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10話

 飛び出してきたグレムリンは、あっという間にゴールドが倒した。一時はどうなるかと思ったが、最後はあっさりした幕切れだったな。


 さて、大切な事がある。一つ咳払いして自分はフェイに向き直り、自己紹介をする。


「改めて始めまして、自分は佐藤大輔と言います。助けてくれてありがとうございます。」


 それを皮切りに、ゴールドと田中さんも自己紹介する。いつの間にか近寄ってきたあの2人も。


「始めまして、私はフェイです。この子は私の使い魔のベル君。仲良くして下さいね。」


 彼女は微笑んで、手の上のハムスターを見せてきた。ベル君は恭しくお辞儀をしている。可愛いな。田中さんも可愛い!とはしゃいでいる。

 ゴールドは、こちらこそよろしくである。と丁寧なお辞儀を返していた。


「それではサトーさん、私にこの世界での仮の名をつけて下さい。」

「はい。エメラルドと言うのはどうでしょうか?」


 あの2人はなんで佐藤?とかズルいとか言ってるが無視して、実はもう決めていた名前を提案した。

 宝石のような緑の瞳。気に入ってくれたようで、笑顔で受け入れてくれた。笑顔が良く似合う女性だな。


 これまでの経緯を説明し、これからの事を話し合った。そしてお互い何が得意か話した時、彼女は白魔法について教えてくれた。

 一言で言えば善行を目的とした魔法。怪我や病気を治療し、災害や悪意から人々を守る事を得意としている。

 余談だが、田中さんは子供の頃から護身術を習っていて、かなりの腕前らしい。


 優れた感覚を持ち、剣の腕も確かなゴールド。護身術の有段者で音魔法を授かった田中さん。博識で治療や防衛が得意なエメラルドさん。一応、自衛できる自分。

 飲み物や食べ物もまだ少し余裕がある。確信を持って言える、脱出できる。

 あの2人が不安要素だが、エメラルドさんを意識してか大人しくしている。それに、ゴールドと田中さんに別行動を言い渡されていたのも効いているみたいだな。


 一通り話して、移動再開する。先頭にゴールド、2列目に鈴木と高橋、3列目に自分とエメラルドさんとベル君、最後に田中さん。

 移動はまるで問題無い。出口までの道のりは、ゴールドと田中さんが分かっているらしく、迷わずに進んで行く。

 敵の種類も変わらず、ゴブリン、グレムリン、たまにスライム。出てきてもゴールドがすぐに対処する。調子が良いみたいだ。


 ⋯出口が見えた。

 出口の向こう側は、夜明け前特有の明るさが見える。もうすぐ、長い夜が明けようとしている。


 ⋯静かだな。適度な緊張感がある不思議な時間が流れる。全員一言も話さずに建物の出口に到着した。

 ここはまだ迷宮の出口ではないらしい。もう少し続けたいような複雑な思いのまま外に出る。


 それでも朝日は輝いていた。


 静かで。


 暖かく。


 澄んでいて。


 普段のありふれた日常からはだいぶ変わってしまった。

 自分はきっと一生、今日を忘れないんだろう。


 「⋯さて、そろそろ進みましょう。ゴールド、あとどれくらいか分かるか?」

「もうすぐである。この道を進めば、おそらく迷宮の出口なのである。」


 いつまでも感慨にふけっている訳には行かない。いつまた襲われるかも分からないし、亡くなった人も大勢いる。

 生き残った自分達には、伝える義務があるはずだ。


 そして何事もなく、迷宮の出口に辿り着いた。

 ちょうど工場の北門に境界線があり、そこから出入り出来るとの事。


「じゃあ、まず私から出てみます。」


 田中さんが手を挙げる、申し訳ないが適任だろう。外がどうなっているか分からない。

 境界線は澄んだ水面のようだが、向こう側は見えない。ゆっくり手を伸ばし境界線に触れる。すると波紋が広がり、吸い込まれるように向こう側に消えて行った。


 待つこと数分、田中さんが警察官を連れて戻って来た。


「ただいまです。外はいつも通りでした、出ても大丈夫です。あと、警察の方が私達に話を聞きたいそうです。」


 警察官はゴールドとエメラルドさんを見て驚いている。無理もない、二足歩行の猫とファンタジーな美女だからな。


 田中さんと警察官と一緒に外へ出る。出る時に3人との繋がりが弱くなって驚いてしまった。

 召喚魔法の知識で知ってはいたが、こんなにハッキリ分かるとは思ってなかったな。

 外は普段通りで迷宮化の影響なんて感じないが、近くの空き地に警察や消防を始め多くの人がいる。

 中には同じ作業服を着ている人もいて、どうやら自分達よりも先に脱出した人達のようだ。


 その後、自分達は警察や消防や会社の上役を交えて何があったのか説明した。

 先に脱出した人達も同じような説明をしたらしいが、体験していない彼等は半信半疑だったらしい。

 当たり前のように話すゴールドや、エメラルドさんの魔法、自分達が撮っておいた写真を見て、ようやく信じる気になったようだ。

 話を聞いた彼等は揃って頭を抱えていた。どうしたら良いか分からないんだろう。


 そして周囲にいた人達が騒ぎ出した。

 中に入るしかない、いや危険過ぎる、自衛隊を呼べ、遺族にどう説明する?仕事はどうなるのか?会社の対応は?国の対応は?

 それぞれが好き勝手に騒ぎ出して、収拾がつかなくなる。


 ⋯疲れたな、これからどうなるんだろう?




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