21話
「今だ!」
瓦礫が直撃したゴーレムは大の字になって倒れた。その背中に自分達が殺到する。掘り返せ!核はどこだ!
⋯見つけた!踏み壊して土の体が煙になって消えていく。その途端に力が抜けて、その場にへたり込んだ。
間違いなく1番の強敵だった。緊張から解放されて笑いが込み上げてくる。自分だけじゃない、ゴールドも田中さんも笑っている。
エメラルドさんも伊藤さん親子も、消防士の皆も笑って歓声を上げて喜んでいる。
「やりましたね。」
「危ない場面もありましたが、全員無事で良かったです。」
「皆の勝利である!⋯む?」
ひとしきり笑ったあと、健闘を称え合い、無事を喜び、勝利を祝っていると、ゴールドが異変に気付いた。
表情を変えて、おそらく地下2階の奥の方を睨んでいる。田中さんも慌てた様子で魔法を使い始めた。
「地下2階の奥から、ゴーレムが大量にこちらに向かって来ているのである。」
田中さんも深刻そうな顔で頷いている。皆、黙ってしまった。
⋯大量にか。同じ作戦で捌ききれるだろうか?まだ戦えるが、いずれ体力が尽きるだろう。
せめて1体ずつの状況を作れないか?バリケードで通路を狭くして、拠点に入って来た所を囲んで戦うとか。
むしろ、入り口を封鎖して救助隊が来るまで拠点に籠城するか?
人が多くて襲撃率が上がるなら、チームを分けて地下3階の袋小路で戦う?
門番と戦って先を目指す?
どれも生き残れるイメージが湧かない。皆で意見を出し合うが大差なかった。考える時間もあまりないだろう。⋯何かないだろうか?
その時、自分の足にコツンと何かがぶつかった。集中していた分、心臓が口から出る程に驚いて飛び上がって大声を上げてしまった。
何が起きた!全員が警戒して、⋯見れば宝珠が転がっている。宝珠?何故?だがチャンスだ。魔法か何かを授かれば、それが打開策になるかも知れない。
「佐藤さん、お願いします。」
「佐藤さんですね。」
「サトー殿が使うべきである。」
「サトーさんが使ってください。」
誰が宝珠を使うのか?自分が聞く前に皆が口々に言う。満場一致で自分。嬉しいが本当に良いのか?見回すと全員が頷いている。
「分かりました。全員、無事に帰りましょう。」
責任重大。何も授からなければ万事休す。
だが奇妙な確信がある。この宝珠はこの状況を打開する為に自分の元に現れた。
慎重に拾い上げると粉々に割れて消えていく。同時に新しい知識と力が湧いてきた。
「全員、今すぐ地下1階に移動しましょう!」
説明をしなくても自分を信じて着いて来てくれる。
地下3階から地下2階へ、瓦礫の壁が無くなっていてゴーレムが顔を出した。相手はしてられない。
「ゴールド!足止め頼む!」
「任せるのである!」
危険な指示に1つ返事で応じてくれる。その横を皆で走り抜けた。
地下2階から地下1階へ、ゴールドも追いついて来た。
息を切らしながら到着すると、前と変わらず瓦礫が道を塞いでいる。こんな物なんの障害にもならない。
自分が授かったのは『亜空間に干渉する異能』
精神統一。この場の瓦礫を全て一気に亜空間に送り込む。亜空間の広さに限界はあるが、この程度なら問題ない。大きな機械も一瞬で収納できた。
皆から驚きの声が上がって、開通した場所を通り過ぎ振り向くとゴーレムが上がって来ようとしていた。
もう一度、精神統一。収納した瓦礫を全て出して道を塞ぐ。ゴーレムもあの大きさの機械は動かせないだろう。
呼吸を整えている間、ゴールドと田中さんが瓦礫の向こう側を探っているが、ゴーレム達は諦めて引き返したようだ。
再度、歓声が上がる。今度こそ大丈夫だろう。2度ある事は3度あると言うが、勘弁して欲しい。
「凄いですね!どんな魔法を使ったんですか?」
授かった力を説明しようとするが、よろけて壁に手をついた。勢いで慣れない事をしたんだから当然か。
「休んだ方が良いですね。今、お茶を用意します。」
エメラルドさんの提案で休む事になった。グレムリンに警戒しつつ苦いお茶を飲む、じわじわと満たされていく不思議なお茶だ。
休んでいる間に授かった力を説明する。『亜空間に干渉する異能』⋯自分で言うのもなんだが、本当に漫画やアニメみたいだ。⋯いや、召喚魔法の時点でそうか。
この力、現時点では物の出し入れしかできない。生物は上達すればできると思う。そうなれば予め目印を用意してワープなんかもできそうだ。
ただし、かなりの集中が必要。敵がいる時は使えないな。
「佐藤さんは探索や救助に最適ですね。」
伊藤さんは何か考えているようだった。
確かに。荷物は亜空間に入れておけるし、瓦礫の撤去も簡単だ。普通こんな事はできない。⋯帰りがけに会社への提案材料として、遺体と機械を持ち帰ろう。
お茶を飲み干して立ち上がり、出発の準備を整える。地上との連絡も問題なく、無事に帰って来るよう激励された。
美咲さんを含めた先行チームが出発する。
「全員、無事に帰りましょう。」
帰り道は何事もなく、順調に対策本部まで辿り着いた。




