5話
3人に疑問を説明して、次は自分が拾ってみる事を告げた。
「そんな事言って、俺たちに戦わせる気だろう!」
またか。そんなつもりは無いが、鈴木は止まらない。魔法が使いたきゃ、ゴブリン殺して宝珠出せって意味だろうが!守るとか戦えとか、話が矛盾してんだよ!と、唾を飛ばす。
「戦えなんて言ってません、次は自分が拾うだけです。」
その次は鈴木が、その次は高橋が拾えば良い。戦う必要なんてないだろう。そもそも、何故こいつらは宝珠が欲しいんだ?
鈴木は、お前は魔法が使えんだからもう良いだろうが!と言い。高橋も、佐藤ばっかりズルい。と言う。
「俺達が魔法を使えるようになったら、佐藤に拾わせてやるよ。」
つまり戦う気はない。楽して力を得たいから危険は押しつける。こいつらに努力や協調性はないのか?鈴木は同期で高橋は年上、恥ずかしくないのか?
イライラが顔に出ているのが自分でも分かる。やはりこいつらとは合わない。
「冗談だよ。そんな怒んなって。」
鈴木はヘラヘラしながらそう言った。高橋も頷いている。以前もこうだった。言いがかりが通用しなければ、冗談で誤魔化す。
努力しなければ実力は身につかないのである。ゴールドは2人にアドバイスしているが、意味はないだろう。
「冗談なんですね、じゃあ次は自分が拾います。」
揚げ足取んなよ。とか、勝手に決めんな。とか、好き勝手な事を言っているが、これ以上付き合っていると手を出してしまいそうだ。
さっさと終わりにしたい。ゴールドに声をかけて移動しよう。避難できれば相手をしないで済む。
声をかけようとした矢先、ゴールドは進行方向を睨みつけた。直後に爆発音がして火の手が上がる。
しかも立ちはだかるように道を塞いでいる。道の端を通り抜けるのは無理だろう。消火はもっと無理だ。
もうここまで火が回ったのかと思ったが、遠くの火柱とは別の原因で火が付いたらしい。
「⋯少し遠回りになるであるが、戻って別の道を進むしか無いのである。」
ゴールドは冷静に言いながら、こちらを見上げて腰の辺りをポンポンと叩いてくれる。心が軽くなるのを感じて、深呼吸した。
切り替えよう。後ろで鈴木が何か言ってるが無視だ。重要なのは宝珠じゃなくて避難。ゴールドに道案内を頼むと、任せるのである。と答えてくれた。
「誰かいますか?声が聞こえてますか?」
歩き出すとすぐに声が聞こえた。全員聞こえたらしく、周囲を見回しているが近くに人はいない。どこにいるんだ?
ゴールドは毛が逆立ち尻尾が膨らんで、突然声が聞こえたのである!と驚いている。何が起きてるんだ?
その時、また謎の声が聞こえた。遠くから大声で呼びかけるような声ではなく、スマホで話すような声量がすぐ近くで聞こえた。
「落ち着いて聞いて下さい。今、魔法で声を届けてます。聞こえますか?」
魔法!自分以外にも使えるようになった人がいた!いや、そんな事より生存者だ。
「聞こえます、こちらの声は聞こえますか?」
出来るだけ冷静に返事をする。ちゃんと会話出来る事に相手はほっとしているようだ。軽く自己紹介して、可能なら合流しようという話になった。
相手は1人でいるのが不安なのか、移動中しきりに声をかけてきた。
救助を待っていたら怪物に襲われて、無我夢中でやっつけたら光る玉が出てきて、それを拾ったら魔法の力に目覚めたんです!と、興奮気味に教えてくれた。
音魔法という魔法らしく、反響音で周囲を認識したり、離れた場所に音を届けたり、この状況ではかなり便利な魔法だ。
魔法に驚かないんですね?と聞かれ、実は自分も似たような経緯で魔法が使えるようになった。と話すと相手は驚いていた。
ゴールドの事を説明すると、大の猫好きだったようで驚きつつも嬉しそうに、ゴールド君に早く会いたいです!と言っている。
鈴木は積極的に話しかけているが、高橋は人見知りして黙っている。
「この壁の向こうにいるのである。」
瓦礫がうず高く積み上がり、まるで迷路のような道をしばらく歩くと瓦礫で壁が出来ている場所に着いた。
しゃがんでゴールドと同じ目線になると、壁の隙間から向こう側に女性がいるのが見える。床に座って主にゴールドに向けて手を振っている。
「改めてはじめまして、田中です。」
改めて挨拶してから周囲を見渡す。合流は無理そうだ。隙間は狭くて通れないし、瓦礫は天井まで届いていて乗り越えられない、崩したら生き埋めになりそうだ。
何か良い案は無いか聞いてみるが、全員何も無い。無理もないな、人手も知識も道具も無い。少し移動して合流できそうな場所を探そうと提案する。
「ふざけんな!彼女は1人なんだぞ!襲われたらどうすんだ!ちゃんと考えろ!」
また鈴木が騒ぐ。高橋も頷いている。
ここにいても彼女は1人だし、大声を出したらゴブリンに見つかりやすい事を説明するが、鈴木は引かない。
女性を1人にするなんて馬鹿じゃねぇの?とか言ってる。高橋も、助けよう。とか言っている。ひょっとして彼女にアピールしてるのか?
ゴールドも、むぅ⋯騎士道に反するのである⋯。と唸っているが、いい方法が浮かばなくて困っているんだろう。
「あの。」
そんな時、彼女が口を開いた。