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なろうラジオ大賞6

プールの蜻蛉と彼女


高校二年生の初夏。プール開き前の清掃時、彼女はホースで水をかけられた。


「もう!やめてってば!」

彼女の怒った顔を見て喜ぶあいつ。分かるよ。彼女が怒った顔可愛いよな。でも水で濡れて風邪をひくかもしれない。あいつはそんな事考えない。自分が楽しければ周りも喜んでいると思ってる。


あいつが彼女を好きなのは、クラス中が知っていること。ただ、彼女は本気にしてなかったけど。


そのやり取りを横目で見ながら、俺はヤゴ採りに夢中になっていた。小学生の時はほとんどが夢中になってたけど、高校生にもなると数名のみ。残ったのは俺以外ガチ勢だから気が抜けない。


何とか数匹を確保した。水を浴びた彼女はジャージの下に水着を着ているから多分心配ない。ヤゴが手に入らない方が問題だ。


放課後、彼女とはプールで待ち合わせた。体育教師に忘れ物をしたと伝えて鍵を借りた。プールサイドに座って足をプールに浸す。流石にまだ冷たい。


しばらくすると水温にも慣れてきた。青空に白い雲が浮かんでいる。そよ風が気持ちいい。

「お待たせ!」

彼女だ。


プールから出て、持っていた袋を渡す。

「例のブツです」

「ありがと」


「ガチ勢と競ってそれだけ確保できたのスゴくない?」

「確かに」

「羽化を撮影するの?」

「うん。一緒に見ようよ」

「ごめん、俺引っ越すことになった」


「いつ?」

「来週。オヤジが転勤」

「そっか。一緒に見たかったな」

「あと、登校も今日で最後。色々間に合わなくて」


「撮影できたら送るね」

「楽しみにしてる。一緒に由衣夏も写してほしい」

「やだよ。それは別で。連絡するし、絶対遊びに行く」

「抱きしめて良い?」

「うん」


俺は由衣夏を腕の中に閉じ込めた。彼女のすすり泣く声が心を抉る。

「好きだよ」

「……私も」

「結婚したい」

「私のこと置いていくのに?」

「俺だけ残ろうと思って頑張ったけど」

不意に涙が浮かんで言葉が途切れた。


「……無力だ」

「大学はどうするの?」

「どうなるかまだ分からない」


由衣夏は俺の頬を両手で包んだ。

「たくさんバイトして会いに行く。勉強も頑張るから、同じ大学に行きたい」

「……俺も頑張る」


「見て、夕焼け。水面に反射してきれい」

「うん。由衣夏もきれいだ」

俺は由衣夏にキスをした。由衣夏は夕焼けに染まった。上目遣いで俺を見る。可愛い。離れたくない。



「パパー!」

庭で息子とプール遊びをしながら思い出に浸っていた俺は、水鉄砲で顔を撃たれた。由衣夏が笑っている。俺も笑った。





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