第13話サツキ編 ひらめいた!
ダンが来ない。
追い返しても追い返してもしつこくうちに来ていたくせに、もう五日も来ない。
やっぱり屋敷を売られたのがショックだったのかな?
私と違って住み慣れた場所を去るのは、ダンにとって辛い事なんだね。
あれからお父様は凄く怒っているから、ダンを強制退去させるかもしれない。
そうするとダンは……何処に行くんだろ。
ベッドでゴロゴロしながらそんな事を考えていたら、ノックの音が聞こえてマチルダが入ってきた。
一瞬ダンの来訪を告げに来たのかと思ったけど、マチルダの手にはお盆が載ってて、その上には紅茶とケーキがあった。
「サツキ様、どうぞ」
マチルダはサイドテーブルに紅茶とケーキを置く。
ケーキ……。
ダンってば毎日うちで甘いお菓子を食べてたから、今頃禁断症状で苦しんでないかな。
……持って行ってあげようかな。
でも私は言わば敵の娘、歓迎される訳ないよね。
そんな事考えながらじっとケーキを見ていると、不意に声が聞こえた。
「意見が合わない時もあります。でもそれも二人なら分かりあえる。愛し合っているからなのです」
……はい?
顔を上げるとマチルダが微笑んでいる。
そしてドアのところに、いつの間にかヤンが立っていた。
「ダン様の屋敷に行って、話し合いをして下さい。愛を持っていればきっと気持ちは通じます」
愛を持って……。
ああ、そうか。つまり自分達夫婦を例に話し合いの大切さを説いているんだね。そして慈愛の精神があれば気持ちは通じる……か。
でもさあ、そんな綺麗事言われてもどうすればいいのか分かんないよ。
「旦那様も奥様も、みんなで新しい屋敷に一緒に住みましょう」
お父様の夢だから叶えてあげたいよ、私も。
新しい大きな屋敷に一緒に……、ん?
ちょっと待って。
私は顎に手を当て、お父様が見せてくれた図面を思い出した。
そうだ、新しい屋敷は確か部屋数がめちゃくちゃ増えていた。という事は……。
私は勢いよく立ち上がり、走った。
そうだ! その手があった!
ダンが私の考えを受け入れさえしてくれたら、問題はすべて解決する。
玄関から外に出て、お隣へ。
門を勝手に開けて庭を走り、ダンの屋敷のドアの前に立って数回深呼吸。気合いを入れる。
「よし!いくぞ!」
私は背伸びをして、少し高い位置にあるドアノッカーを握った。