第15話サツキ編 手が掛かる下宿人
「おはようございます」
マチルダに揺さ振られ、私は目を覚ました。
「…………」
部屋の中が暗いよ、マチルダ。
時計を見ると……あー、やっぱり五時三十分。
この世界の時間も日本と同じ二十四時間制なんだよね。
覚える手間が省けて良かった……って、今はそんな話じゃなくて。
「眠い」
「駄目です」
う。掛け布を引っぺがされてベッドから引き摺り下ろされた。
仕方なく顔を洗って着替えて髪も整えて、部屋を出る。
うー。眠い。なんで私がこんなに早く起きなきゃいけないの!
まったく、こんなに大変だって知ってたら、下宿を勧めなかったのに。
私はダンの使っている部屋の前に着くと、ノックも無しにドアを開けた。
「こら! 起きろ!」
繰り返し言いながらベッドまで行く。
「起きて、朝だよ。仕事に遅れるよ」
今日は早出の日なんだからね!
ベッドに上がり、掛け布に包まるダンを何度も叩くが反応無し。
本っっ当にもう!
ダンってなかなか起きてくれないんだよね。
だから忙しいマチルダが、私にダンを押し付けてくるんだよ。
「起きてってば!」
必殺ヒップアタック!
「おはよう、サツキ」
ようやくダンが目を開けた。
毎日毎日、ヒップアタックでしか起きないなんて……はぁ、疲れる。
体を起こしたダンが、私の手を握って甲にチュッとする。
……起こしに来る度になんで手にキス? まあいいけど。
「ほら、着替えて」
ベッドから下り、テーブルの上に用意されている騎士の制服をダンに渡して私は背中を向ける。
そのまま少し待っていると衣擦れの音が止み、振り向くとダンが着替え終わっていた。
着替え終わっていたんだけど……、どうしてヨレヨレ? せっかく格好いい制服なのに。
手をチョイチョイと振ると、ダンが屈む。
襟を整え皺になってる部分を引っ張って伸ばし、洗面所に連れて行った。
「顔洗って」
桶に入った水で顔を洗わせ拭いてあげ、髪を梳かしてあげて――ってお前は子供か!
ダンってば、よく今まで一人でやってこられたね。服一つ一人じゃ満足に着られないのに。
食堂に連れて行って、一緒に朝ご飯を食べる。
その後お茶を飲んでいると、まだ早朝だというのに人がぞろぞろやってきて、工事が始まった。
うーん、なんか凄いスピードで改築されていくなぁ。
うちもダンの屋敷もそれほど劇的に変わるわけじゃないみたいだから、結構早く工事終わるかな?
ダンがうちに下宿するのを決めた日、その事をお父様お母様に言ったら二人とも凄く喜んでくれた。
そして速攻でマチルダに大工さんを呼びにいかせ、ダンの荷物をうちの屋敷に運んで、もうその日からガンガン工事しはじめたんだよね。
お父様ったら「早く完成させる」って言って、凄く張り切ってるよ。
そんなに大きな屋敷になるのが嬉しいのかな?
それにしても……。私は頬杖をついてダンを見る。
朝ごはん食べた直後によくこれだけのケーキがお腹に入るよね。寝起きとは思えない食べっぷりだよ。
思わずじーっと見ていると、ダンが顔を上げて時計をチラリと確認した。
あ、出勤時間だ。
ダンはテーブルに残っていたケーキを綺麗に食べて立ち上がった。
私も立ち上がり、ダンをもう一度洗面所に連れて行って歯磨きさせてしっかり身だしなみチェック。
うん。いいね。
玄関に行って、私は手を振った。
「いってらっしゃい」
早く行ってよ。私、もう一度寝るんだから。
「うむ」
ダンが頷いて私の手を取り甲にキスし、背を向けて歩いて行く。
だからなんでキス?
まあ…………いいけど、ね。