44話
「ふむ。こいつぁ、振動だな。」
ダンの説明によると機能は2つ。本体に振動を溜め込む事と、任意のタイミングで口径部分から振動を対象に送り込む事。
「ぶっ叩いても手が痺れねえし、叩かれた方は痺れて動けねくなる。」
「流石である!」
「ただのセクハラおじさんじゃなかったんだ!」
「よせよせ!こんなんで褒められても、酒も出ねぇぞ!」
おぉーと称賛の声が上がり、ダンは照れくさそうにポリポリと頭を掻いた。
守りを固めた相手を殴って痺れさせ、その隙をついて仕留める。というのがこの道具の使い方らしい。
では誰が使うかというと⋯、やっぱりダンかな?
「儂ゃ自前のがあるから、いらんぞ。」
「吾輩が使うには大きすぎるのである。」
「私も重くて使いにくいです。」
「可愛くないし、大さんでしょ。」
さくら、その言い方だと自分も貶してるんだが。それに本気で迷宮に挑むって言ってなかったか?
「⋯じゃあ、遠慮なく自分が使わせてもらうよ。」
エマさんがさくらを嗜め、ダンは大笑いしている。ルドは後ろを向いて笑いを堪えているようだ。⋯若返ってから見た目も良くなったと思ってたんだが。
「⋯ゴホン。門番ゴーレム戦の鍵は自分が握る事になる、でもその前にダンの実力と連携の確認だな。」
「おう!任しとけぃ!さっそく行くか!」
「その前に買い物ですー。」
そろそろ密着スタッフも来るし、ダンの生活に必要な物を買いに行かなきゃな。女性陣3人も買い物が楽しみなのか気合が入っている。
スタッフにダンを紹介して買い物に向かうが、建物、車、撮影機材、服にスマホに信号機。とにかく目に映る全てが興味を引くらしく、ダンは好奇心を抑えられないようで自分達は質問攻めにあっている。
「面白ぇ!面白ぇぞ!ダイ坊!よくぞ儂を呼んでくれた!」
「もう!ダン!ずっとうるさい!」
「ずっとこの調子じゃ倒れるかもしれないな。」
「心配すんな!そんなヤワじゃねぇ!」
ずいぶんこの世界を気に入ったらしい。あれはなんだ!これはどうなってんだ!行きの車内で大騒ぎ。しばらくすれば慣れると思うが、もう少し抑えてほしい。
「そういえば、ダンが住んでいた場所はどんな所なんだ?」
ダンの気を逸らす為にも聞いてみる。以前、ルドとエマさんにも聞いた質問だ。
ルドはケット・シーの国の田舎の村で祖父母と3人で暮らしていて、エマさんは森の中の澄んだ湖の畔でベルと2人で暮らしているそうだ。
想像しただけでファンタジー、いつか行ってみたい。
「儂ゃ火の国に住んどるぞ。」
火の国というのはドワーフの王が治めている国で、資源に恵まれた世界一の工業国なんだそうだ。
ダンは子供の頃に両親と死に別れ、伯父と一緒に国中を旅していたらしい。そのおかげで様々な技術を学ぶ事ができたと誇らしげに話している。
「素敵な伯父様だったんですね。」
「いんや、仕事と酒しか興味がねぇ変人だったぞ。」
おかげでガキの頃は苦労しかしなかったと豪快に笑っている。そんなふうに笑っているくらいだし、きっと良い関係だったんだろうな。
目論見通りダンも落ち着いたし、そろそろアウトレットに着く。買い物の間も落ち着いていてくれると良いんだが。
きっと騒がしくなるだろうと思ったが、予想に反して落ち着いて買い物している。今は職人の雰囲気で服や靴の素材や製法を唸りながら観察中。
「熟練の職人の仕事とは言わねぇが、素人の雑な仕事でもねぇ。機械の大量生産ってな恐ろしいな!」
少し教えただけで機械を理解したらしく、豪快に笑って気に入った物を購入。研究用にと余分に買って次は家具店へ、家具店でも同じように唸って観察し購入した。
時間はかかったが満足いく買い物ができたみたいで何よりだ。
「ったく、何やっとんじゃ!あいつらは!」
「女性の買い物は時間がかかるのである。」
ダンの買い物が終わって、前回と同じテラス席で待ち合わせ中。先に食べてしまおうかと考えていた所で女性陣がやって来た。
「ごめんなさい、遅くなりました。」
「ごめんなさいー。」
「大さん、荷物お願いします。」
何をそんなに買ったのか、大量の荷物を持ってきた。探索でストレスが溜まってるのか?
さっそく荷物を預かり昼食を食べるが、ダンはここでも酒が飲めない事を残念がっている。
「飯食うのに酒が飲めんのは、つまらんのぅ。」
「夜なら居酒屋があるけど、昼間は飲む人が少ないからな。出す店が少ないんだ。」
「ダン殿、ミルクティーがオススメである。」
「シュワシュワも美味しいですよー。」
目に見えて元気がなくなったダンを見て、さすがに気の毒になった。酒屋に寄って帰ろう。
⋯それより、さくらの様子が気になる。エマさんも気を使ってるみたいだし、別行動中に何かあったのか?
「失礼な男の子に話しかけられたんです。」
ナンパか?エマさんが失礼と言うくらいだ、かなり失礼だったんだろう。口論になる前に警備のスタッフが止めに入って事なきを得たらしい。
「俺も入れろとか言ってたから、また来るかもです。」
面倒くさそうなヤツだな、話を聞いていたルドもダンも憤慨している。大事にならなければ良いが。




