13話
「2人はさっき「襲ってるのをハッキリ見た。」と言ったが、いつ見たんだ?」
「黙れ!人殺し!」
鈴木は答える気はないようだ、高橋も黙っている。
「娘はどうなったんでしょうか?教えて下さい。」
伊藤さん夫妻が頭を下げる。鈴木はさっき言った通りです。とだけ答える。
「自分は誰かを襲ったか?」
「そんな事はしてないのである!むしろ人を助ける為に行動していたのである!」
ゴールドに聞いてみる。即座に答えてくれた。
「つまり、見たとすればゴールドを召喚する前ですね。エメラルドさん、2人の過去を魔法で視れますか?」
⋯怪しい。『猫をけしかけた』『田中さんを見殺し』『迷宮に置き去り』この3つはヘリクツだ、事実を都合良く捻じ曲げている。
だが『伊藤さんを襲った』これは完全に作り話だ。まるで、自分を犯人にしようとしている。
「ふざけんな!やめろ!クソ女!付き合ってらんねーよ!」
2人は無理やり帰ろうとして、警察に止められている。そして魔法が始まった。
大地震の後、非常灯に照らされた中に鈴木と高橋、それに小柄な女性がいる。それを見た伊藤さん夫妻が名前を叫んでいる。この女性が伊藤さんの娘で間違いない。
3人はスマホのライトを頼りに避難を始めるが、あり得ない程に変わってしまった工場にパニックを起こす。
そして2人は伊藤さんを襲った。
顔を殴られ、上着を剥ぎ取られ、伊藤さんは必死に逃げ出したが、鈴木に突き飛ばされて転倒し、運悪く崩れて来た瓦礫に埋もれてしまう。
2人は伊藤さんを見捨て、ゴブリンに襲われながらも移動し自分達と出会う。その後はさっき魔法で視た通りだ。
「フェイク動画だっつってんだろうが!離せ!触んな!」
鈴木と高橋は声を荒げて暴れている。警察は落ち着くように説得し、母親は泣き崩れ、父親は殺さんばかりに睨みつけている。
2人は重要参考人として任意同行を求められている。逮捕されないのは、魔法が証拠として適切か判断出来ないからだろう。だが、このままなんて納得できない。
⋯過去を視ていて気になる点が2つあった。
1つ目は小さな青いランプが点滅していた事。防犯カメラが作動してたんじゃないか?自分は防犯カメラの画像を検索してゴールドに見せる。
2つ目は鈴木のスマホ。無くしたと言っていたスマホが現場に落ちていれば、そこに鈴木がいた証拠になる。
証拠が揃えば2人を逮捕出来る、エメラルドさんの魔法も信用されるだろう。
「エメラルドさん、もう一度お願いできますか?ゴールドは夜目が効く、良く視ていてくれ。ポイントは3つだ。」
まず彼女が生きている可能性。防犯カメラ。鈴木のスマホ。そして、もう一度魔法が始まる。
「生きているのである!」
瓦礫が檻のような状態になっていて、身動き取れないだけ。足を挟まれて骨折しているが、それ以外は大丈夫らしい。
防犯カメラは画像で見せた物と一致した。角度的に撮れているはずだし、おそらく録画している。スマホは彼女の足元に落ちているのを見つけた。
彼女を救助し、防犯カメラとスマホを回収する。それができれば2人は確実に逮捕される。
そんな事より、迷宮に挑む。心が躍る。若返った気分だ。
不謹慎な昂ぶりが、決して顔に出ないように気を付けながら協力を求める。
「ゴールドの力が頼りだ、彼女の元まで案内を頼めるか?」
「任せるのである!必ず辿り着いてみせるのである!」
「彼女の治療には、エメラルドさんの力が必要です。一緒に来てもらえますか?」
「喜んで。」
ゴールドは胸を張って、エメラルドさんは微笑んで応えてくれる。
「もちろん、私も行きます!」
聞くまでもなく、田中さんもやる気だ。
「伊藤さん、自分達は準備を整えたら出発します。迷宮に入る許可を下さい。」
「⋯私が同行するのが条件です。」
話し合った結果、救助メンバーは5人ずつ2チーム、10人に決まった。本来なら大人数で救助に向かうが、迷宮でそれは命取り。人数が増える程、敵に襲われやすくなり進めなくなる。そこで2チームに分かれて、距離を開けて進む。
先行する5人は自分、ゴールド、伊藤さん、消防士2人。
道案内はゴールド、戦闘は主にゴールドと自分で、消防士の3人は瓦礫の撤去に必要な道具を運ぶ。
後続は6人。田中さん、エメラルドさんとベル君、消防士3人。
音魔法での連絡、道案内。戦闘もできる田中さんが中心のチームで、他の生存者がいれば対処したり、予備の荷物を運んでもらったりバックアップを担当してもらう。
伊藤さんは災害救助隊に所属していたらしく、誰よりも経験豊富。他の消防士も優秀で、かつ自衛できる人が選ばれている。警察にも協力してもらい、必要な装備を用意してもらった。
今は出発に備えて、各自休んでいる。
ゴールドとエメラルドさんは一時的に元の場所に返した。田中さんも、一度家に帰るそうだ。
自分は今、自宅で風呂上がりに横になっている。仮眠しようと思ったが眠れないな、子供の頃の遠足の前の日みたいだ。
結局、一睡もできずに早めに集合場所に向かった。




