第16話ダン編 嬉しい告白
もうすぐ完成だな……。
暖かな日差しが降り注ぐ中、俺とサツキは庭でお茶を飲んでいる。
今日は仕事が休みなので、こうしてサツキとゆっくり出来るのが嬉しい。
屋敷は大きい工事が終わって今は内装をやっている。
カタヤ夫妻は俺達の為に素敵な部屋を用意すると言っていた。どんな部屋になるのか、今から楽しみだ。
サツキも先程からずっと屋敷を見つめているが、きっと俺と同じ気持ちなのだろう。
屋敷を見つめるサツキの可愛い横顔を見ていると、不意にサツキがこちらを向いて、軽く目を見開いた。
しまった。じっと見すぎていたか。
サツキが軽く眉を寄せたので怒られるかとヒヤヒヤしたが、しかしサツキはパッと明るい表情になり、俺にとびきりの笑顔を見せてくれた。
とたんに俺の心臓がドクリと大きく鳴る。
本当に、こんな愛らしいサツキと結婚出来るなんて夢みたいだ。
サツキが屋敷をチラチラ見る。何かを考えているようだ。
口元が緩んでいるので、楽しい事を考えているとすぐ分かる。
「サツキ」
声を掛けるとサツキが振り向く。
「ん?」
「何を考えている?」
やはり俺達の部屋の事か?
サツキは俺にニコッと笑い、話し始めた。
「屋敷、人ない部屋、芸する人住むね!」
「芸する人……?」
空き部屋に芸人を住まわせると言うのか?
確かにお抱えの芸人が居る屋敷もあるが……、サツキは大道芸や奇術が好きなのだろうか?
「絵を描く、音楽する、踊る、本書く、芝居する」
ああ、芸術の事か。
では芸術する人とは芸術家か?
「そして頭のいい子供、いっぱいね!」
「…………!」
な、何だって!?
『頭の良い子供』、それはつまり……俺達の子供の事か?
なんと、サツキはもう子供の話をしているのか。しかも英才教育を考えているのだな。
芸術をする――つまり絵や音楽、踊りなどを教えて感性を育て、本でしっかりと勉強し、頭の良い多方面で活躍出来る子を育てようというのか。
屋敷の部屋が埋まるくらい沢山の子供が欲しいだなんて……そんな……なんて嬉しい事を言ってくれるのだ。
俺もサツキとの子供なら何人でも欲しい。
「いい考え思うか?」
可愛いサツキと愛らしい子供達に囲まれた光景を想像していると、サツキが身を乗り出して俺に訊いてきた。
「あ、ああ。素晴らしいよサツキ」
慌てて頷くと、またもやとびきり可愛い笑顔を見せてくれた。
子供は是非サツキ似の女の子が欲しいな。
いやでもやはり男の子も――。
「そうだ、俺が剣を教えよう」
「剣?」
俺の父親も騎士だった。
俺が騎士になると同時にあっさりと辞めて母と田舎に行ってしまったが。
小さな頃、よく父さんは俺に剣を教えてくれた。
父さんは、まだ子供の俺に、玩具の剣ではなく本物の剣を持たせ、その上本気で叩きのめした。
当時はそれが普通だと思っていたが、大人になった今考えるとあれはやり過ぎだな。
それでも騎士としての父さんを俺は尊敬していた。だから俺も騎士になった。
子供が大きくなって騎士になれば、一緒に働く事も出来る。勿論強制するような真似はしないが、そうなれば嬉しい。
更に鍛練をして『お父様のような立派な騎士になりたい』と言われるようにならなくてはいけないな。
「うん。頼むね。名前どれにするか?」
名前……か。
男の子なら勇気と優しさを兼ね備えた、女の子ならサツキのように可愛く愛らしい花のような名にしたいな。
そういえば『サツキ』とは、どういう意味なのだろう? トーラでは聞いた事のない言葉だ。
「『サツキ』とはどういう意味なのだ?」
俺はサツキに訊いてみた。
「んーと、だぶんね『五つの月』ゆう意味」
ほお、『五つの月』? 変わった名だな。
しかし、夜空に月が五つ浮かんでいる様子を想像すると、成る程これは幻想的で美しいではないか。
サツキという名前を考えた人物――おそらくサツキの両親は、優れた感性の持ち主だったのだろう。
「素敵な名前だな」
俺が言うとサツキは嬉しそうに笑った。
「ありがーとーね」
サツキに向かって両手を伸ばす。
「『サツキ』のように素敵な名前を一緒に考えよう」
サツキも両手を俺に向かって伸ばす。
「楽しいね!」
「楽しみだ」
二人で協力して素晴らしい家庭を作り、そして子供達を立派な大人に育てよう。
俺達はしっかりと手を握りあった。