第17話サツキ編 完成披露パーティー
ついに屋敷が完成した。
うーん。大き過ぎの部屋余り過ぎ。やっぱり芸術家を探して住まわせるべきかな。
まあ、それは後々考えるとして、今日はご近所さん達を招いて完成披露パーティーを開いた。
大広間には沢山の人。
初めて会う人達ばかりだけど、みんな凄く着飾ってまさにセレブパーティー。
この周辺って高級住宅街みたいだから、集まる人達もセレブばかりで当然だよね。私もお母様が選んだピンクのヒラヒラドレスにネックレスやら指輪やらを着けて着飾っている。
あ、髪飾りはダンからのプレゼント。一見お花みたいな不思議な宝石が付いた髪飾りなんだけど、大広間に入る直前にダンが私の頭に挿したの。結構高そうな代物だけど、せっかくだからありがたく戴いておくことにした。
さて、パーティーの始まりだよ。
私達家族とダンは部屋の奥の方に立ち、お父様が来てくれた人達に挨拶をする。
「今日は二人の為に来てくれてありがとう」
ん? 二人?
お父様ったら、ダンはともかく私の存在忘れてる?
ちょっと待ってよお父様! ……って大きな声で注意したいけど、こんな注目浴びてる状態で間違いを指摘したらお父様が笑われちゃうかも。
う……。仕方ないから我慢……でも気になる。なんて思ってたら、ダンが私の肩に手を置いた。
「サツキ」
上を向くとダンと目が合う。ポンポンと慰めるように肩を叩かれた。
あ、ダンもお父様の間違いに気付いてくれたんだ。
『忘れるなんて酷いよねえ、お父様』
って心の中で言ったらダンが頷く。
おお? 以心伝心? ちょっと凄いじゃない。
感動してたらいつの間にかお父様の挨拶が終わっていた。
ワッと拍手が起こり、一応ニッコリ笑って愛嬌を振りまく。
招待客達がバラバラと散って周りの人達と談笑したり料理を取ったりし始めたので、私は急いでお父様に抗議をした。
「お父様、二人じゃないよ。私もお父様とお母様と一緒の家族だよ。忘れないで」
するとお父様は目を見開いて驚いて、私をギュッと抱き寄せた。
「ああ! そうだな。ありがとうサツキ」
もしかして大勢を前に緊張してたのかな? 分かってもらえたみたいだし、許してあげる。
「サツキ、ダンとあっちに行っておいで」
お父様に言われて、私とダンは二人で広間のど真ん中に行った。
私達が部屋の中心に立つと、招待客が次々にお祝いの言葉を言いに来る。
「おめでとう」
「ありがとうございます」
何度も繰り返し、やっと挨拶も終わりかな? と思った時、五十代くらいのグレーの髪をオールバックにした男の人が私の前に立った。
「おめでとう」
「ありがとうございます」
男の人はニコニコと笑いながら私の頭に手を置く。
「こんなに可愛いなんて思わなかった。これは幸せだな、ダン」
そう言いながら私の頭をグリグリと撫でる。
ん? 何このおっさん。やけに馴れ馴れしいなぁ。歳の割にマッチョな体つきや雰囲気から考えると、もしかしてダンの上司?
一応愛嬌を振りまいておこうかな……と思った瞬間、ダンに腕を引っ張られた。
「隊の長! 触らないでくれ」
ダンの太い腕に抱かれ、ギュッとされる。
あ……、やっぱり上司か。ダンに宴会芸を無茶ぶりした人だよね。
上司は一瞬ポカンとして、それからすぐに大爆笑し始めた。
「そうかそうか。悪かった、良かったな」
バシバシとダンの腕を叩きながら笑う上司。衝撃がダンの腕の中の私にまで伝わってきて痛いよ。
そしてその時、背後から聞こえてきた笑い声。
「ウフフフフ」
この聞き覚えのある不気味な笑いは……。
ダンが私を離す。振り向くとやっぱり! ニナだ。
ニナは胸元が大きく開いて胸がポロッとこぼれそうなセクシードレスを着ている。
来てたんだ。まあダンの彼女だし来てたとしてもおかしくないけど。
「おめでとう」
「ありがとう」
ニナが唇を引き上げてニッと笑う。
「仲良しね」
あ……。
私はダンから慌てて離れた。また泥棒猫呼ばわりされたら嫌だものね。
「サツキ」
ところがダンが私に向かって手を伸ばしてきた。
ちょっと! 何よもう!
引き寄せようとする手を叩く。
「おいおい、それは今からどうする」
本当に! 何よこの手は。
ダンってば空気読めないよね。上司、もっと言ってやって!
……ところで、ニナの後ろにいる冴えない男の見本みたいなのは誰? 寝てるのか起きてるのか分かんない目に小太り、背も低い。
私の視線に気付いたニナが男を紹介する。
「サツキ、私のリックよ」
私のリック? 何それ。
「はじめまして。リックです」
リックが会釈する。
「はじめまして」
挨拶されたから挨拶を返す。
ニナがリックの背中を叩く。
「乾杯しましょう。飲み物を取ってきて」
あ、そうか分かった。この人、ニナの下僕だ。
リックが近くのテーブルから飲み物を持ってきて私達に配る。
「乾杯!」
グイッと飲むと、上司がガハハと笑った。
「いい飲みっぷりだな」
「ありがとう」
そうだ! 今日の為に私、お寿司を作ったんだった。お祝いと言えば寿司だよね!
私はテーブルの上に置いてあったお寿司を持って来た。
カリフォルニアロールっぽいやつなんだけど、珍しい料理だから敬遠されてるみたいで、誰もまだ手を付けていなかった。
「これは……?」
上司が顎に手を当てじっとお寿司を見る。
「私の国の料理です」
「ほおー。国は何処なんだ?」
「日本です」
「ニホン?」
上司が首を傾げる。
異世界だから知らなくて当然だよね。
「トーラでは知られていないと思います。小さい国ですよ。はい、どうぞ。食べてみて下さい」
お皿を上司に差し出す。
「サツキ!!」
ん? 何よ。
ダンが大きな声を出すから、周りの人達が驚いて私達に注目したじゃない。
「それは……」
何だろ? 食べたいのかな。
仕方ないなぁ。
一切れ摘んで差し出す。
「はい」
「う……」
「ほら」
ダンが屈んで口を開けたから、お寿司をポイと放り込む。
ダンは真剣な表情でゆっくりと味わうように咀嚼して、それから驚いたように目を見開いた。
「……美味い!」
周りからクスクスとした笑い声が聞こえる。ダン、笑われてるよ。
食べさせてもらうなんて子供みたいだもんねぇ。本当に手が掛かる男だよ。
将来もし結婚したら、ニナは大変だろうね。
……結婚したら?
…………。
何だろ、なんだかモヤモヤした気分。
凄く腹が立つ。今すぐダンを殴り飛ばしたい。
どうして……?
「一つくれ」
上司に言われてハッとする。
いけないいけない、ボーッとしてた。
「どうぞ」
ニッコリ笑って皿を差し出す。
「美味いな」
「ありがとうございます」
ダンと上司が美味しいって言ってくれたからか、周りにいた人達も寄って来て次々にお寿司を摘む。
「美味しいわ」
「うん、美味しい」
おお? 凄いじゃない。
もしかして、トーラ人の味覚にお寿司って合ってるのかな? お寿司屋さんオープンしたら流行るかも。そうなったら私は社長さんか。うーん、それもいいかも。
そんな事考えながらダンを見ると……ニナと顔を寄せ合って話をしている。
……へえ。仲睦まじいじゃない。
…………。
「君みたいな子に会って良かった」
ん? あ、上司。何よ、何か用?
「ダンは変わってきた」
「変わる?」
「顔が良くなった」
うん? 顔?
出会った時から特に変わり無いと思うけど。
「ダンを頼むよ。君に任せれば大丈夫だ」
何言ってんだろ、この人。頼む? ダンを?
よく分かんないけど……ダンは手が掛かる子供みたいな男だから心配なのかな?
……うん、そう、そうだね。大家さんとして下宿人の面倒はしっかりみるよ。
「頑張ります」
「ありがとう」
上司が私の頭に手を置いた、その時――。
「きゃあ!」
え!? 何? 浮いてる……ってダン!?
無表情なダンの顔が目の前にある。
急に抱き上げないでよ! びっくりするじゃない!
いや、それより何で抱っこされなきゃいけないわけ?
上司とニナが爆笑して、他の人達もクスクス笑っている。
私はチビだから、『お父さんに抱っこされてる子供』みたいに見えるんだろうなぁ。恥ずかしいよ、もう。
はあぁ、困った男。上司が心配するのも当然だよね。
図体ばかりでかい子供だもん、放っておけないよね。
だから……私が面倒見てあげる。うん、そう、仕方ないから。
ダンの頭を右手でペシペシ叩く。
それにしても、お寿司のお皿を落とさなかった私、偉い!