たまと「かみさま」ちゃん
「たま」には、だいすきなおばあちゃんがいます。
もう、ずうっと長いこと、たまはおばあちゃんといっしょです。
かぞくなのです。
おばあちゃんは目が見えません。
年をとったせいかもしれないけど、たまがおばあちゃんと会う前からなので、たまにはよくわかりません。
でも、たまが「おばあちゃん」と呼ぶと、にこにこして、おいでおいでして、だっこしてくれます。
おばあちゃんのおひざは、とってもあったかいのです。
でも、ちょっとかたいので、なるべくおばあちゃんがいたくないように、たまはしずかにしています。
おばあちゃんの手はふしぎです。
はっぱがおちてカサカサいうころ、たまにあったかいネックウォーマーをあんでくれました。
「これでさむくないね」
おばあちゃんはにこにこして、たまにネックウォーマーをまいてくれました。
あかいネックウォーマーはふわふわで、たしかに、さむくなくなります。
おばあちゃんの手はまほうが使えるのかもしれません。
たまに、赤いネックウォーマーをつくってくれたあと、おばあちゃんは赤いてぶくろをつくりました。
りょうてに、はめて、いいました。
「ほら、おそろい」
おばあちゃんとたまは、おそろいのあかい毛糸をみにつけて、しろい、ゆきのなかをあるきました。
お正月なので、おばあちゃんはおまいりにいきます。
「ことしも、たまが元気でいますように」
たまも、おばあちゃんのとなりで、おまいりします。
「ことしも、おばあちゃんが元気でいますように」
すると、古いたてものの中で、なにか光ったようでした。
「おばあちゃん、だれかが、呼んだ?」
おばあちゃんは目がみえないので、なにかが光ったのに気がつきません。
そのまま、たまと、おうちにかえりました。
「ことしは、うんと、さむいねえ」
おふとんにくるまって、おばあちゃんは、そういってねむりました。
たまも、おばあちゃんのとなりでねむりました。
いつもならおばあちゃんは、あさになったらおきて、たまとごはんを食べます。
なのに、きょうのおばあちゃんは、あさになってもおきません。
「おばあちゃん、おきないの?」
たまは、なんどもきいてみましたが、やっぱりおばあちゃんはおきません。
おなかが、すいていないのかもしれません。
さむいので、たまは、おばあちゃんのとなりでねることにしました。
よるがきて、次のあさになりました。
おばあちゃんは、まだ、おきません。
たまはおなかがすいたので、こたつのうえにあったおせんべいをなめてみました。
しょっぱくて、ちょっと、食べられないかもしれません。
「おばあちゃん、おきないの?」
「おばあちゃんは、おきないの」
だれかが、そういいました。
「だれ?」
「わたし」
ちいさな、しろくて長いものが、しゃべりました。
「だれ?」
「わたし」
「なまえは、ないの?」
「わたしは、わたし」
「たまは、たまだよ」
「あたなが、たまなら、わたしは、かみさま」
「かみさま、ちゃん?」
たまがきくと、かみさまちゃんはわらいました。
「そうじゃないけど、それでもいいよ」
「おばあちゃんは、おきないの? なんで?」
「おばあちゃんは、とおくへいったの」
「どうしてとおくへいったの?」
「たまを、きらいになったからかな?」
「なんで?」
たまはびっくりして、なきだしました。
かみさまちゃんは、あわてて、たまにあやまりました。
「うそだよ。ごめんね。おばあちゃんは、たまのことが大好きだよ」
「でも、とおくにいったんでしょう?」
「そう。おむかえがきたからね」
「いつ、かえってくるの?」
「もう、かえってこないの」
「なんで? たまをきらいになったの?」
「ううん、おばあちゃんは、たまが大好き。でも、おむかえがきたら、いかなくちゃいけないの」
「なんで?」
「きまりだから」
しろい「かみさま」ちゃんは、そういいました。
たまは、決めました。
「おばあちゃんがかえってこないなら、たまがいけばいいよね」
かみさまちゃんは、こまった顔をしました。
「とってもとても、とおくに、いったんだよ」
「いっぱいあるけば、いいんでしょう。たまは元気だから、いっぱいあるいてもへいきだよ」
こまった顔をした「かみさま」ちゃんは、ちょっとかんがえてから、たまにいいました。
「じゃあ、いっぱいあるいていこう」
それからたまは、いっぱい、いっぱいあるきました。
となりにいる「かみさま」ちゃんは、少しもつかれたとはいわないので、たまもいいません。
やがて、空や水がきんいろに光っているふしぎなところまできました。
とっても、とっても、とおいところです。
もう、おばあちゃんのいえは、どこだかわかりません。
「おばあちゃんは、あそこにいるの?」
「たぶんね。でも、わからない。みつからないかもしれない」
「なんで?」
「おばあちゃんは、ねむっているかもしれないから」
「たまがよんだら、おきるでしょう? いつも、そうだったよ」
「そうだね。よんでみて」
たまは、おばあちゃんをいっぱい、いっぱい、よびました。
つぎのひも、つぎのよるも、いっぱい、いっぱい、よびました。
でも、へんじはありません。
たまがいるばしょは、たまがしらないところで、さびしいので、たまはちょっぴり泣きました。
「おばあちゃん、どうして、へんじしないの」
となりでみていた「かみさま」ちゃんが、べそをかいているたまをなぐさめてくれました。
「おばあちゃんは、耳がとおかったのかもしれないよ。もっと、よんでみたらいいんじゃないかな。それに、もっと、ちかくまでいったら、きこえるかも」
そうかもしれないと思い、たまはまた、いっぱいいっぱい、おばあちゃんをよびました。
でも、へんじはありません。
「おばあちゃんは、耳がとおいのかな」
「そうかもしれないね。あっちへいったら、きこえるかもしれない」
きんいろのみずが、きらきらひかっている、いっぱい、おはながさいている、みたこともないところ。
「おばあちゃんは、あっちにいるの?」
たまは、こころぼそくて「かみさま」ちゃんに、ききました。
しろい「かみさま」ちゃんは、こまったかおをしました。
「おばあちゃんは、たまを大好きだけど、もう、かえってこられないの」
「どうして? たまといっしょにいたくないの?」
「ううん、たまのことがだいすき。でも、もう、かえってくることはできないんだ」
「かみさま」ちゃんは、たまをなぐさめてくれようとしみたいだけど、たまには、よくわかりません。
ここは、おばあちゃんのいえとは、ぜんぜんちがう、しらないところ。
でも、たまには、空気のなかに、おばあちゃんのにおいがしたのがわかりました。
もっとちかくにいけば、もっとよくわかるかもしれません。
「おばあちゃん、あっちにいる」
きらきらした、きんいろのいけのむこう、あかねいろのくもと、ばらいろのうみが、まじわるところ。
「たま、そのみずをこえてはいけない。おうちにかえれなくなるよ。たま」
しろかった「かみさま」ちゃんは、いつのまにか、きんいろになっていました。
「どうして? おばあちゃんが、あっちにいる」
「おばあちゃんは、もうおうちにかえらないんだ。ずっと、ここにいるんだよ」
「なら、たまも、ここにいる。おばあちゃんがもう、おうちがいらないなら、たまも、もう、いらない」
「かみさま」ちゃんは、たまのたましいが、ひかるみずをこえて、とおくにいったのをみました。
ひかるみずのむこうで、たまが大好きなおばあちゃんが、たまをだっこしていました。
だまってみおくった「かみさま」ちゃんへ、きらきらしたくものむこうにいた、かんのんさまが、ほほえんでいました。
「たまは、ちゃんとこちらへきました。おばあちゃんといっしょです。しんぱいしないで」
かんのんさまが、そういって「かみさま」ちゃんをはげましました。
もう、たまのたましいは、みえません。
おばあちゃんの光といっしょになって、ひかるみずと、ひかるくものむこうにいるのです。