25話
「とにかく、結果が出るまで絶対に家から出ないで下さい。」
「本当にすいませんでした。」
素直に頭を下げる。やらかした。
ソファでうとうとしていたらインターフォンが鳴り、防護服に身を包んだ保健所の人達が押しかけて来た。
最初は何事かと思ったが「もし異世界人が感染症を持ち込んでいたら大変な事になる。」という彼等の話を聞いて、自分の失敗に気付いた。
自分には召喚魔法の知識がある。召喚された存在が感染症を持ち込むなんてあり得ないと断言できる。
だが自分以外そんな事は知らない。ちゃんと説明するべきだった。おそらく自分達に関わった全員に迷惑をかけている。
こんな失敗はいつぶりだろう?
「理由は二つあります。まず一つ目は名付けの契約です。異世界の存在は、名前を付けなければこの世界に影響を与えられません。」
「それは例外とかはないんですか?」
「あります。エメラルドさんは名付け前に自分の体調とゴールドの怪我を癒してくれました。ですが、それは召喚主と被召喚者の関係だからできる事です。」
「なるほど。ではもう一つの方は?」
「そもそも病原体を召喚する方法がありません。」
「偶然一緒に来てしまう。なんて事はないんですか?」
「ないですね。召喚魔法のシステム上、不可能です。」
あれから1週間、自分は連日ニュース番組に電話出演している。保健所に対応した後であちこちに謝罪の電話をして、電話出演する事になった。
「最後に、自分の認識の甘さが原因で皆様に大変なご迷惑をおかけして申し訳ありません。」
「ありがとうございました。いやー。不法入国の件といい、なかなか律儀な人で好感が持てますね。それでは、次はお天気です。」
電話を切って一息つく。これで大丈夫だろうか?自首した事で少し稼いだはずの好感度、今回の件でマイナスになった気がする。
⋯いつまでも引きずっていても仕方ない、明日には保健所から連絡が来る。すでに不法入国の件は無罪が発表されているんだ、気持ちを切り替えよう。
翌日、保健所から連絡があり結果は予想通りの陰性。この結果が報道されると、一気に忙しくなった。猫の手も借りたい程の忙しさだ。
迷惑をかけた相手に直接謝罪に行き、報道番組に出演したり海外からの取材に答えたり、閣僚とも面会した。面会の時に魔道具について説明して、かなり驚かれた。他にもファンが自宅に訪ねてきたり、嫌がらせを受けたり。
そして、ついに異世界人の権利が認められた。しかも日本国籍取得。召喚の許可も下りた。
「召喚は人類史に残る偉業であり、世界規模の危機を乗り越える為に力を合わせる。」という政府の発表が報道され、世界的にもかなりの注目を浴びた。
今日、10日ぶりに3人を召喚する。もちろん田中さんもいる。
自分達全員で健康診断と検疫検査を受けて、3人には情報提供してもらう。その後でマスコミから取材。情報を参考に組織作りが進められ、診断結果しだいで行動範囲が広がる。
ようやく1歩前進した。
「⋯召喚。」
「久しぶりー!」
「久しぶりである!むぅっ!」
「お久しぶりです。きゃっ!」
ゴールド、エメラルドさん、ベル君。3人の変わらない姿を見るや否や、田中さんは勢い良く抱きつき嬉し泣きしている。
田中さんも注目されて忙しかったからな、自分よりも大変だったようだ。
実は田中さんは元芸能人だった。「ガールズロック界の新星」と言われ期待されていたが、母親に癌が見つかり闘病生活をサポートする為に引退したと言っていた。
⋯というか、出遅れたな。自分も3人に癒やされたかったんだが。田中さんが落ち着くまで待つか。
そう考えていたら、足元でベル君が自分を見上げている。「元気出して。」そう言われている気がして、ほっこりする。
ベル君を抱き上げてイスに座り、しばらく待っていると田中さんが落ち着いてきた。
「すいません、私ばっかり。」
「気にしないで良いよ、田中さんは頑張ったんだから。」
ベル君を渡すと、また泣きそうになっている。4人と一緒にいるだけで癒やされるな。だが、いつまでもこうしてはいられない。この10日間の事を説明し、今日の予定を説明する。
「⋯と言うわけで、3人は国籍を取得できました。みんな、今日は忙しいよ。」
「望むところである!」
「この世界の医療、楽しみです。」
「メイク直さなきゃ。」
まず全員で健康診断と検疫検査も受ける。注射は何歳になっても慣れないな、ゴールドも目を瞑ってプルプルしていた。
合流して昼食を食べていると、目を輝かせたエメラルドさんが「また来たい。」と言ってゴールドを驚かせていた。どうやら研究者気質らしく興味を抑えられないようだ。
次に情報提供。異世界人3人の頑張りのおかげで、様々な情報を報告できた。
日本は資源が少なく製造技術が高い国だ。魔石と魔道具は特に重要な情報になる。ちなみに実際に魔石を回収し魔道具を作るまでは公表しない。
最後にマスコミの取材。異世界人3人に質問が集中する。ベル君は身振り手振りで答えている。
取材も終盤、今後について質問された。
「次の目標は何でしょうか?」
「迷宮探索の許可をもらう事です。」
自分は胸を張って答える。




