26話
「⋯疲れたのである。」
「お疲れ様。」
自分達はアウトレットに来ている。異世界人3人がこちらで生活する為に必要な物を揃えに来た。
実は昨日、取材中に迷宮攻略の許可が下りた。国としては早く自分達に活動して欲しいんだろう。自分が成長すれば、新しい異世界人を召喚できる。そんな事より。
なぜ女性の買い物はこんなにも時間がかかるのか?そして付き合わせたがるのか?ゴールドとベル君の物はすぐに決まる。2人共こだわりがなく、そもそも服はちょうど良いサイズが無いから買う必要がない。
だが女性2人は違う。最初は自分達も褒めながら付き合っていたが限度があるぞ。ゴールドは疲れ、ベル君は呆れ、自分は苦笑いしていたら、女性2人はしょうがないなぁと言って解放してくれた。
今は昼食用にテラス席の場所取りをしている。
「一流の男になる為に必要な試練。と聞いていたであるが、確かに大変である。」
「ゴールド、超一流の男は付き合わないように根回ししておくらしいぞ。」
ゴールドは驚き、ベル君はやれやれといった表情だ。周囲のスタッフ達は笑っている。
自分達は今、密着取材を受けている。迷宮攻略以外の日常生活を撮りたいんだそうだ。
自分達が動けばパニックが起きるのは目に見えているので、密着取材を受ける代わりに警備や店との交渉等をお願いしている。芸能人ってこういう気分なのか?
ちなみに、ゴールドとベル君の服や靴はテレビ局の伝手を頼って作ってもらう事になっている。
小一時間程で女性2人と合流し昼食。ここのパンは有名で美味しい。何より牛乳が美味い。
「サトー殿はミルクが好きであるか?」
「大好きだよ。この世界で1番美味しい飲み物だからね。」
「1番はビールですよ、佐藤さん。」
「紅茶にミルクを入れるのも、新しくて美味しいです。」
「紅茶にミルクであるか!」
文化の違いを発見しつつ、あっという間に過ぎていく楽しい時間を過ごす。その後も必要な物も必要ない物も色々買った、そろそろ次の予定だ。
夕食は伊藤さん宅に呼ばれている。救助に向かった消防メンバーも一緒に、美咲さんの退院祝いと奥さんが自分を疑った謝罪を兼ねての食事会をする。なぜか渡辺さんも来ていた。
「全部、素晴らしいのである!」
「本当に美味しい!今度お料理を教えて下さいね。」
「もちろんですー。」
伊藤さん家族の手料理は店を開ける程の味付けだった。伊藤さんの腕前は消防では有名で、辞職したら飲食店を開こうと思ってたらしい。異世界人3人にも好評で瞬く間に料理が消えていく。
「こいつぁ、昔っから料理だけは上手かったからなぁ。」
「お前は昔から何もできなかったけどな、拓海君がお前に似なくて良かった。」
拓海君というのは、渡辺さんそっくりな息子さんで自衛隊員。美咲さんの婚約者だそうだ。
「年内には渡辺になる予定ですー。」
「いつ帰って来ても良いからな。」
「もう返さねぇよ!」
幸せそうに話す美咲さんを皆で口々に祝福する。助けられて本当に良かった。
「そういえば、サトーというのは名前じゃないんですよね?」
「佐藤は名字で大輔が名前です。」
「逆である!」
「じゃあ、今後はダイ君って呼びますね。」
どうやら異世界人3人は違和感を感じていたようだが、皆が自分を「佐藤さん」と呼んでいるので、そういう物だと思っていたらしい。
ちなみにエメラルドさんが自分を君付けで呼ぶのは、自分より年上だからだ。見た目は大学生くらいなのに。魔法で老化を遅らせてるんだそうだ、魔法って凄いな。
「教えて下さい!先生!」
「先生ー!」
「ふふっ。私は厳しいですよ?2人共。」
田中さんと美咲さんがエメラルドさんに弟子入りした。
「自分もこれからはルド、エマさん、ベルって呼びます。」
「あれ?私は?私は、さくらでお願いします。大さん。」
「強くなった気がするのである。」
さくらは、親しい人には名前で呼んで欲しいそうだ。ルドはルドルフ将軍という英雄に憧れていて、ルドと呼ばれる事に機嫌を良くしている。
ルドとベル以外は酒を飲んで賑やかな時間を過ごす。自分は少ししか飲めないが、皆を眺めているのが楽しかったりする。
あまり中身はないが、いつまでも思い出に残る会話。なんだか部活を思い出した、弱小チームだったが毎日飽きる事なくボールを追いかけていたな。
「佐藤さん、どうしました?箸が進んでないようですが。」
「いえ、部活を思い出してました。あと、こんなギルドが作れたら良いな。と。」
「お!良いねぇ。定年したら雇ってもらおうかな?」
「皆でギルド良いですね!」
危険度の高い迷宮は自衛隊が対応して、それ以外は自分達のような民間団体に許可を出して管理する。
これは予想通りで、伊藤さんと渡辺さんも同意見だ。誰の目にも人手が足りてない。
自分達の影に隠れてあまりニュースになってないが、迷宮攻略の為の民間団体設立の許可を求める動きが被災者を中心に活発になっている事もあり、まず間違いなく自分達でギルドを設立する事になる。
「という訳で、明日から活動を始めます。そろそろお開きにしませんか?」
「えー、今日は徹夜ですよー!」
さすがに徹夜はしないが、まだまだ帰れそうにないな⋯。




