18話
もう1度話し合った結果、先行チームは地下3階の分岐にバリケードを作る事になった。地下1階から3階まで一本道にして魔物の侵入を防ぐ。
後続チームは地下1階の調査。その後は合流してバリケード作りだ。さっそく行動開始。
しばらくして後続チームが戻って来た。地下1階は通行不可能と判断したらしい。
大きな機械が道を埋めていて、とてもじゃないが動かせない。解体もできないし、乗り越えるのも不可能。天井の穴も元に戻っていたらしい。
「地下2階の通路の事なんですが。瓦礫の壁の向こうに空洞があって、どこかに続いてそうなんです。」
敵を警戒して音魔法で索敵していたら、偶然見つけたんだそうだ。どこに続いているかは分からないが地下1階の瓦礫を撤去するより、そっちへ進む方がよほど現実的らしい。
地下2階の件は現時点では保留。地下3階の奥を調査してから判断する事になった。
今度は先行チームが調査に行く。美咲さんを救出した場所を通り過ぎ、暗い道を左手の法則に従って進んで行く。
「むぅ、この先も行き止まりである。」
地下3階は蟻の巣のような迷路だった。分岐と袋小路の連続、無駄足を繰り返して精神的にも体力的にも疲労が溜まっていく。
階段や上に登れそうな場所も見当たらない。それでも足を進めて行くと、ゴーレムもどきが出てくるようになった。
苦戦するかと思ったゴーレムもどき、救助用に持って来た道具を使って意外と簡単に倒せた。
梯子をさすまた代わりに使って押さえつけ、万能斧で殴りつける。飛び出して来たグレムリンはゴールドがあっさり対処する。
「楽勝ですね。」
「普段から鍛えてますから。」
「帰ったらスポーツジムに入会します。」
伊藤さんは力こぶを作って笑う。今回は消防士3人が対処した、自分が対処した時より早い。事前の準備は大切だな。道具は必要だし、それを持ち運ぶ体力も必要だ。
魔物は相手にならないが、さすがに疲れ始めた。そろそろ拠点に戻ろうか?といったタイミングで新しい魔物に遭遇した。
広めの部屋の真ん中で、ピクリとも動かずに存在感を放っている。
「アレは本物のゴーレム、おそらく門番である。」
今まで見たゴーレムもどきとは迫力が全く違う。見上げるほどの巨体に立派な鎧。道にいる自分達が見えているはずだが、襲って来る気配がない。後ろに見える扉を守っているのか?
ゴーレムを刺激しないよう、静かにその場を後にして自分達は拠点に帰る事にした。
「話を聞く限り、間違いないでしょう。」
エメラルドさんに報告すると、ゴーレムや門番の特徴と一致するそうだ。
ゴーレムとは、土や粘土を元に作られた人造人間。単純な作業しか出来ないが、非常にタフで力が強い。その為、兵士代わりや労働力として重宝されている。
門番とは迷宮の奥へと続く重要な場所を守っていたり、迷宮攻略の鍵を握っている場合もある。その為、特定の範囲から動く事がない。そして、その役割上強い。
「避けるべきですね、メリットがない。」
自分達の目的は迷宮からの脱出、強敵と戦って奥に進む意味がない。
地下3階の残りと地下2階の空洞。それに捜索隊がこちらに向かっているはず、わざわざ危険を冒す事はない。
今度は後続チームが地下3階の調査に向かう。地図を渡して、まだ見てない場所を回って新しい道を探してもらう。
念の為、ゴーレムも確認して来るそうだ。
後続チームを見送って、美咲さんを含む6人で交代しながら仮眠を取る。バリケードがあっても、魔物の襲撃が無くならないせいで見張りが必要だ。
迷宮の性質上、魔物は人知れず湧いてくる。一定範囲内の魔物を掃討して侵入を防いでも、範囲内に目が届かなければ湧いてくる。
寝ている間、魔物の襲撃は無かった。襲われる前に発見して対処したおかげで、邪魔される事なく眠れた。
自分が目を覚ました時、状況が動いていた。捜索隊と連絡が取れたらしい、いつの間にか後続チームも帰って来て、お互いに報告している。
捜索隊は地下1階の瓦礫の向こう側まで来たが、瓦礫の撤去は不可能と判断。今は必要な道具を取りに戻っている。
彼等の移動時間や休息、撤去作業を考えると自分達は1日後くらいには迷宮から脱出できる。
後続チームは地下3階の残りを全て調査し、ゴーレムも確認して来た。全ての道が行き止まりで、先に進むにはゴーレムの向こう側の扉しか無い。
「ゴーレムと戦うのは無しとして、拠点で体力温存か地下2階の調査するかですね。」
拠点を地下1階に移す。という案もあったが、天井を崩される恐れがある。その点ここは安心して過ごせる。
そして温存か調査かで意見が割れた。
温存派は危険を冒すべきじゃないと考え、調査派は助かる可能性を少しでも上げるべきと考えている。
自分は調査派だ。水や食料はまだあるし、体力も余裕がある。地下1階の瓦礫を撤去しても、他の場所が通れなくなったら出られない。他の道も探すべきだと思う。
⋯自分はズルいな、拠点と救助隊。余裕ができて冒険したい気持ちを抑えられなくなった。それを隠して調査を提案している。




