1話
初めて書いてみました。
マイペースに不定期更新していく予定です。
「眠いな。」
今日の仕事は順調だ、こんな日はあくびが止まらない。
この工場に就職して20年以上、いつの間にか夜勤にも慣れ、緊張感もなくそれなりに仕事をこなす。時計を見ると、そろそろ日付が変わりそうだ。
「⋯地震か?」
ふと気がつくと、床や機械が細かく揺れている。
数分間そんな状態が続き、地鳴りがだんだん大きくなってきた。かなり大きな地震なのか?
とりあえずライトを持って避難路の方を見ると、他の作業者が集まり始めている。
自分も合流しようと歩き出した瞬間に、目を疑うほど地面が大きく波打つように動いた。地震と同時に停電し周囲は真っ暗、遠くから何かが崩れるような音に混ざって誰かの悲鳴が聞こえる。
縦にも横にも大きく揺れる中で必死にうずくまり、声も出ないほどの恐怖に襲われる。
そんな状態に耐えていると徐々に揺れが収まり、少しずつ平常心を取り戻して、薄暗くなった周囲の様子をうかがう。
屋根の一部が崩れたらしく、頼りない星の明かりと遠くで点滅している非常灯のおかげで真っ暗ではなかった。無意識に強く握りしめていたライトを点けて、改めて周囲を見回すと酷い有様だ。
「⋯なんてこった。」
ため息のように独り言がこぼれる。
気が抜けてその場に座りこんだ、体に力が入らない。運良く自分は助かったけれど、見える範囲は昔テレビで見た被災地そのものだ。無事な物なんて1つもない。
目の前が真っ暗になった気がした。
それからどれくらい時間が過ぎたのか分からない。
半ば放心していると、離れた場所から不意に物音が聞こえた。そうだ、生きてる人がいるはずだ。
呆けている場合じゃない、そう思うと不思議と体に力が戻ってきた。
「誰かいるか!怪我してないか!」
大声で呼びかけながらライトの明かりを頼りに物音のした方へ向かうが返事がない。
「おい!誰か!返事をしてくれ!」
床は様々な物が散乱しているが歩けないほどじゃない、念の為に近くにあったモップを杖代わりに進む。
「どこにいる!大丈夫か!」
その時、ライトで照らされた中を何かが横切った。
「なんだ?」
そちらを照らすと⋯人?人じゃない、人っぽい何かだ。あれはなんだ?
背が低く肌は汚れた緑色、ツバをまき散らす口元には人ではあり得ない程の乱杭歯が並んでいる。眩しいのか手で目元を隠しているが、意味不明な言葉でこちらを威嚇しているように見える。
「⋯ゴブリン?⋯嘘だろ?」
まるでゴブリンだ、漫画やアニメに出て来るような。
自分は夢でも見てるのか?そんな事を考えていると、そいつは眩しさに堪えきれなくなったのか大声を上げて飛びかかって来た。
驚いて咄嗟にそいつを突き飛ばしてまた驚いた。軽い。
頑張れば片手で持てるくらいだ。良く見れば骨が浮いていて明らかに飢えているし、突き飛ばされて立てないのか震えている。
「おい、大丈夫か?」
ゴブリンに話しかけてみるが、言葉は通じない「ギィギィ」と鳴いているだけだ。
こんな時どうしたら良いんだ?漫画やアニメなら躊躇いなく殺しているけど、虫くらいしか殺した事がない自分には無理だ。襲って来たとはいえ、光に照らされて怯えている生き物を殺すのか?
⋯いや、そもそも武器がない。モップで殴っても死なないだろう。
⋯見逃すか?また襲われたらどうする?次も勝てるとは限らない、後ろから突然襲われたら死ぬかもしれない。
「⋯もう襲って来るなよ。」
武器があっても殺すなんて無理だ、そんな事より救助だ、生きてる人がいるはずだ。
⋯たぶんまた襲われるだろう、言葉は通じないし、さっきの物音もきっとこのゴブリンが原因だ。
考えても覚悟なんて決まらない、もし襲って来たらその時はその時だ。ゴブリンから目を離さずにこの場を離れる事にした。
ゴブリンはすぐに襲って来た。
ある程度距離を置いて背中を向けたら、大声を上げながらさっきと同じように飛びかかって来た。さっきと同じように突き飛ばし、転んだゴブリンの顔を蹴った。
見逃したのに襲って来たゴブリンが悪い。正当防衛だ、結果的に相手が死んだだけだ。自分は何も悪くない。
何度も自分に言い聞かせていると、ゴブリンの体は煙の様に消えていった。
「⋯なんだ?」
荒くなった息を整えつつゴブリンが消えた場所を見ると、手のひらサイズの光る玉があった。柔らかな光は見ていてほっとする。
罪悪感が消えて行くようだ、同時に少しだけ冷静になれた。他のゴブリンがいないか周囲を見回してから、光る玉を観察する。
漫画やアニメで良くある魔石って物か?違う気がするが、悪い物じゃなさそうだ。
慎重に拾い上げてみると、すぐに粉々に割れて破片も溶けるように消えてしまった。同時に頭の中に知識が湧いて来る。
「召喚魔法?」
どうなってるんだ?夢でも見てるのか?さっきはゴブリンで今度は魔法?そんな事出来るわけがないと思う反面、出来て当たり前という確信がある。
まるで以前から知っていたかのように違和感なく、知らない知識が頭の中にある。
⋯使ってみるか?
幸い周囲に人はいないから変な目で見られる事もないし、魔法の知識を信じるなら呼べる相手は友好的な存在らしい。1人で行動するよりマシなはず。
一つ深呼吸をして、知識に従い、言葉に力を注いでみる。