表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/26

2話

「⋯召喚!」


 召喚魔法を使ってみると、自分の体と少し離れた地面の2ヶ所から淡い光があふれる。ずしりと体が重くなった気がした。

 そのまま少し待つと地面からあふれる淡い光の中から2足歩行の黒猫が現れる。知らないはずなのに知っている、ケット・シーという猫の妖精だ。

 人間のように服を着て靴を履き、腰のベルトには剣を吊り下げている。艷やかな毛並みに凛々しい顔立ちで髭を触り、金色の瞳で興味深そうにこちらを見上げている。


 出来てしまった。できる確信はあったが、出来てしまった戸惑いの方が強い。


「はじめまして召喚士殿、吾輩はご覧の通りケット・シーである。どうやら召喚は初めてのようだが、まずは名前を聞いてもよろしいか?」


 こちらが戸惑っている間に相手から声をかけてきた。まるで声変わり前の少年のような声だ。こちらも挨拶をしようとして、むせてしまいゴホゴホと咳き込む。地震、ゴブリン、召喚と非日常が続いたせいで緊張して喉がカラカラに渇いている。


「ふむ、何か飲んだ方が良いのである。」


 涙目になりながら息を整えていると、彼はそう言ってきた。優しく気遣う声に安心する。地震から大して時間は経ってないはずなのに、久しぶりに会話をした気分になる。

 むせるのとは別に涙が出そうになった。冷静に行動してたつもりが、相当追い込まれてたみたいだ。


情けない。


 まずは挨拶して、事情を説明して協力してもらおう。それに飲み物が欲しい、あと落ち着く時間も。

 そう思うと、すぐ近くに壊れた自販機がありペットボトルが散乱しているのが目に入った。イス代わりの瓦礫もある。

 ちょうどいい、1つ咳払いして自己紹介をする。


「はじめまして、自分は佐藤大輔といいます。助けて欲しくて君を召喚しました。」


 互いに瓦礫に腰掛け、ペットボトルに口をつけてから召喚した経緯を話す。

 仕事中に地震があって死にかけた事。

 ゴブリンらしき生き物に襲われ、返り討ちにしたら煙のように消えた事。

 煙から出てきた光る玉に触ったら、なぜか魔法が使えるようになった事。

 その魔法を使って召喚した事。

 きっとどこかに生存者がいるはずで、助けるために力を貸して欲しいという事。

 分かりにくい説明だったと思うが、相手は根気強く話を聞いてくれた。


「ふむ、事情は分かったのである。サトー殿と協力し、生存者を救助しつつゴブリンを退け、この建物から避難すれば良いのであるな?」


 しかし、と話が続く。


「おそらく、地震はこの土地の迷宮化が原因なのである。ゴブリンが発生したのも、宝珠を授かったのも迷宮の特徴なのである。」


 迷宮化?宝珠?詳しく話を聞こうとすると、思わず首を竦める程の大きな爆発音が響いた。

 そちらを見れば遠くに大きな火柱が上がっている。ガス漏れか漏電か知らないが非常にまずい。ここは工場だ、可燃物は大量にある。まだ距離はあるが、すぐに火の手が回るだろう。早く逃げなくては、あっという間に焼かれて死ぬ。


 2人同時に立ち上がり目が合った、どうやら同じ事を考えたらしい。


「すぐに避難しよう。」

「うむ、道案内と露払いは吾輩に任せるのである。」


 道案内?不思議に思って質問すると、吾輩は夜目が効くし空気の流れや反響音で出口が分かる。と返ってきた。

 それに、人やゴブリンの気配も分かるから何も心配ない、安心して付いてくるのである!と胸を張って歩き出した。

 小さいのにとても頼もしい背中だ。その背中を見失わないように、まるで迷路のように変わってしまった工場を歩き出した。


「そういえばサトー殿。吾輩、とても大切な事を忘れていたのである。この世界で活動するのに、仮の名を付けて欲しいのである。」


 少し歩いた先で振り返り、彼はそう言ってきた。こちらもすっかり忘れていた、召喚魔法の知識の中にも重要事項として仮の名を付けるというのがあった。名付けは1種の契約で主従関係を結んだ証明になる。

 しかし困ったな、自分はネーミングセンスがない自覚がある。


「⋯ゴールドなんてどうかな?」


 とても印象的で、力強く輝いている金色の瞳を、そのまま名前として提案してみる。説明を聞いた彼はとても嬉しそうに、この目は吾輩の自慢なのである!と笑顔になった。


 肩の荷が下りてほっとしつつ歩いていると、この先に遺体がある事を告げられた。⋯そうか、そうだな。あれだけの地震だ、誰が死んでもおかしくない。自分だって運が悪ければ死んでいたはずだ。


「サトー殿、大丈夫であるか?」


 彼は真面目な顔つきでこちらを見つめてくる。こちらに配慮してくれているんだろう、誰かが側にいてくれるというのは本当にありがたい。


「⋯大丈夫だ。」


 顔や名札を確認したい事を伝え、2人で遺体に近づく。不謹慎だが知り合いじゃない事に少しほっとした。

 手を合わせて冥福を祈り、名札を回収して、写真を撮ることを思いついた。顔と名前が分かれば遺族を見つけやすいし、現場の状況が分かれば遺体の回収に役立つかもしれない。


 さっそくスマホを取り出し、そこで気づいた。なぜ自分は電話しなかったんだ!

 110番?119番?この際どっちでも良い、さっさと助けを呼べ!あまりの馬鹿さ加減に震える指で画面を叩くが、なぜか電話が繋がらない、どうなってるんだ!


 何度も試すが無駄だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ