0001 第二の人生
【本当にお人好しだなぁ】
心地良いソプラノボイスが頭上から降ってくる。
恐る恐る見上げれば、ファンタジー世界観満載の背に白い翼を携えた謎の美少年の姿が。
少年は、玉座のような赤色の椅子の上で優雅に足を組んで肘掛に頬杖をつく。
「ハッ! 見とれてる場合じゃなかった! あなたは一体だれ? そして此処はどこですか?!」
【説明しよう。此処は君の住んでいた世界とはまた別の世界だ。僕の名前は、この世界の創造神・イシス。うっかり別世界に視察を兼ねて遊びに行ったら、死にかけるところを君に助けてもらった子猫さ。今の君は壊れかけの魂をなんとか修復してこちらで一時的に保管しているに過ぎない。だから、魂だけの状態だね】
創造神・イシス様曰く、もう元の世界には戻れないこと。
もし希望があれば、こちらでなるべく叶えるから少し助力をしてほしいこと。
【最後に、僕と会ったことは内緒にしてね】
「それで、新しい人生を歩む場所とか容姿とかスキルとか世界観とか時代とかってどんな感じのところですか?」
【む、それはだな……暗黒竜産まれし時、陽は陰り作物は実らず、魔物は蔓延り、世界は大飢饉に見舞われるらしい】
「らしい……? なんでそんなことわかるんですか!?」
【僕は神だからな。先見の明くらいあるのだよ】
フフンと得意げに言う少年・イシスの言葉に驚きを隠せない。
【そこで君の出番だ!僕を助けてくれたお礼も兼ねて、望み通りのオプションもつけて新しい人生をスタートするとよいだろう】
「でも、その世界って暗黒竜に魔物に、大飢饉が待っているのでしょう? いやだなぁ……」
【いずれな。そんなすぐには起こらないさ。それに、君の働き次第では案外住みよい世界になるかもしれないぞ】
「うーん……。わかりました、私、沢村 葉月は、創造神・イシスの名のもとに異世界転生することを承諾しましょう。その代わり、オプション多めでお願いします!」
【よくいった!わかった、任せておけ】
「見た目はなるべく、前世と同じような感じで。回復魔法が使えた方が良いです。それと、魔力量もそこそこ多めでお願いします! それから……平凡な家庭に産まれさせて下さい! 家族仲は良好だと嬉しいです」
【それくらい朝飯前だ、では、今から其方を新たな世界に転送する。幸運を祈る】
イシスが、椅子からフワリと翼を広げて飛び降りる。透明な私の壊れかけの魂に手を翳すと、膨大な知識と暖かい魔力が漲ってくるのを感じる。
「まぁ、なんて愛らしいの」
「目元なんか俺にそっくりじゃないか?」
薄らと目を開く。
どうやら私の異世界転生は成功したらしい。
穏やかな眼差しで赤子の誕生を祝う美しい女性と優しそうな目元が特徴の男性。
「ありがとう、セレス。生まれてきてくれて――」
「おぎゃあ、おぎゃー」
新しい人生。どうせなら楽しみたいなとは思うものの現実は過酷だ。
元・女子高生がいきなり0歳児になってしまったのだから。
まず、行動範囲が狭すぎる。意思疎通(会話)ができない。お世話してもらうのに抵抗があるなど、挙げればキリがない。
最近、気づいたことといえば、私はセレスは、両親のどちらの容姿の色も受け継いでないということくらい。
母親の亜麻色の髪にエメラルドの瞳も。父親の金色の髪にブルーグレーの瞳も。
おそらく先祖返りじゃないかしら――そう母親のアリーシャが話していたのが記憶に新しい。
幼くして、髪は黒髪、瞳の色は父親よりも濃い青色をしている。
「うー……」
「こーら、セレス!勝手に本を取らないの」
異世界転生する時、流れてきたこの世界の情報量だけでは俄かに信じがたくて、家の中にある書物を見つけては読み漁る日々だ。
見つかるとお父さんに抱っこされて、お母さんに優しく叱られる。非力な自分が憎い。
創造神ことイシスが与えてくれた加護は絶大でした。
一つ、平凡な家庭の仲良し家族に生まれてきたこと。
二つ、何も知らないわけじゃなく、予めこの世界の知識を持って異世界転生したこと。
三つ、魔力量が思いの外多く、コントロールする技術も難なく覚えられたこと。
私が魂を転送された世界。
そこは、日本とはかけ離れている場所。
剣もあれば魔法も使える。
ドラゴンや魔物、勇者に聖女なども存在する壮大な世界。
第二の人生の始まりだ。
好奇心旺盛なセレス。
成長を楽しみつつ書いていきます!