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19話

 結局、どちらの意見も一長一短。どちらが正しいかは結果が出ないと分からない。リーダーである伊藤さんの判断で体力を温存し救助を待つ。


 見回り以外の時間は皆で話をして過ごしている。話題は主にゴールドとエメラルドさんとベル君。それと自分と田中さんの魔法だ。

 3人はどんな場所に住んでいるのか?どんな文明なのか?自分達は行けるのか?この世界でやってみたいことは?

 どうしたら宝珠が出るのか?魔法を使えるようになりたい。使えるならどんな魔法がいいか?


 話題というよりインタビューだな。時間を忘れて楽しんでいる。とても救助を待っているとは思えない明るい雰囲気だ。


「地下2階の空洞から、何か物音がします。」


 見回りから帰って来た田中さんが、開口一番そんな報告をした。

 誰かが瓦礫の壁の向こう側で何かしているような音らしい。生存者か魔物か、詳細は分からないが異変があったようだ。

 場の空気が変わる。伊藤さんの判断は早かった。


「調査が必要ですね。田中さん、一緒に来て下さい。」


 予想してなかった事態に、さっきまでの明るい雰囲気はどこかへ行ってしまった。

 戻って来た2人の説明によると、間違いなく何者かが作業をしている。魔法で声を届けても全く反応がない事から、おそらくゴーレムだろうと判断した。

 ゴーレムと言えば門番だが、別の個体か?


「まだ時間があります、対策を考えましょう。」


 伊藤さんの声で話し合いが始まる。

 エメラルドさんの予想では、おそらくゴーレムは瓦礫を片付けろ。邪魔者を排除しろ。といった命令を受けて行動している。

 そして地下2階が開通したら、次は地下3階に降りて来るはず。それは何故か?

 強い魔物は存在を維持する為に大量のマナが必要で、マナは迷宮の奥に行く程に濃くなる。浅い場所はマナが少ない為に活動時間が短くなる、必然的に降りて来るしかない。


 ちなみに門番のゴーレムのように強い個体は、本来もっと奥にいるはずだが、門番は迷宮からマナを供給されているから例外的に存在できるらしい。


「地下1階に避難して、やり過ごすのは?」

「追いかけて来る可能性が高いです。」


 さすがに敵が近くにいれば追って来るし。奥に逃げても袋小路に追い詰められてしまう。

 逃げるのは無理そうだ。


「戦うとして、有効な方法はありますか?」

「全員に守りの魔法をかけますが、それだけでは不安ですね。」


 普通は広い場所で落とし穴に誘い込み、複数で囲んで槍や杭で突いて倒すらしい。ゴーレムの体内には核があるはずで、核が傷付けば動かなくなる。


 なるほど、だがここの床はコンクリート。穴を掘るのは無理そうだな。

 昨日ゴーレムもどきを倒した時のように足を縛るか?

 くくり罠を作って拠点の入り口に置いておく、ゴーレムが入ったら思いっきり引っ張って、足を縛り上げて転ばせて全員で殴る。


 あとは振り子。

 この部屋の天井には太い梁が何本もかかっていて、ロープをかけられそうだ。

 入り口付近にロープを吊り下げて、瓦礫を括り付けておく。それを別のロープで部屋の奥の天井に引っ張り上げて固定する。

 タイミングを見計らって固定を外せば、瓦礫がぶつかって大打撃を与えられる。


「凄いです!」


 皆に説明したら感心されてしまった。大した事じゃないと思うんだが。

 ともかく、自分の案が採用されて準備が始まった。瓦礫の振り子も、くくり罠もすぐに用意できる。

 まず振り子で攻撃。それで倒せれば良し、倒せなくてもくくり罠を引っ張って転倒させて攻撃。その間にもう1度振り子を準備して攻撃。それを繰り返して倒す。


 動きが遅い事と対応力がない事がゴーレムの弱点。そこを突いて倒しきる作戦だ。それにエメラルドさんの魔法もある。

 大丈夫。きっと上手くいく。


 準備を終えて緊張しながら待っていると、ゴールドの耳がピクリと動く。


「地下2階が開通したようである。が、⋯足音が3つ!敵は3体である!」


 マジかよ⋯。誰ともなく呟いた声が聞こえる。汗が頬を伝って顎から落ちるのが分かった。大きく深呼吸して口を開く。


「大丈夫です。まず瓦礫を確実に当てましょう。侵入して来たら、くくり罠で足を縛り上げます。」


 意識して大きな声を出す。伊藤さんを見習って落ち着いて説明する。

 マナの影響を受けるのだから、門番と同じ強さなんてあり得ない。つまり敵は弱い。ホブゴブリンと同じか少し強いくらい。複数で対処すれば問題なく倒せる。

 作戦通り、やる事は何も変わらない。


「こういう時こそ、落ち着いて対処しましょう。」

「吾輩達なら勝てるのである!」


 全員落ち着いたようだ。ゴールドの声に士気も上がり。明るい雰囲気を取り戻した。


「的確な声かけでした。やりますね、佐藤さん。」


 またも伊藤さんに褒められた。気恥ずかしいが、同時に誇らしくもある。伊藤さんはいつの間にか理想の上司像になってるな。


「ありがとうございます。全員で無事に帰りましょう。」


 前を向いて盾を構える。瓦礫の振り子もくくり罠も準備万端。皆の士気も高く、魔法でしっかり守られている。


 大丈夫。いつでも来い。心の中で呟いた。




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