29話
「ホント助かるよー。当日遅れないでね、頼むよん。」
「こちらこそありがとうございます。では次の日曜日に。」
迷宮探索は事前に警察と消防に届け出ておく義務がある。伊藤さんと渡辺さんにスケジュール変更を伝え、資格の勉強をする事を説明し講習参加を申し込む。
迷宮が発生し避難訓練や応急手当講習の回数を増やすそうだが、できれば自分達にも参加して欲しいと考えていたそうだ。
一般参加者を増やす狙いがあるんだろう、互いにとって渡りに船だ。密着スタッフも撮れ高がありそう。と期待している。
午前中は勉強して午後はスポーツジムに入会。トレーナーが付くコースにして軽くトレーニングしてきた。
「きつい⋯。すでに筋肉痛が⋯。」
「運動不足ですね、大おじさん♪」
自分だってプルプルしてるくせに、今朝の仕返しか?さくらは負けず嫌いで自立心が強い。絶対に言わないが、心の中でライバル認定しとこう。
次は護身術を習いに行く。今日はエマさんが触られそうになっていたが大丈夫だったようだ。
礼に始まり心構えを習い、体をほぐして受け身や基本動作を教わる。
それらが終わると杖の持ち方や構え方、重心の置き方に足運び。⋯これは大変だ、激しい動きじゃないのに汗が出てくる。1つ1つが細かくて、丁寧に動かないと指摘され気が抜けない。
山本さんはもちろん、さくらとルドも難なくこなしていく。エマさんもなかなかだ。
一通り教わって礼に終わる。その頃には汗だくだった。
「どうですか?大さん。」
「参りました。」
「さくらちゃん、カッコいいですよ。」
「流石である!」
さくらは上機嫌だ、ライバル宣言しなくて良かった。今日のところは若さと年季の差という事にして、いつか追いついてみせると心に誓う。
懐かしい清々しさを感じながら、今日の予定は終了。さくらと密着スタッフ達と別れて家路を急ぐ。夕飯と風呂の支度をして、ニュースを見ながら賑やかな食事をする。
世間は相変わらず迷宮と魔法、それに迷宮への不法侵入に関する話題で持ちきりだ。無茶するのは予想通り若者が多い、気持ちは良く分かる。
もしも仲間に入れてくれと言ってきたらどうするか?自分は面接くらいはしようと思っているが、皆は何と言うかな?
それと気になるのが自分以外の召喚士の存在。異変から約2週間、日本はもちろん海外にも1人もいない。
マスコミにも調べてもらっているが、いくら探しても見つからないらしい。隠してるのか?情報を独占する事で何らかのメリットがある?
すぐに思いつくのは特殊な魔法や魔道具。⋯小規模じゃ意味がないように思う、国家規模なら他国より有利になれるはず。現に日本は情報を公表していない。
⋯世界規模の大企業が情報を独占し、いち早く魔道具を商品化して莫大な利益を上げ、世界経済を裏から牛耳る。そうして世界の支配権は国から企業へ⋯。
「エマ殿、ダイ殿はどうしたのであるか?」
「きっと疲れたんだと思います。ダイ君、もう休んだ方が良いですよ。」
「⋯いえ、相談に乗って欲しい事ができました。」
起きているのに夢の世界に旅立っていた。これは悪い癖だ。今のうちに直そう。
「入社志望者は何才から採用するのが良いと思う?」
「成人していれば問題ないのである。」
「私も同じですが、この国の成人年齢は何才ですか?」
日本は18才、異世界では15才で成人だそうだ。つまり自分と同じ考え。自分は中卒でも問題ないと考えている。
とはいえ、この事はさくらの意見も大切だし、伊藤さんと渡辺さんにも相談したい。そもそも本気で迷宮に挑むなら自衛隊や消防を進める。
「自分以外の召喚士が見つからない事をどう思う?」
「隠れていると思うのである。」
「もしかしたら、いないのかもしれません。」
意見が別れたな。ルドは妄想部分以外は自分と似た考えだった。エマさんの考えでは、異世界でも召喚魔法は希少で使える人が少ないからじゃないか?と考えている。
「利益の独占が目的の場合、命を狙われてしまいますね。」
「助けてくれますか?私の騎士様。」
「エマ殿、ダイ殿はどうしたのであるか?」
「ふふっ、きっと疲れたんだと思います。ダイ君、もう休んだ方が良いですよ。」
エマさんの言葉に祈るような仕草でルドを見ると、またも心配されてしまった。ベルの表情からは何も読み取れない。
エマさんは分かっているようでクスクス笑っているが、冗談だぞ2人共。
「あとは、家政婦を雇おうかと思っています。」
「賛成である、ダイ殿はちゃんと休むべきである。」
「家政婦ならベル君がいますよ。」
ルドとベルが頷いている。もう1度言うが冗談だぞ2人共。そんな事よりベルはエマさんの使い魔で結局エマさんの負担になるのでは?と聞くと出費を気にしている様子。
新生活に必要な物全て自分が負担したが問題ない。昨日の探索で遺体は見つからなかったが、機械や油は回収できた。その分の回収手数料が払われるが、ちゃんと5人で分けた上で金銭感覚がおかしくなりそうな大金だった。
心配いらない事を説明すると安心してくれた。さっそく明日にでも連絡してみよう。




