55話
夢を見ていた。家族と楽しく食事していた気がする。ぼんやりしたまま辺りを見回すと看護師らしき人と目があった。
「おはようございます。どこか痛い所はないですか?」
ここは病院?…自分は気を失ったのか。意識がはっきりしてくると同時に、看護師に怒鳴りつける。
「さくらはどうなった!」
「あ、田中さんはもう目を覚まして元気ですよ。」
「…そうですか、すいません。…あ、痛い所はないです。」
「良いんですよぉ。若いって良いですねぇ。」
うふふと笑う看護師の誤解を解くのに小一時間かかってしまった。そんな事があってから10日後。
「しゅっぱーつ♪」
「しんこー♪」
自分は目を覚ましたその日に退院し、さくらは緊急搬送された1週間後に無事に退院した。今日はこれからルドの成人祝いと迷宮攻略記念旅行に出発する。
「吾輩、楽しみで寝れなかったのである!」
「私もです。一緒ですね、ルド君。」
かなり豪華なロケバスを運転手付きで出してもらい、まずは夢の国へ。飲食無料でカラオケ付き、しかも万が一の為に医療関係者まで一緒に来てくれる。至れり尽くせりだな。
「だっはっはっ!飲んでるか!ダイ坊!」
「いきなり飲み過ぎだ。ダン。」
まだ朝早いのに皆テンションが高いな、それだけ嬉しくて楽しいんだろう。子供のようにはしゃいでる、まだまだ若いな。自分は大人としてしっかりしよう。
「ダイ殿も楽しそうで何よりである。」
「ずっと上機嫌ですね、ダイ君。」
「隠せてないですー。」
そんなバカな、自分に限ってそんな事あるはずがない。だが同行する密着スタッフ達はクスクス笑っている。
「…バレてるなら仕方ない。自分はみんなと一緒に今日を迎えられて最高に嬉しい、この旅行を目一杯楽しもう!」
「開き直った!」
「そう来なきゃな!だっはっはっ!」
おやつを賭けてババ抜きをしながら、夢の国に到着した。ちなみに結果は惨敗。自分はそんなに顔に出るのか…。
「元気出して下さい、ダイ君。ルド君も。」
「2人共、顔に出すぎですー。」
「くっ!次こそは勝ってみせるのである!」
「ルド、賭け事は熱くなったら負けなんだぞ。」
気を取り直して夢の国を満喫しよう。ガイドさんの案内でシアターやショーを中心に回って行く。
さくらの体調を考慮して、大事を取って絶叫系アトラクションは避けている。しばらくは激しい運動や飲酒も禁止だ。
「みんな、私に合わせてくれてありがとね。」
自分のせいで楽しめない。さくらは気にしているみたいだが、そんな事を気にする人はいない。
「そんな事ないですよー。」
「絶叫系は苦手だから助かってるよ。」
むしろ、こんな楽しみ方があったのかと感心してるくらいだ。
「すごく楽しいですよ。サクラちゃん。」
「吾輩、感動しっぱなしである!」
「また来りゃ良いじゃねぇか!だっはっはっ!」
楽しい時間はあっという間だ。パレードやプロジェクションマッピングまで余すことなく楽しんで、もうすぐ1日目が終わろうとしている。異世界から来た4人はすっかり夢の国の虜になって、夢の世界に旅立った。
「まだ寝ないんですか?大さん。」
「そろそろ寝るよ。さくらは?」
「私もすぐ寝ます。……私、探索者を辞めます。」
今回の事でパパにを泣かせちゃったし。そう付け足して、さくらは申し訳なさそうに笑っている。
「……そうか、とりあえずおめでとう。」
「むー。とりあえずって酷くないですか?」
「何を言うか色々考えてたんだけど、いざとなると何も言えなくなってね。」
「社長なんだから、しっかりして下さいよ。」
「そうだな。さくらが安心して旅立てるように、いつでも戻って来れるようにしないとな。」
「戻って来ないですぅ。」
他愛のない話をして笑いながら、出会った日から今日までを思い出す。…たった1か月の事なのに泣きそうになってきた、年は取りたくないもんだ。
「…さて、そろそろ寝るよ。おやすみ。」
「…はい、おやすみなさい。大さん。」
どうやら自分は顔に出やすいらしいから、バレる前に寝よう。…もうバレてるかもしれないが、笑って送り出したい。
「おはよう、今日は渋谷と箱根だったね。」
「はいー。お買い物と観光と温泉ですー。」
「買い物であるか…。」
翌日、朝食を食べながら予定を確認する。この旅行、さくらと美咲さんが事前に計画を立てておいたらしく、自分が気付いた時には準備が終わっていて驚いた。
「手短に頼まぁ!」
「しょうがないなぁ。」
「無理に付き合わなくても良いんですよ。」
「…よし、買い物は男女で別行動にしようか。」
自分がにやりと笑ってそう提案すると、皆が顔を見合わせて不思議そうな顔をした。
夢の国のキャスト達に見送られ、渋谷に移動して女性陣と別れ男4人で目的の店を探す。ルドのパーカーのフードにはちょこんとベルもいる。可愛いな。
「別行動にして何をするつもりであるか?」
「コレか?ダイ坊も隅に置けねぇな!だっはっはっ!」
「買いたい物があるんだ。」
あった、あの店だ。小指を立てて笑うダンを無視して自分を先頭に店に入る。いつ来てもこういう店は緊張するな。




