第10話ダン編 カタヤ夫妻の謎の言動
宿直帰り、いつものようにカタヤの屋敷に直接行き、重い体を客間のソファーに横たえて俺は寝ていた。
「起きるね」
「う……」
サツキ……?
「『う』違う!」
頬をバシバシと叩かれて俺は目を開けた。
「眠い……」
「じゃあ自分、屋敷に帰る、寝る」
ああ、瞼が落ちていく。
「ちょっとダン!」
「駄目だ……、眠い……、動けない……」
もうクタクタなのだ。頼むから少し寝かせてくれ。
「ダン!」
パンパンパンパンパンッ!
……痛い。
往復ビンタはやめてくれ。
俺はサツキの手首を掴んだ。
「ダンこら! 離すね」
本当にもう、寝かせてくれ。
「昨夜は……、大変だったのだ」
「なにね!?」
「城の外を見回りしていたら……、突然周囲のかがり火が消え……」
異常な事態に俺は身構えた。
「暗闇の中……、何者かが……背後から俺を……」
斬り付けてきた。
敵は夜目がきくのか、素早い動きで的確に急所を狙ってくる。
「俺は大声で仲間に援護を求めた……」
しかし。
「近くに居る筈なのに……何故か誰も来ない」
数人の班で行動していたのだ。俺の前後には仲間がいる筈だった。
「ダン! まさーか――」
「必死に……見えない敵と戦っていると……、ぼおっ……と火が浮かび上がり……、驚いて見ると……そこには……」
隊長がランプを持って立っていた。
抜き打ち夜間訓練だったのだ。
襲ってきたのはトーラ騎士団の中でも極めて優秀な者達の集まりである特殊部隊。他の者達は皆、最初の一撃を避けきれずに気絶させられていた。
そして不甲斐ない結果に隊長はカンカンに怒り、朝までしごかれてしまった。
「やめるね! ちょっと、ダン!」
ん? なんだ?
サツキが俺の胸ぐらを掴んで揺さ振るってくる。
俺は仕方なく目を開けた。
「……サツキ?」
サツキ、何故涙目だ?
「ダン! なにね、これ――」
バッターン!!
「ぎゃああぁあ!!」
ん!?
ドア付近から聞こえた大きな音。
悲鳴を上げてしがみ付いてくるサツキを抱き止めながら、音のした方を見るよ……。
「え? おとさま?」
全開にされたドアと、床に跪き呆然としているカタヤの当主。その後ろには夫人とマチルダが立っていた。
カタヤの当主は唇を噛みしめ俺を睨み、走り去った。
「え? え?」
サツキが戸惑った声を出す。
何が起こったのだ?
唖然としていると、夫人が頬に手を当てて困ったような表情で笑った。
「まあまあ。気持ちは分かるけど、それはちょっと早いのではないかしら?」
「おかさま?」
「準備しなければいけないわね。ああ、忙しくなるわ」
夫人は意味不明な事を言いながら立ち去り、マチルダが笑ってそっとドアを閉めた。
これは……。
「どうなっているのだ?」
俺の呟きに反応してサツキが顔を上げる。
「……分からーんねぇ」
サツキも眉を寄せ、困った顔だ。
なにがなんだかさっぱり分からない。
俺達は首を傾げ、閉じられたドアを見つめた。