第13話ダン編 軽率だった
俺はなんて馬鹿なのだろう。
年頃の娘の居る屋敷を度々訪問するなど非常識だった。誤解されても仕方ない。少し考えれば分かる事なのに……。
両親からの手紙は、おそらくこの事を指摘していたのだろう。
ベッドに寝転がり、俺は溜息を吐く。
騎士らしい振る舞い……か。
うむ、そうだな。騎士らしく潔く――サツキから離れよう。
この屋敷を手放す決心はついた。昨日、騎士宿舎を借りる手続きもした。
隊長は『お前、自分が伯爵様だと分かっているか?』と呆れていたが、だからなんだ。伯爵は騎士宿舎に住んではいけないという規則でもあるというのか? そんなものは無いだろう。
だいたい爵位など父さんから引き継いだだけで、己の功績で手に入れたものでもあるまいし、俺にとっては意味無いものだ。
後は身の回りの物を鞄に詰め込んで出て行くだけ。
そうだ、今夜にでも出て行こう。こういうことは、早めに決行するのが一番だ。
サツキは俺となどもう顔も合わせたくないだろうから静かに……。
……サツキ。
もう会えないのか。
いや、これも自分の軽率な行動が招いた結果、自業自得だ。
サツキには好きな人がいる。俺の存在は迷惑なだけだ。
でも――。
サツキ……。
最後に一目、遠くから見るだけでも……いや、駄目だ。
未練がましい行動をしてはいけない。騎士らしく、潔く、だ。だが……。
ギュッと目を瞑り頭を振るが、サツキの笑顔が頭の中から離れない。
折れそうなほど華奢な体、短いが艶やかな黒髪、つぶらな黒い瞳、可愛い唇――。暗い過去にも負けずに、いつも明るいサツキ。優しくて愛らしくて――だから駄目だ! 俺は何を想像している。
両手で自分の頬を叩き、頭を掻き毟る。
仕方がないのだ、俺は離れなくてはならない。もう忘れるんだ。サツキは他の誰かが好きなのだから。そう、他の男が……。
ダン……ダン!
あぁ、幻聴まで聞こえるではないか。これはどういうことだ。
俺の頭はどうにかなってしまったのか?
サツキ……。
会いたい。