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57話

「わぁ…!」


 本日お世話になる宿に着いてロケバスから荷物を下ろしていると、エマさんが感嘆の声を上げていた。


「…素敵です。」

「綺麗な旅館ですー。」

「まさに高級旅館って感じ。」

「ここもまた趣が違うのである。」

「作った年代が違うのか?面白ぇな!」

「粋を感じる作りだね。」


 実は言ってみただけ、和モダンで格好いいと思うが粋が何なのかは分からない。

 チェックインを済ませて広い部屋でくつろぎ、部屋風呂で軽く汗を流してから夕食を食べる。


「何もかも素敵です!次はこういうお家に住みましょう!」

「良いですね、あの家も古くなってるし。」


 エマさんはこの旅館がお気に召したらしい、自分も気に入った。家を建て替えるならこんな感じが良いな、なんて考えながら皆で理想の間取りを話しつつ、美味しい料理に舌鼓を打つ。


「この世界の乗り物は凄いのである!」

「船はともかく、ロープウェイなんて初めて見たわい!」

「次は飛行機でもっと遠くに行こうか?」


 夕食を食べ終えて、部屋でのんびりと今日の感想や次の旅行を話して寝る前にもう1度風呂に向かう。

 今度は大浴場だ、やっぱり旅と言えば温泉だな。ルド達3人は風呂は1回で充分らしく、自分1人で湯を楽しむ。


「お散歩ですか?ダイ君。」


 風呂上がりにテラスで涼んでいると、エマさんが声をかけてきた。エマさんも風呂上がりらしく、ほんのり火照った顔をしている。


「風呂上がりに涼んでるところです。」

「温泉って素晴らしいですね。」

「はい。」

「…この間の事、まだ気にしてますか?」


 図星だ。2人きりになると、あの時の事を思い出してよそよそしくなってしまう。


 守護者と戦った後、エマさんを元の場所に返したおかげで無事に脱出できた。だが、あの時のエマさんの顔を今もはっきり憶えている。

 病院で意識を取り戻して家に帰り、まずエマさんを召喚して事情を説明し謝罪した。

 エマさんは許してくれたが、あの時の言葉は自分の心に深く残っている。きっと過去に何かあったんだろう、そこに踏み込んでいいのか。


「ダイ君は正しい判断をしました。私はちゃんと許したんですから、もう気にしなくて良いんですよ?だからもうこの話はおしまいです。」


 エマさんは話す気はないようだ。まるで、あなたには関係ない。そう言われてるみたいで踏み込めない。…でも自分は、エマさんには笑顔でいて欲しいと思っている。


「…はい。」


 少しだけ震えている手を見て、顔を背けて目を合わせないエマさんを見て、膨らみかけた勇気が萎んでいくのを感じた。今、彼女が笑顔じゃないのは自分のせいだ。


「痛っ!」

「むぉっ!」

「きゃっ!」

「痛いのである!」


 後ろから声が聞こえて振り返ると、背の順にドミノ倒しに倒れている4人がいた。


「いや、たまたま通りかかって声をかけようと思ったら、転んじゃって。」


 聞いてもいない言い訳をするんじゃない。ルドとさくらは耳が良いんだから絶対聞こえてただろ。


「もう!盗み聞きなんて酷いですよ!みなさん!」


 謝る皆の間から近付いてきたベルがエマさんの肩に乗り、じっと自分を見ている。普段とは違う覗き込むような視線。


「余計な事しちゃダメですよ?ベル君。」


 少し間をおいて、ベルは恭しくお辞儀をして普段通りになった。何か伝えたい事でもあったのか?

 ベルはこちらの言葉を理解してくれるが、ベルが伝えたい事を自分は半分も分からない。

 結局、どうしようもないまま旅行2日目の夜は更けていった。


 夢を見ていた。家族と楽しく遊んでいた気がする。ぼんやりしたまま辺りを見回すと、テーブルに書き置きがあった。ルドとダンは朝練に行ったらしい。


「…起きるか。」


 まだモヤモヤしている。…散歩にでも行くか、それから風呂に入れば少しは気が紛れるはずだ。

 澄んだ空気や豊かに連なる山々と雲1つない空、河川敷での体験に似た感覚。何度か深呼吸すると心が晴れていくのを感じる。


「おはようございます、エマさん。」

「おはようございます、ダイ君。」


 散歩を終えて風呂上がり、ばったりとエマさんに会った。もう大丈夫だ、自分は覚悟を決めた。


「昨日の話の続きですが、自分はもう気にしない事にしました。」


 過去に何があったかなんてどうでも良い。次からはあんな事にならないように、しっかり準備して挑めば良い。それでも同じ事が起きるなら、それはどうしようもない事として諦めるしかない。


「もう2度と、エマさんにあんな顔はさせません。」


 笑顔でいて欲しい、未来を向いて欲しい。それが自分の願いで、エマさんにとってもきっと大切な事だと思う。いつの間にかベルがいて、それで良いとでも言うように頷いている。


 エマさんがどう思ったかは分からないが、自分は前に進む。長い間忘れていた感情に顔が熱くなるが、深呼吸して晴れやかな気持ちでその場を後にした。


「んー、美味い。」

「本当に全部綺麗で美味しいですね。」


 その後すぐに朝食会場で顔を合わせたが、自分もエマさんもいつも通り。目が合うたびにドキドキするが、皆にバレないように気を付けよう。




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