37話
「全然分からないです。」
「右に同じである。」
「左に同じですー。」
さっそく自分達は感知の魔法の練習を始めた。自分はすでにコツを掴んでいるので自主トレに励み、少し離れた場所ではさくらとルドと美咲さんが唸っている。
エマさんは約束通り美咲さんにも魔法を教えているようだ。
「コツを教えて下さい、大さん。」
川の流れに感じ取った違和感。どこがどう違うのか、言葉で説明するのは難しいがハッキリ違うと感じる。五感で感じる物とは違う違和感を追いかけていく感覚だ。
「むぅ。分からないのである。」
「むぅ。」
「むぅ。ですー。」
3人が頬を膨らませて抗議の視線を送ってくるが本当に説明が難しいんだ。エマさんがクスクス笑いながらこちらを見ている。
「今日はこれくらいにして、手袋を探しに行きましょう。」
「そうですね。それに開業届けも出さないと。」
上司に退職の連絡をして手続きを進めてもらい、税務署で開業届けを提出。退職手続きは1ヵ月くらいかかるが、開業届けはその場で受理された。
手続きはあっさりしていて、ここから始まるんだな⋯。みたいな感動は全くなかった。
そんな事より手袋だ。何軒か回ってゴム製の手袋の上にバイク用の手袋の2枚重ねで対応する事にした。あとは慣れるしかないだろう。
昼食を食べて午後はまずジムへ。トレーニングを終えて、おすすめされたプロテインバーをかじりながら鏡を見る。少し締まったかな?
自分の体は少しずつ若返っている。肩こりや腰痛はなくなったし、視力も回復したように思う。見た目も10才くらいは変わった。
⋯もっと筋肉をつけたいな、フィジークだったか?あんな感じが理想だ。
「ダイ殿どうしたのであるか?」
「迷宮って凄いなと思ってね。若返りを実感してるよ。みんなはどう?」
ポーズを決めながら聞いてみる。
「私達3人はダイ君の魔法次第ですから、あまり実感はありません。サクラちゃんはどうですか?」
「若返った感じはないかな?でも、学生の頃よりも動けてるよ。」
「学生の頃って、世界大会の時って事?」
「サクラ殿の努力の賜物であるな!」
「むふふふ。」
さくらは誇らしげだ。顔が変だけど言わないであげよう。
道場で雑談中に聞いた話だがさくらは世界大会出場者らしい、山本さんもさくらの頑張りを褒めていた。
自分は運動は苦手だが身長やリーチでは勝っている、若返っているし成長もするだろう。いつか追いついてみせるからな。と思いつつ次は道場へ移動する。
「迷宮ってのは凄いんだな。いや、お前さんの集中力も十分凄いんだがよ。」
山本さん曰く、自分はこの1週間で見違えるほど動きが変わったそうだ。
さくらとルドは最初から才能があったが、自分は平凡な中年という印象だったらしい。こんな人が化け物と戦うなんて本当に大丈夫か?と心配になったそうだ。
それがいつの間にか様になっている。安心して見ていられるくらいには成長したらしい。
「ありがとうございます。」
心の中でむふふと笑う。努力を認められるのは何歳になっても良いものだ。
「大さん、顔が変になってますよ。」
「さくらもジムで変だったぞ。」
その日は予定になかった組手でさくらに3連敗を喫して練習終了。本当に強くなったのか不安になるほど手も足も出ずに負けた。
「変とか言うからですよ。ダイ君。」
「反省します。」
エマさんに治療してもらい、さくらと仲直りして帰りにデザートを買って帰る。明日は試着の予定だ。
「いらっしゃいませー、お待ちしてましたー。」
翌日、大勢で荷物を持って来たテレビ局のスタッフさん達をさくらと美咲さんが出迎える。
全員がテレビに映るルドとベルに一目惚れしたらしく、睡眠時間を削ってまで服を作ってくれたらしい。サイズはさくらが測って共有したみたいだ、いつの間に?
そういえばファンクラブを作りたい!とか盛り上がってたな。
「覚悟はできているのである。」
「⋯。」
ルドはキリッとベルは仕方ない、といった顔で言われるがままに服を着る。
「午後は予定があるので、午前中だけでお願いします。」
聞いているのかいないのか、2人の一挙手一投足にうるさいくらい声が上がっている。言っても無駄だな、2人には悪いがしばらく自分は練習に集中しよう。
河川敷のベンチに座り川の流れを見る。違和感。上流から下流へ流れる水のような、水とは違う力の流れ。
目を閉じて感じる事に集中する、意識が流れに乗って遠く海まで行けそうだ。
力は日の光の様に降り注いでいる事にも気付く。どこまでも高く昇って見回すと、まるで笑うように自由に駆け抜けていく流れがある。
やがて囁くような密やかな場所に辿り着いた。足元の全てを支えるような力強い流れは、下へ向かう程に眠る前の穏やかさを連想する。
流れのままに落ちていくと怒鳴るように熱い力に出会い燃え上がる様に帰ってくる。
不思議な感覚だ、力や流れを感知する能力が格段に向上した実感がある。精霊が力を貸してくれた⋯のか?
「おっと、もうこんな時間か。」
ふと時計を見ると、もうすぐ昼食だ。終わってるかな?淡い期待を抱きながら帰る事にした。




