9話
思わず地が出てしまった。
「任せるのである!」
「了解です!」
2人はびっくりしたようだが、自分を心配しつつもゴーレムの相手をし始めた。鈴木と高橋は開始早々に壁際まで逃げていて戦力外だ。
⋯指示を出したは良いが手こずっている。こいつ、今までの奴らとは違う。今までの痩せ細ったゴブリンと比べて、こいつは健康的で少し背が高い。今までは一撃で倒せたが、その一撃が入らない。
自分が弱っている事に気付いたのか、ゴブリンはニタニタと笑いながら、手に持った金属の棒を振り回す。こうゆう不快な部分も今までのゴブリンには無かった。
⋯2人がゴーレムを倒すまで粘るか?ゴブリン越しに向こうの様子を見ると、金属製のゴーレムに有効な攻撃手段が無くて苦戦しているようだ。どうする?
いや、消極的になるな。こいつを倒して、自分が2人を助けに行くつもりで戦う!こいつが油断している間に倒す!
手持ちの武器は鉄パイプ、ライト、それに安全靴。相手にバレないように周囲を見て使そうな物を探す。横転したフォークリフト。機械から流れ出た油。壊れたクレーン。よし、行くぞ。
敵を良く見て、何度目かの攻撃の後の隙を突く。ライトで目潰しして、鉄パイプで棒を弾き飛ばし、思いっきり蹴る!叩く!
簡単に倒せた。もし体調が万全なら、もっと簡単に倒せたろう。息を整えて、⋯次だ!そう思って走り出した直後。
「サトー殿ぉ!」
衝撃。ゴールドが突っ込んで来た。何故?と考える間もなく、さらに衝撃。ゴーレムの太い腕に2人共ふっ飛ばされた。
ゴブリンと戦っている間、自分はゴーレムから目を離していた。ゴーレムの突進から自分を庇ってくれたんだ。
自分は軽傷で済んだ。
だがゴールドは頭を打ったのか、血を流し膝を付き立ち上がれないでいる。
田中さんがゴーレムの気を引こうと、積極的に攻撃しているがあまり効果がない。歩く速度は遅いのか、ゆっくり距離を縮めて来る。
その時、自分の足元に宝珠が転がって来た。さっきのゴブリンから出たんだろう。
反射的に拾い、強く願い砕く。この状況を覆す力を!効果はすぐに理解出来た。
願いを込めて、言葉に力を注ぐ。
「召喚!」
ゴールドを呼んだ時と同じように、自分の体と少し離れた地面が淡く光る。ずしりと重くなる体。
「きゃっ?⋯いきなりピンチですね。」
ゴーレムは魔法に警戒したのか足を止めて、女性が現れると驚いてバランスを崩し倒れた。
流れるような金色の髪、陶磁器のような白い肌、宝石のような緑の瞳。戦いの中で息をするのを忘れるような、ほのかに輝く女性。この女性はフェイという妖精だ。
「えっと、貴方が私を呼んだんですか?」
「そうです、自分が貴女を呼びました。どうか力を貸して欲しい。」
声をかけられて自己紹介もせずに、いきなり助けを求めてしまった。礼儀も何もあったもんじゃない。だが、彼女はくすくすと上品に笑っている。
「分かりました。では、どうしたら良いですか?」
そうだ、どうする?フェイは何が出来る?宝珠によって追加された召喚魔法の知識によると、フェイは白魔法を使う場合が多いとある。⋯白魔法とは?
壁際のゴーレムは今にも起き上がろうとしている、あまり時間はかけられない。
「自分は仲間を助け、危険を排除したいです。」
「なるほど、うーん。とりあえず貴方と猫ちゃんを治療しちゃいますね。」
彼女が困ったように笑ってから手を上げると、指輪から暖かな光が広がる。自分の不調が嘘のように消えて、ゴールドも力強く立ち上がった。これなら!
「ありがとうございます。2人共!まずはゴーレムを倒す!少し時間を稼いでくれ!」
指示を出して壊れたクレーンへと走る、鎖があるはずだ。それで縛りあげてやれば良い。
体が軽い、羽根が生えたみたいだ。今なら何でも出来る気がする!
クレーンにたどり着いて鎖を引っ張り、モーター部分ごとゴーレムへと引きずって行く。ある程度近づいて田中さんと協力し、ゴーレムの足に鎖を絡み付けた。バランスの悪い体は簡単に倒れる。
歪な骨組みのゴーレムは立ち上がる事も出来ず、構造的に腕が届かないから、鎖を解く事も出来ない。床を這って時々威嚇のように腕を持ち上げるだけだ。
あとはとどめを刺すだけだが、問題が起きた。弱点や核?動力源のような物が見当たらない。どうやって動いてるんだ?
首を傾げていると、フェイが話しかけてきた。
「これはゴーレムじゃありません。おそらく低級な妖精が操っているだけです。」
そう言って、脇腹の辺りを指差した。どうやら内側に何か隠れているらしい。自分には分からないが、ゴールドは気付いたようで、流石、フェイ殿は博識である。と素直に称賛している。
「なるほど、じゃあ叩いてみましょう。」
「隙間から剣を差し込むのである。」
「火あぶりなんてどうですか?」
「皆さん過激ですね。水に沈めるという手もありますよ。」
脇腹の辺りから物音が聞こえて、皆でクスクス笑いながら、どうするか話し合う。もちろん本気じゃないが、このまま続けていれば出て来るだろう。物音が大きくなってるし。
やがて我慢できなくなったのか、中からグレムリンが飛び出してきた。