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サツキとダンの新しい世界  作者: 手絞り薬味
サツキとダンの新しい世界
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第20話ダン編    ついに迎えた式当日

 朝四時――。

 嬉しくて早く目覚めてしまった……。

 今日は待ちに待った結婚式当日。

 俺は起き上がると着替えと洗顔を済ませた。

 本当はサツキが起こしにきてくれるまで待ちたいが、今日ばかりはそんな我が儘を言ってられない。

 準備を整えて時計を見る。

 まだ時間が早いな。

 心を落ち着かせる為に腕立て伏せをする。

 一心不乱にやっていると、ノックの音がしてヤンが現れた。


「起きてください。サツキ様の準備がそろそろ整うみたいですよ――ってダン様、汗だくじゃないですか」


 ヤンに言われて気が付く。

 しまった。やりすぎたか。

 慌ててヤンに手伝ってもらい、汗を拭いて着替える。

「気持ちは分かりますが、落ち着いて」

 苦笑まじりに言われる。恥ずかしい。

 深呼吸をして胸の高鳴りを抑えてからサツキの部屋に行く。

 ノックをしようとしたら、ちょうどサツキが出てきた。

 ああ、今日はまた一段と可愛く見える。

 片膝を付いて手の甲に口付ける。

 もうすぐこの可愛いサツキが俺の妻になるのだ。

「行こう」

 サツキの手を引き玄関へ。

 その途中でサツキが訊く。

「ダン? 何処行くね」

 サツキにはまだ結婚式のことを言っていない。

 気付くまで黙っていよう。きっと驚くだろうな。

「いいところだ」

「いいところ?」

 首を傾げるサツキを連れて玄関まで行きドアを開ける。

 そこには既に準備が完了したチャマが待っていた。

 早速乗って神殿に向かおうと思ったのだが、サツキが何故か俺の手をギュッと握り足を止める。

「ちょーっとダン!」

「ん?」

 どうしたのかと顔を見ると、酷く強ばっていた。

「あれ……」

 サツキがチャマを指差す。

「チャマがどうした?」

 ブンブンと首を横に振りサツキが叫ぶ。


「『ホアイトタイガア』ね!」


 ん? 何と言った? ホアイ……?

 サツキを引き寄せようとしたら、脛を蹴られた。痛い。

「駄目ね! 怖い!」

 怖い……、ああそうか。俺は漸く気付いた。

 サツキはチャマの実物を見るのは初めてなのだな。

 サツキの部屋には『子チャマ物語』という生まれたばかりのチャマの姿を描いた絵本があったが、これは絵本と違い成獣であるし、初めてなら少し怖いかもしれない。

 実際にはチャマはとても大人しくて賢いトーラの『国獣』であるのだが。

 しかもこのチャマは第三王子が貸してくださったもので、通常の黄と黒の縞模様ではなく、白と黒の縞模様という珍しい色違いのチャマなのだ。

 俺は暴れるサツキを抱き上げてチャマに近付ける。

「大丈夫だ」

「大丈夫違うね! ギャアァー!」

 チャマがサツキに擦り寄る。

 うむ。さすがは王子のチャマだ。サツキの気持ちを和らげようとしているのだな。

「怖くない」

 サツキの動きが止まった。分かってくれたようだ。

 鞍の上にサツキを乗せて、俺もその後ろに乗った。

「行こう」

 チャマをゆっくりと走らせる。

 サツキがよろめいたので後ろから支えた。

 住宅街を抜けて王都一の繁華街へ。

 まだいつもと変わらぬ状態だが、もう少ししたら祭りの準備が始まるだろう。

 今回は創造記念祭りと同時に俺達の結婚祝いもしてくれるそうだ。

 今日は世界中で祭りが執り行われるが、その中でもトーラの創造記念祭りは特に華やかだから、サツキも驚くだろう。

 繁華街を抜けて神殿へ少し急ごうか……と手綱を握り直す。

 その時、突然サツキが叫んだ。

「ダン!」

 何かと思ったら、城を指差して振り向く。

「あれ! 城ね」

 あぁ、城だが?

「あっち行くよねー!」

 城に遊びに行くと思ったのか。

 ハズレだ、サツキ。

「また今度な」

 頬を膨らませてサツキが前を向く。

 もしかして城に行った事がないのか?

 では今度連れて行ってやろう。

 そうだ、チャマの飼育小屋にまだ生まれたての子チャマがいたな。

 それから騎士の訓練を見学するのもよいか。

 俺は煩わしいのが嫌いなので普段夜会には参加しないのだが、サツキと一緒なら出席しても良いかもしれない。うむ。

 それはまた落ち着いてから考えるとして、今は神殿へ行こう。

 サツキもチャマに慣れてきたようなので少し速度を上げて走る。

 まだ誰もいない道の真ん中をどんどんと走って行く、が、ふとサツキが無口になって俺の腕を強めに握っていることに気付いた。

 そういえば一度も休憩をとってなかった。

 俺にはたいしたことがない距離でも、華奢なサツキには辛かったかもしれない。

「サツキ」

 サツキが振り向く。

「ん?」

「疲れたか?」

 サツキは首を横に振り眉を寄せた。

「何処行くね」

 ちょうどその時、前方に神殿が見えてきたので俺は指差してサツキに教える。

「もうすぐそこだ。ああ、見えてきた」

 荘厳――と呼ぶに相応しい佇まい。

 かつては神が降臨し、人々に知恵を授けたと言われる場所。

 俺達はトーラ最古の神殿に辿り着いた。

 神殿の門前でチャマを止めて降りる。

 こうして見上げると、色とりどりに塗られ、建物上部にある神殿の象徴も素晴らしく芸術的だ。

 サツキも驚いている。

 俺はサツキの手を引き門の中に入った。

 すると神殿のドアが開いて男女二人の神官が現れる。


「こちらでございます」


 神官に案内されて、チャマを置いて建物の中に入った。

 ここからは少しの間だけサツキと別々にならなくてはいけない。

 俺は握っていたサツキの手を離す。

「ダン!」

 サツキの声に後ろ髪引かれるが我慢だ。

「また後で」

「え……!?」

 男性神官の後に付いて行く。

 チラリと後ろを見ると、サツキも女性神官の案内に従って歩いていた。

「どうぞ」

 通された広い部屋、そこで服を脱ぎ更にその奥へ。

 地下から湧き出る聖なる湯で体を清める。

 部屋に戻ると、カタヤ夫妻が用意してくれた結婚式の衣装を神官が持って待っていた。


「なんと……豪華な」


 俺はその衣装に驚いた。

 銀糸で織られた最高級の布で作られた衣装――。眩く輝いている。

 おまけに背中の羽根は、トーラでは珍しいコケコの羽根ではないか。

 これ程までに素晴らしい衣装を作ってくださるとは、カタヤ夫妻には感謝しなくてはならないな。

 神官に手伝ってもらいながら衣装を着る。

 うむ。ピッタリだ。

「どうぞこちらに」

 次に案内された部屋で、椅子に座ってサツキを待つ。

 早く来てくれサツキ。この姿を見せたい。

 ところが、おかしい。いつまでたってもサツキが来ない。

 どうしたのだ? いやいや、女性は準備に手間取るものだ。

 ……それにしても遅い。

 あまりに遅いので、神官が様子を見に行ってくれた。


「聖なる湯に浸かっておられるそうです」


 ……浸かる。

 普通はサッと入ってすぐ出るものなのだが、女性神官はサツキに教えなかったのか。

 まあ……しっかり清めるというのも良いだろう。

 それから三十分以上して、やっとノックの音が聞こえた。

 神官が「どうぞ」と返事をする。

 俺はサツキを迎える為に立ち上がり、そしてドアが開かれた。


 ……か、可愛らしい!


 あまりの可愛らしさにクラクラする。

 いや、勿論普段も可愛いが、それにしてもなんて衣装が似合うのだ。

 俺はヨロヨロとサツキの元に行き、手を取り片膝を付いた。

「素敵だ、サツキ」

「う……ん。ありがーとねー。ダン、凄いね」

 俺を褒めてくれるのか? なんて優しい。

「ありがとう、サツキ」

 サツキの手の甲に口付ける。

 俺は立ち上がり、先程まで座っていた椅子にサツキを座らせ、その隣に自分が座った。

 女性神官が、テーブルの上に木の実を置く。

 これは『愛の実』だ。

 大昔、神々はこの世界を創り、そして次に一組の男女を創った。

 その二人が愛に目覚めるきっかけとなった木の実だと言われている。

 結婚式の前に、相手への愛の深さの分だけ食べさせる慣わしとなっている。

「サツキ」

 まず一粒。

 サツキの口にそっと入れる。

 ゆっくりとサツキが食べる。

「サツキ」

 『愛の分だけ食べさせてくれ』と言おうとしたら、サツキが残っている愛の実をすべて右手で掴んだ。

「あーん」

 それを一気に俺の口へ。

 サツキ、もしかして愛の実の慣わしを知っていたのか?

 いや、知らなかったとしても、目の前の食べ物をすべて俺に与えようという優しさに感激だ。

 量が多くて少々食べにくいが、この実の多さが俺への愛の深さなのだろう。

 ああ、愛しいサツキ。

 俺はサツキの手を握る。


「サツキ、この先困難もあるだろうが、ずっと一緒に頑張っていこう」


 二人なら、たとえ行く末に壁が立ちはだかろうとも愛の力で破壊していける。

 想いを伝えて立ち上がり、サツキを連れて神官に導かれ歩きだす。

 俺達は長い廊下を進み、両開きの大きなドアの前で止まった。

 深呼吸をして少しだけ握る手に力を込める。


「サツキ、愛している」


 さあ、行こう!

 ドアがゆっくりと開いた。


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