ。

 あちこちから聞こえる『おめでとう』の声もいったい……。

 うーんうーん。……あ!

 分かった! コスプレパーティーじゃなくて、コスプレ祭りだったんだ。

 国を挙げてのコスプレ祭り。トーラはこの世界のコスプレ発祥国……かも。

 うん。きっとそうだよ。そういうことにしておこう。深く考えると頭がおかしくなりそうだから。


 今日はコスプレ祭りの日!


 日頃の悩みやストレスを発散させる為にみんなコスプレして踊ってるんだよ。

 いつの間にかお父様やお母様、オシャレ原始人達も加わり、クタクタになるまでマイムマイムは続く。

 そして散々踊った後は、飲めや歌えやの大宴会。朝から変な木の実しか食べてなかったから、これは嬉しい。

 みんな「沢山食べろ」と言って私の前に次々料理を置く。

 小さな女の子達は何故か私やダンにベタベタ触り、そんな女の子達にダンは背中の羽根をむしり取って渡したり、私が身に付けているブレスレットや髪飾りをあげたりした。

 貰った女の子達は大喜びでクルクル回る。ブレスレットとかは貰ったら嬉しいだろうけど、羽根なんか貰ってどうするんだろ。

 そんな感じで夜になるまで大騒ぎして、祭りはお開きになった。

 拍手と城から聞こえる鐘の音が……あれ?

 私は城を見上げて首を傾げた。

 城の形が変わってる?

 大きくなったというか増えたというかガッシリなったというか、そもそもこんなに近かったっけ?

 変形して移動した? ……ってそんな訳ないか。

 鐘の音が鳴り響く中、私とダンはホワイトタイガーに乗って屋敷に向かう。

 はぁ……、疲れた。

 やっぱトーラは異世界なんだなぁ。色々変な体験した気がする。

 帰ったらすぐ寝よ。

 私はあくびをしてダンに凭れた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ