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サツキとダンの新しい世界  作者: 手絞り薬味
サツキとダンの新しい世界
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第9話ダン編     異国の拷問と迷惑すぎる妹

 ニナの騒動の翌日、俺は朝起きてすぐにカタヤの屋敷に向かった。

 昨日はサツキに失礼な事をしてしまった。

 あの後、ニナが夜遅くまで居座った為、サツキに謝罪が出来なかった。まだ怒っているだろうか?

 いつものように客間に入ってソファーに座っていると、すぐにサツキが来る。

 サツキは部屋に入るなり、開口一番こう言った。


「セ・イザ!!」


「……セ・イザ?」

 なんだそれは。

 するとサツキは床を指差した。

「座る!」

 座る?

 なんだか分からないが、床の上に胡坐をかいて座った。

「違ーうね!!」

 違う?

 どういう事かと訊こうとした時――。


「…………!!」


 サ、サツキが、サツキがドレスの裾を捲って足を俺に見せた!

「こう! こうね、座る!」

 サツキは大胆にもドレスをギリギリまで上げ、足を折り曲げて床に座る。

 細く綺麗な足が目の前に……。

 う! い、いけない。

 俺は慌てて横を向いた。

「ダン、こっち見る!」

「サツキ……、足を……その……」

 見せないでくれ。

「ダン! こっち見る」

「う……」

 そんな……、いや、でもサツキが言うので仕方なく、仕方なく! 俺はサツキを見た。

「こうする、座る!」

「う……? うむ」

 俺はサツキを真似て、足を折り曲げて座った。

「ニホンは悪人、セ・イザする、謝る!」

 悪人……?

 謝るというのは、昨日の事だな。

 やはりまだ怒っているのか。

「……うむ」

 妹が迷惑を掛けて、申し訳ない。

 サツキは立ち上がり、俺の正面に椅子を置いて座って腕を組んだ。

「何考える? あの昨日のあった事」

「すまない」

「『すまない』じゃない!」

「すまない」

 サツキの怒りは相当強いようだ。

「なにね? あの女!」

「すまない」

「胸から少し大きい、なにね!」

 胸から大きい……?

 意味は分からないが、謝っておこう。

「すまない」

 しかしサツキは目を吊り上げ、衝撃的な一言を口にする。

「……もう、ここに来る、しないで」

「ええ!? そんな、サツキ!」

 カタヤの屋敷に来るなと言うのか!?

 な、なんとか怒りを静めないといけないが、どうすれば……!

「その目する、駄目!」

 俺は両手を床に付き、懇願した。

「すまない。二度と迷惑は掛けない。ニナにもしっかりと言い聞かせる」

「駄目。さよなーらーね」

「サツキ!」

 そんな! 話を聞いてくれ!

「帰れ!」

 サツキはビシッとドアを指差した。

「サツキ……」

 話を、話を……。

「帰れ帰れー!!」

「…………」

 ……これは、無理だ。サツキは俺の話を聞いてくれそうにはない。

 仕方ない。一度帰って対策を練ってからまた来よう。

 俺は溜息を吐いて、床から手を離した。

 そして片膝付くような格好から立ち上が…………れない?

「…………」

 なんだ? 足が痺れて動かない。

「早い帰れ」

「う……、うむ」

 よし、勢いをつけて立ちち上がろう。

 一、二、三――。


 バターン!!


 ……こけた。

 咄嗟に受け身はとったものの、サツキの前で、なんてみっともない。

 俺は痺れている足を手で押さえた。

 この痺れをどうにかしなければ……。

 そう思っていると――、いきなり! サツキが俺の足を踏んだ。


「ああー! サツキ!!」


 な、な、な、なんだ!?

 痺れに痛みが加わり、俺は驚いてサツキを見る。

 すると……。

「――――!!」


 『無』……だ。


 サツキの顔には、怒りも悲しみも喜びも、何もない。

 無表情に俺の足を踏んでいる。

 まるでそれは、仕事と割り切り罪人に拷問をする拷問官のようだ。

 ああ……、そうか、そうだった。サツキは犯罪組織の一員だったのだ。

 その時に、裏切り者や捕えた者達に、こうして拷問をしていたのだろう。

 この『セ・イザ』とは、サツキの故郷に伝わる拷問の一種なのだな。

 いけない。サツキは怒りのあまり、犯罪者だった頃に戻ってしまっている。

 救わなければ! 暗い過去からサツキを!

 もう一度上げられたサツキの足を俺は掴む。


「サツキ!」

「きゃあ!?」


 バランスを崩し倒れるサツキを俺は受け止めた。

「ダン! バカバカバカバカ!!」

 サツキは奇声を発しながら身体を起こし、俺に馬乗りになって拳を振り上げる。

 やめろ、サツキ。もうこんな事をする必要はないんだ、サツキ――!!


 コンコン、ガチャ。

「サツキさ……」


 その時突然、ドアが開いてマチルダが現れた。

 マチルダは俺達を見ると目を見開き、そして何故か笑顔になった。

「お客様なのですがお取り込み中のようですし、別室で待っていただきましょうか?」

 お客様? それどころではない!

 そう俺が言う前に、マチルダを押し退けて顔を覗かせた人物――。

「ニナ!」

 何故ここに!? しかも、よりによってこんな時に!

 ニナが満面の笑顔でサツキに近付き、サツキが俺の上から退いた。

 まずい、ニナはサツキの怒りの根源だ。

 サツキはニナを潰すつもりか?

 俺は体を起こし、まだ少し痺れている足を根性でねじ伏せ立ち上がろうとした。

「あらまあ! ダン! ウフフフフ」

 ニナ、呑気に笑ってないで空気を読め!

「昨日はごめんなさい」

 ニナは笑顔でサツキに謝罪し、サツキをギュッと抱きしめた。

「仲良くしましょうね」

 サツキが戸惑った表情を見せる。

 ん? もしかして、元の優しいサツキに戻った……、のか?

 俺は立ち上がった。

「ニナ、サツキが苦しい」

 ニナの手をサツキから引き剥がしながら、俺はサツキの様子を確認する。

「あら、ごめんなさい。ウフフフフ」

 眉を寄せ、首を傾げるサツキ。

 うむ。戻ったようだ。良かった。

 そこに、マチルダが大量のケーキを載せたワゴンを押して部屋に入って来た。

「まあ、美味しそう」

 ニナが目を輝かせる。

 しまった。ニナも甘いお菓子が大好きなのだ。

 カタヤの菓子が美味いと知ったらまたここに来るかもしれない。

 面倒な事になる前に追い返さなくては!

「どうぞ。まだまだ沢山ありますから」

「マチ……!」

 先に勧められてしまった!

「あら、いいのかしら?」

 ニナは嬉しそうにサツキを引っ張り、椅子に座らせた。

「はい。サツキ」

 更に、馴れ馴れしくも名前を呼び捨てし、フォークを握らせる。

「サツキは細すぎるわよ、沢山食べてもっと太りましょうね。ウフフフフ」

 うむ。確かに細すぎる。

 いや、そうではなくて。

「ニナ、帰れ」

「嫌よ」

 ニナは椅子に座り、ケーキを食べ始めた。

 く……! 仕方ない。ケーキが無くなれば帰るだろう。

 俺も座って、少し急いでケーキを口に入れる。

「ほらほら、サツキも食べて」

 ん? ああ、サツキはニナの図々しさに呆れて食べられないでいるのだな。

「サツキ、一口」

 俺はケーキをフォークで掬い、サツキの口元に寄せた。

 しかし何故か、サツキは俺の手を叩く。

「ダンったら! ウフフフフ」

 サツキは俺をチラリと見て、自分のフォークをケーキに刺して食べ始めた。

 そしてすべてのケーキが無くなると、ニナは満足したのか自ら帰ると言った。

 ああ、良かった。

 しかし、ホッとした俺の目の前でニナはサツキを抱きしめ、耳元でなにかを囁く。

 ニナ! また余計な事を言ったのではないだろうな!

 俺はニナの背中を押し、部屋から追い出した。

「すまない。サツキ」

 ドアを閉め、サツキに頭を下げる。

「――って、ダン、帰れーっ!」

 ええ!?

 サツキは怒りの形相で、俺を部屋から締め出す。

 サ、サツキ……!

「…………」

 なんという事だ。

 またニナが、サツキを怒らすような事を言ったのだな。

「サツキ……」

 客間のドアを開けようとしたが、内から鍵を掛けられたようで開かない。

「サツキ……」

 ……仕方ない。帰って、夜もう一度謝りに来よう。

 ニナ、本当に迷惑な妹だ。

 ……はぁ。


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