22話
「お疲れ様です。エマちゃんもベル君もゴールド君も可愛いから仕方ないですね。」
あまり感じない種類の疲労でぐったりしていると、田中さんがクスクス笑いながら労いの言葉をかけてくれた。
昨日は無事に対策本部に帰り着いて、美咲さんは両親と病院へ、自分達は解散になった。まずは体を休めてから報告は明日。という事になったんだが⋯。
警察や消防への報告は大変だったが予想の範囲内。伊藤さんは辞職するかもしれないが、本人は「覚悟の上です。」と笑っていた。
会社には報告というよりも提案だったな。生存者の捜索や救助、遺体や機械の回収。それらを理由に迷宮の探索を続けたい事を伝えた。
自分の年齢的にも会社が潰れたら困る。
鈴木と高橋は、自分達が持ち帰った証拠品が決め手になって逮捕されたと聞いた。自業自得だな。
そして何より大変だったのがテレビ局の取材。熱量が凄い。自分と田中さんが魔法を使えるようになった事もあるが、それ以上にゴールドとエメラルドさんとベル君だ。
冷静に考えれば3人は異世界人、騒ぎになって当然だった。迷宮にばかり気を取られていて麻痺していたな。
疲れた頭で記者のアドバイスを思い出す。
「芸能事務所に所属した方が良いと思います。」
⋯一理あるかもしれない。
これから世界は迷宮を中心に回っていく、探索者にも注目が集まる。3人は間違いなく人気者になるだろう、どこかの組織に所属するメリットはある。もちろんデメリットもあると思うが。
⋯身の振り方を考えなきゃならない。
その日の夕方、スーパーで買った夕飯を食べながら4人でテレビを見ている。
田中さんは父親と喧嘩して外出禁止を言い渡されたらしく、スマホをスピーカーにして盛大にグチっている。
「全く!パパはいつまでも子供扱いして!」
「サクラ殿は立派なレディである!子供扱いは酷いのである!」
「ふふ、お父さんはサクラちゃんが大切なんですよ。」
「みんな、そろそろ夕方のニュースが始まるよ。」
賑やかだな。いつもより夕飯が美味い。
「皆さん、こんばんは。本日は番組の内容を一部変更してお送りします。」
「世界中で起きた異変を連日お伝えしていますが、我々は『異世界からのお客様』へのインタビューに成功いたしました。まずはVTRをご覧ください。」
「吾輩達が喋っているのである!」
「大勢の方々が、これを見てるんですね。」
「ちゃんとメイクしておけば良かった。」
ニュース番組は自分達を放送し続けている。迷宮や魔物の危険性、魔法や異世界人3人について。
「この放送を通じて我々が伝えたい事は、『迷宮には決して近寄らない事』と『異世界人は寄り添いあえる隣人である事』です。皆さんくれぐれも軽率な行動は控えて下さい。」
ニュースキャスターが締め括って、ニュース番組はお天気コーナーになった。良かった。この内容なら自分達が誤解される事はないだろう。
「今さらですけど、3人の事を話しちゃって良かったんですか?」
「隠し通せないし、良いと思うよ。」
スマホ越しに田中さんが質問して来るが、自分はこれで良いと思う。色々と考えた結果、これからどうなるにせよ印象を良くしておくべきだ。
「今後、国が迷宮を管理すると思う。数が多いから実質的には無理でも名目上はそうなる。」
自分の考えを4人に説明する。
迷宮に挑戦したいが自分は一般人。許可なく入る訳にはいかない。美咲さんの救助は例外中の例外だ。
自衛隊や消防への転職は自分は年齢的に無理、ゴールドとエメラルドさんとベル君は日本国籍じゃない。
「あれ?ひょっとして不法入国なんじゃ?」
⋯盲点だった。それはともかく。
国が実質的に管理するのが難しいなら、迷宮の管理を代行する組織を作る。漫画やアニメに出てくる『ギルド』を作り、許可を得て迷宮攻略に挑戦する。
いきなり会社を辞めて独立するのは大博打だから、様子を見ながら知名度と好感度を上げていく。
「もちろん他にも道はあると思うけどね。国が特別に雇ってくれるとか、3人が芸能界入りするとか。」
「芸能界とは何であるか?」
「私達3人だけですか?」
「3人なら絶対売れると思う!」
田中さんが3人に芸能界について色々説明している。詳しいな、田中さん。
さて自分は不法入国について調べよう。⋯完全に不法入国だな、罰則は3年以下の懲役または300万円以下の罰金か。
⋯自首すべきか?自分も印象を良くしておいた方が良い。明日、対策本部に顔を出そう。その前に上司と伊藤さんに連絡しておくか。
「明日、不法入国の件で自首して来るよ。」
4人に調べた結果を説明すると、不満そうにしている。ベル君はどことなく呆れ顔な気がする。
「サトー殿は何も悪くないのである!」
「捕まるべきは私達3人では?」
「佐藤さん、真面目過ぎです!」
「日本は法治国家だからね。それに3人は呼ばれただけ、捕まる理由はないよ。今後の事を考えたら、ちゃんと自首するべきだ。」
それでも納得いかない4人に、逮捕まではされない事を説明して納得してもらい、遅い時間になったので3人を元の場所に返して解散になった。
上司と伊藤さんに自首の事を連絡して、今日はもう寝る準備をしよう。




