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3話

「サトー殿、どうしたのであるか?」


 無力さに打ちひしがれていると、遠慮がちに声をかけられる。顔を上げると、気遣わしげな金色の瞳と目が合った。


「⋯大丈夫だ。」


 返事というよりは、自分に言い聞かせるように答える。それから、スマホが壊れて使えない事や、スマホを持っていた事を忘れていた事を説明した。


「大変な目にあったのだから、忘れていても仕方ないのである。むしろこの状況で人を助けようとする、サトー殿は素晴らしいのである。」


 彼は大きく頷くと、真っ直ぐに輝くような瞳でそう言ってくれた。そんなふうに言われると、涙が出そうになる。同時に、きっと大丈夫だと前向きな気持ちになれた。

 ゴールドが来てくれて本当に助かった。感謝を伝えて落ち着いて調べてみると、連絡が取れないだけでスマホが壊れた訳じゃなかった。


 遺体とその周辺の写真を撮り、移動を再開する。ゴールドと一緒の写真も撮りたかったが、不謹慎な気がしてやめておいた。後で撮らせてもらおう。


 移動中、何度かゴブリンに遭遇したが何の問題も無かった。というのも、襲われる前にゴールドが気付いてあっさり倒してしまうからだ。

 いつの間にか剣を抜き、音もなく近づいて一撃。自分が気付いた時には勝負が付いている事がほとんどだ。後ろから近づいて来た時にも余裕を持って対処していた。


「吾輩は騎士を目指して剣の腕を磨いているから、ゴブリンごときに遅れは取らないのである!」


 休憩中にゴールドを褒めると、彼は得意げに胸を張ってそう言った。

 ゴブリンは相手にならず、火の回りは予想より遅く、道は迷路のように入り組んでいるものの、出口に向けて順調に移動できている。怪我もなく、大した疲れもない。きっと助かる。大丈夫。

 そんな事を考えていると、ゴールドの耳がピクピクと動いた。


「どうやら、この先に生存者がいるようである。」


 寄り道になるが、少し先の階段を降りた先から声が聞こえるらしい。この工場には地下なんて無いはずなのに。

 不思議に思っていると、この土地は文字通り迷宮になってしまったのである。と教えてくれた。


 休憩を切り上げて移動を再開すると、言い争っている声が聞こえてきた。まずは自分が話しかける事と、ここで待っていて欲しい事をゴールドに伝えて2人の元へ歩き出した。


「大丈夫ですか?」


 2人はライトの明かりに気付いたらしく、言い争いを中断して自分を待っていた。

 あれは確か、鈴木と高橋。知り合いだが⋯、2人共苦手なタイプだ。

 飲み物を渡し怪我はないか、他に誰かいないか質問する。鈴木は奪うように飲み物を受け取り、見りゃわかんだろ。と吐き捨てるように言う。高橋は、もううんざりだと言わんばかりだ。


 スマホを無くしたのも、化物に襲われたのもお前のせいだ。弁償しろ!助けを呼べ!なんとかしろ!

 いつものように鈴木が言いがかりをつけていたらしい。


 ⋯スマホは少し探して、無ければ諦めてもらうしか無い。化物はゴブリンの事だろう、ゴールドがいるから問題無い。

 むしろゴールドが問題だ、どう説明するべきか?⋯正直に話すしかないか。覚悟を決めてこれまでの経緯を説明した。


「馬鹿じゃねえの?」


 化物はまだいい、宝珠?魔法?召喚?迷宮?地震で頭おかしくなったんじゃねぇ?鈴木は頭ごなしに否定し、高橋は黙っている。

 2人共予想通りの反応だ、まるで信じてない。無茶苦茶な話に聞こえたんだろうな、逆の立場なら自分もそう思う。思ってもあんな言い方はしないが。


「全部本当の話です、一緒に来ますか?」


 嫌だが提案する、無視して行く訳にはいかない。ここは安全じゃない、信じられなくても合流した方が良いだろう。

 でも選ぶのは本人の意思だ。ゴブリンは弱いから、きっと大丈夫。火事もまだ遠いし、2人共怪我してる様子はない。⋯正直、別行動が良い。


「ここで救助を待つのも良いと思います。」


 合流したら揉めるのが目に見えてる。この2人はトラブルメーカーだ、同じ職場で働いた事があるが何度か揉めた。

 鈴木は言いがかりをつけて仕事や責任を押しつける。高橋は優柔不断で人の真似をして、責任から逃げる。思い出してイライラしてきた。

 自分はもう行きます、2人共気を付けて。そう伝えて離れようとしたところで、鈴木から声がかかる。


「チッ、しゃーねーな。一緒に行ってやるよ。」


 高橋は黙ってコクンと頷いた。2人共、以前と変わってないな。


「脱出出来たら2人の事をちゃんと伝えます。だから、無理に一緒に来なくて良いですよ。」


 「ゴチャゴチャ言ってんじゃねーよ、さっさと行くぞ。お前ってホント空気読まねーよな。」


 さっそく鈴木節が始まった。高橋から自分に標的が変わったらしい。


「一緒に来るなら、ゴールドを紹介します。」


 本当に嫌なんだが、来ると言うなら仕方ない。我慢して合流する。ゴールドを呼ぶとすぐに来てくれた。2人は驚いて目を丸くしている。無理もない、服を着て2足歩行で歩く背の高い猫だからな。


「はじめまして、吾輩の名はゴールドである。サトー殿の召喚魔法によってこの世界で活動しているのである。以後お見知り置きを。」


 ゴールドが自己紹介すると、開いた口が塞がらない様子で呆然としていた。

 少しは信じる気になったか?




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