第14話サツキ編 素晴らしい提案
トントントン。
私は背伸びしてダンの屋敷のドアノッカーを叩いた。
でも応答無し。
トントントン。
もう一回叩いたけどやっぱり応答無し。
うーん、居ない? いや、聞こえて無いのかもしれない。
よく考えたらさぁ、このドアノッカーって音小さいよね。こんなでっかい屋敷なのに、こんな小さい音聞こえる訳ないじゃない!
よし、ドアを開けよう。
ドアノブを掴んで引っ張った……けど開かない。押しても開かない。
鍵が掛かってるのか。
「ダンー! ダンー!!」
呼んでみても返事なし。
私はダンの名前を呼びながら屋敷の外壁に沿って歩いた。
「おーい、ダン! 居ないのー?」
うーん、やっぱ居ない? 帰ろうかなぁ……て、あ! 窓が開いてる!
なんだ、居るんじゃない。
窓から中を覗くと、大きなベッドの上でうつ伏せに寝ているダンを見付けた。
「ダン!」
あれ? 起きない。熟睡してるのかな。
私は窓をよじ登って部屋の中に入り、ベッドに上がってダンの体を揺さ振った。
「ダン、起きてよダン!」
するとダンがゆっくり顔を上げ……飛んだ。
正確にはジャンプして後ろに下がったんだけど、ジャンプ力が凄くて一瞬飛んだように見えた。
ベッドがボヨンボヨン波打ってるよ。
「サ、サツキ、ここにどうして」
ダンは小刻みに震えながら私をじっと見る。
もしかして、もの凄ーく警戒されてる?
何しにきやがった! とか思ってるのかな。
「ダン、話があるの」
「話……?」
「うん。あのね――」
私は這うようにしてダンに一歩近付いた。
「一緒に住もうよ」
「え……?」
「新しい屋敷にダンも一緒に住もうよ」
あれだけ部屋があったらダン一人くらい下宿させたって大丈夫だよね。
ちょっと建て替えちゃうけど、同じ場所に住めるんだからダンにとってもいい筈。
凄い私、ナイスアイディア! これで問題は解決だよ。
「ね」
私は満面の笑顔でダンに言った。
「…………」
ん? ……嫌がってる? ダンが眉を寄せて動かない。
ちょっとちょっと! 私の素晴らしい提案にケチ付けるっていうね!?
プチッとキレそうになったけど、ううん、駄目。冷静にならなきゃ。
お父様の夢が掛かっているんだから、ここは根気よく説得だよ!
「ダン、一緒に住もうよ」
ダンは考えている感じだったけど、少ししたら首を横に振った。
「駄目だ」
う。手強い。ダンのくせに。
えーとえーと、どう言えば分かってもらえるかなぁ。
「一つ屋根の下、ダンと住みたいな」
和気あいあいみたいな感じ? きっと楽しいよ。
お菓子だって食べ放題なんだから!
「…………」
あれ? ダンが固まった。
どうしたの? 駄目なのかなぁ。
「ダン……」
「えぇえええー!!」
うわあ! びっくりした。
なになに? 急に叫んで。
ダンは真っ赤になって後退る。
うん? 怒ってるのかな。
でもここで引き下がれないよ。
「待って!」
えい! と飛び付いて逃げるダンを捕まえた。
「お願いダン」
上目遣いでダンを見つめる。
日本にいた時、テレビでタレントさんが『女の上目遣いに男は弱い』って言ってたから、きっとダンもコロっといく筈だよね!
じ~っとダンの目を見つめ続ける。
ダンも私の目を見つめる。
「…………」
おーい、まだぁ?
早く何とか言ってよ。首が痛い。
「ごめん! サツキ!」
うぎゃあぁあああー!!
痛、苦し、息、息が出来ない!!
ダンが私の体をギュウギュウ締める。
何で!? 苦しい! 殺されるの、私! そこまで憎まれてるの!?
あ……、力が弱まった。
ぶはぁ! 息が出来る~。はあ苦しかった。
零れた涙をダンがごつい指で拭った。
う……、危うく死ぬところだった。
ダンがここまで怒ってるなんて……そっか、もう無理だね。いい考えだと思ったのに残念だよ。
そっか……うん……仕方ないよね……。
「サツキ、分かった」
そっか……分かった……分かった!?
「え!? 本当?」
ダンは穏やかな表情で頷いた。
「今からおじ様とおば様に挨拶に行こう」
「…………」
「サツキ?」
本当に……? ダン、分かってくれたんだ。
「やったあ!」
嬉しさのあまりダンのホッペにチュッとキスした。
あ、ダンったら茹でダコみたいになって俯いちゃった。うん、可愛いじゃない!
「用意するから少し待っていてくれ」
「うん」
そうだよね。寝起きだから顔洗ったりしなきゃね。
ダンに客間っぽい所に連れて行かれて、私はそこでダンの身支度が整うまで待った。
暫くして来たダンは、まるでパーティーにでも行くような格好してたけど……何でかなぁ。ま、いっか。
「サツキ、行こう」
「うん」
ダンが手を差し出してきた。
え? 手を繋ぎたいの?
子供みたいな所があるんだね。仕方ないなぁ、ダンは。
ダンの掌に、自分の掌をのせる。
よーし、行こう! カタヤの屋敷へ!
お父様、喜んでくれるかな?