59話
「恥ずかしいところを見せたのである。」
懐中時計に頬ずりしている辺りで我に返ったルドは、時計を丁寧に箱に戻して照れている。その様子を見ていた自分達は、思わずほっこりと顔が緩む。
「あの、スタッフからもルド君にプレゼントがあるんですが…。」
そう言ってスタッフが渡したプレゼントはマタタビだった。どうやら法律的に酒が飲めない事を予想して用意してくれたらしい。
「ぅにゃっ。」
さっそくプレゼントを開けたルドは、マタタビの匂いを嗅いで酔ったらしく本物の猫っぽくなってしまった。普段の凛々しい顔がとろんと緩んでいて可愛い。
「ダイ殿〜!吾輩達からのプレゼントを出すのでありゅ〜!」
昨日、渋谷で別行動した時に買っておいたプレゼントを取り出して、男4人で女性陣3人の前に並ぶ。
「えー、これは以前の香水のお礼…。」
「堅いのでありゅ!」
「いつも助かっとるけぇ、礼じゃ!3人共!」
「…という事で、ありがとう。良かったら使ってくれ。」
感謝の気持ちと一緒に渡したかったが、まぁ良いか。ルドもダンも酔ってるのか?言葉遣いがおかしくなってるぞ。ルドがマタタビで酔うのは分かるが、ダンはウイスキーに弱いのか?
「もう!ちゃんとして下さいよ。」
「ルド君可愛いですー♪」
「お酒は控えた方が良さそうですね。」
「まだまだこれからばい!だーっはっはっ!」
プレゼントはお揃いのネックレス、3人共気に入ってくれたようで良かった。自分が選んだにしては良く似合っている。
「スタッフのみんにゃには用意できにゃくて、申し訳にゃいでありゅ!」
「おう!代わりに酒飲みゃえぇ!儂の奢りじゃけぇ、のんものまんか!」
ルドは呂律が回らなくなり、ダンはあちこちの方言が混ざっている。そこから2人のペースで宴会が進む。笑って歌って踊って、ひたすら楽しく笑顔に満ちた時間。
どんちゃん騒ぎも終わりが近付いて2人も落ち着いた頃に、さくらが話があると切り出した。
「えーと、みんなに聞いてほしい事があります。」
歌手活動を再開する為に探索者を卒業する事。もう2度と迷わずに夢に向かって進む事。そう決心できたのは皆のおかげだという事。
今までの感謝とこれからの応援の言葉を、さくらは精一杯明るく伝えて頭を下げた。
静かに話を聞いていた自分達は何も言えない。
「あーもう!しんみりしないで下さいよぅ。」
「そうですよー。乾杯しましょー。」
「サクラちゃんの新しい旅路をお祝いしましょう。」
エマさんと美咲さんは相談されてたんだろうな、別れを納得して離れる道を受け入れている。
それに比べて自分は覚悟してるとか言いながら、どうしても寂しいと思ってしまう。知っていたのに泣きそうになってしまう。
「…サクラ殿ぉ。どんなに離れても吾輩達は仲間である。でも…。」
「言うな!ルド坊!新たな門出は笑って送り出してやれ!」
ルドは涙を堪えながら笑おうとしている。ダンも目尻に涙が滲んでいる。
「さくら、今日までありがとう。さくらがいたから戦って来れた。さくらがいたから笑っていられた。さくらと過ごした時間は、自分達にとって一生の宝物だ。」
この1か月を思い出して目頭が熱くなる。
「これからきっと大変な道を歩く事になる。辛い時は自分達と過ごした時間を思い出して。自分達はいつでもさくらの味方だ。」
「吾輩達は全力で応援するのである!」
「なんかあったら頼って来い!儂らが何とかしてやる!」
堪えきれずにルドが泣いてしまい、自分とダンも貰い泣き。さくらもエマさんも美咲さんも感動で…。
…泣いてない。泣くどころか困ってる感じだ。なんでだ?
周りを見るとすすり泣いている人と、自分達とさくら達の温度差に困惑してる人に分かれている。
「…えーっと。離れて暮らす訳じゃなくて、事務所から近いし、これからも一緒に住みたいなー。なんて…。」
…そういえば、さくらの所属事務所は都内だった。
「…近いってどの辺?」
「……渋谷駅から徒歩5分くらい。」
渋谷かよ。
「…サクラ殿。」
「…サクラ。」
「だって、まさか泣くとは思わなかったんだもん!」
自分達のジト目に耐えかねたさくらが冤罪だと騒ぎ出す。エマさんと美咲さんが仲裁しているが、ルドとダンはふくれっ面だ。
自分も今生の別れとまでは言わないが、しばらく会えないくらいのつもりだった。人騒がせな。
「ごめんなさい。私の説明不足でした。」
自分達が早とちりしたのもあるが、さくらが頭を下げて一件落着。なんだかほっとしながら、その頭をぽんぽんして。
「これからもよろしくな。さくら。」
「男は酒と女に泣かされるもんだしの!だっはっはっ!」
「むー、なんか納得いかない。」
「仲直りできて良かったじゃないですか。」
「元通りですー。」
自分とダンは上から目線で許し、さくらは口を尖らせ、エマさんと美咲さんはクスクス笑ってさくらをなだめて。
「みんなと一緒に暮らせるのは嬉しいのである。」
ルドの言葉で自然と笑顔になり、ベルは静かに皆を見守っている。
自分はこの1か月で宝物を手に入れた。今では当たり前になった毎日を少しでも続けられるように努力していこう。




