6話
「具体的な方法ってありますか?無いなら移動した方が良いと思います。」
どうやら彼女は強い人間だったようだ。鈴木達と同じ意見なら3人で行動してもらおうと思っていた。
彼女が1人で移動するのは自分も思う所はあるが、何もできないなら諦めて進むべきだと思う。
鈴木は何故か食い下がって彼女を説得しているが、方法がないのだから時間の無駄だな。高橋はどうしたら良いか分からずに黙っている。
「佐藤はその猫を使って、俺達を殺そうとしたヤツなんだぞ!それに無理やり戦わせようとすんだぜ!そんなヤツの言う事聞くのかよ?」
今度は説得というより、自分の信用を落として彼女を味方に付けようとしている。もちろんゴールドと一緒に反論するが、黙ってろ!と言って高橋に証言を求めている。高橋はどちらに付いたら良いか分からず、黙ったまま。
「どうしてそんな人と一緒にいるんですか?私なら例え1人になっても別行動します。」
あいつが頼むから仕方なく一緒にいてやってるんだ!鈴木はまた好き勝手な事を言っている。埒が明かないな。それにこれで3回目、そろそろ我慢の限界だ。
「頼んでませんよ。襲ってもないし、戦えと言った事もない。全部、鈴木さんの言いがかりです。仕方なく一緒にいると言うなら、今から別行動しましょう。」
田中さん。もし合流出来そうなら合流しよう、気を付けて。と伝えてからゴールドを見る。ゴールドも仕方ないのであると、頷いてくれた。
田中さんも、そちらもお気を付けて。と言ってゴールドに手を振り歩き出す。
自分とゴールドが歩き出すと、少し距離を開けて鈴木は不満そうにブツブツ言いながら、高橋は居心地悪そうについてきた。
迷路のように複雑な道。分かれ道を右に左に、階段を上がったり降りたりしながら歩いていると、あちこちで火の手が上がっているのが見える。
何度目かの階段を登り、視界が開けた場所に出た。一息ついて周囲を見渡してみると、遠くにかなり大きな火柱が見える。おそらくゴールドに出会った時に見た火柱だ。
反対側に目をやれば、遠くの屋根が一部崩れていて外が見える。どうやらあの辺りから出られそうだ。残り3分の1くらいか?
今日は色々あって疲れた。家に帰れたらまず風呂に入りたい、その次は何も考えずとにかく寝たい。ぼんやりとそんな事を考えていると。
「誰であるか!」
突然、鋭い声が響く。ゴールドは階段の下を睨みつけ威嚇している。後ろには鈴木と高橋がいるが、さらにその後ろ。誰かいるようには見えないその場所から火の手が上がった。
ゴールドは風のように階段を駆け降りて剣を振る。短い断末魔が聞こえてきた。ゴブリンの声に似ているが違うのか?
この距離ならゴブリンは大声を上げて襲って来るはずだし、今まで火なんて使ってこなかった。
つまりゴブリン以外の敵。今までゴブリンしか出て来なかったから考えもしなかったが、いても不思議はない。
考えている間に火がみるみる大きくなる。狭い階段が火に包まれ、もう通れなくなってしまった。
気付いた時には手遅れで、ゴールドと分断されてしまった。こちらは3人、火を挟んだ向こう側にゴールド。
「ゴールド!こっちに戻れるか!」
「少し待って欲しいのである。」
ライトを強く握りしめ、なんとか合流できないか周囲をくまなく照らす。
⋯合流できない。完全に分断された。少なくともこの周囲には通れる道はない。消火もできない。自分では無理でも、ゴールドのサイズなら通れる隙間も探したが無かった。
頬と言わず、背中と言わず、全身に嫌な汗が流れる。これはまずい。どうする?
ここまでゴールドに頼りすぎた。あの2人が騒いでるが耳に入らない。落ち着け、切り替えろ、深呼吸して周囲を見回して解決策を考えろ。
今後は自力で進まなくてはならない。田中さんは1人なのに凄いな。水と食料はまだある。役立たずが2人。考えがまとまらない。外へは残り3分の1くらい。敵は2種類。何か使えそうな魔法は?
そうだ!魔法だ!ゴールドを近くに召喚すれば良い!
「待たせたのである。」
突然、ゴールドが現れた。驚いて心臓が飛び出そうになり、変な声が出てしまった。その様子を見たゴールドは、今にも笑いそうになるのを堪えている。やがて2人共我慢できなくなり、腹を抱えて大笑いした。
「サトー殿、「にゅわ!」って言ったのである。」
「ゴールドなんて、変顔でプルプルしてたよ。」
しばらく涙を流すほど笑いあい、落ち着いてから感想を言いあう。さっきまでの焦りが全て吹き飛んだ。
どうやってこっちに来たのか聞いてみると、ケット・シーは誰にも気付かれずに闇から闇へ移動出来るのである。と教えてくれた。凄いな、ケット・シー。
それなら田中さんと合流出来たんじゃないか聞くと、誰かを連れて移動する事は出来ないらしく、田中さんをこちらに連れて来る事は出来なかったらしい。
そしてゴールドの見立てでは、田中さんは4人の中で1番強く音魔法もあるから、こちら側に留まったと説明してくれた。凄いな、田中さん。
情けないな、自分は。でもそれは今に始まった事じゃない、これから頑張ろう。一息ついて立ち上がり、進もうとすると2人が所在なさげにこちらを見ていた。