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06.愚かな王子は運動神経も悪い



 季節が移り変わるのは早く、もう数え切れないほどお茶会を行い、ライオネル様から貰った手紙は束になるほどになっていた。彼から貰った贈り物も部屋から溢れそうになっている。

 


 また、出会った頃はライオネル様は私よりも小柄であったと言うのに、いつの間にか身長を抜かされていた。彼に見下ろされるというのがなんだか慣れない。


 

 また私が「程よい筋肉がついた殿方が好みですわ」と言えば彼はこっそり鍛え始めたらしく、なんだか体付きもしっかりしてきたような気がする。

 


 私は私で女性らしい身体に成長していて、最近胸元がキツい気がする。新しい服を新調しなくてはと脳内にメモをする。ライオネル様には身長を抜かされたが、女性の中ではかなり高い部類である。




 

 そして私たちのデビュタントが来年に差し迫っていた。


 

 そのため私たちは王宮のホールを貸切ってダンスの練習を行っていた。

 


「ごめん!!」

「うわっ!?」

「危なかった……っ!」

 


 と、彼の叫び声が静かなホールに響いていた。私は表情を崩さないように必死だった。

 彼とダンスを何曲か踊っていたのだが、必ずと言っていいほど足を踏まれていた。

 


 ライオネル様は運動神経も悪かったのだ。

 

 

 ライオネル様が家庭教師に呼び出され離席している間に、あれはわざとなのか!?とライオネル様付きの執事に問い詰めてしまったほどだ。

 

 聞けば決してわざとじゃないらしい。体を鍛えるために講師を呼んだ時もかなり大変だったと聞く。


 

 しかしわざとで無ければいいといったことはなく、ダンス中に巻き込まれて転びそうになったことは数え切れない。

 くるりとターンをすれば、型からズレて楽しそうに何度もクルクルと回された。うん、目が回る。


 私はダンス講師とお兄様としか踊ったことがなく、型通りのダンスしか踊ったことがなかったのでとても動揺していた。


 

「リリィと踊るのは楽しいな!」

 

「左様ですか」


 

 私はずっと転ばないか冷や冷やしているけれどね!!!


 

 今は練習で使用人しか周りにいないから良いとして、私たちはいずれ公式の場でファーストダンスを踊る身分でなのである。

 もし衆目の前で二人で転びでもしたら暫くは笑い話の種になるに違いない。

 

 人の揚げ足を取る、人の失敗を酒のつまみにする。それが貴族社会というものだ。

 

 

 それに転んで万が一ライオネル様に怪我でも出来たら大変である。その時は私が怒られるに違いない。

 このままではいけないと、私は上目遣いでライオネル様に告げる。

 

 

「ライオネル様、たまに足元にも注意されるといいかと」

 

「嫌だ!」

 

 

 は? と言葉が口から飛び出そうになったのを何とか押し戻す。食い気味の否定だったぞ今。

 そうですか、私の嫌味(指図)には従わないと。さすが身分の高い王子様ですこと。


 

「せっかくリリィとこんなに近づける機会なんだ。

 足元なんて見ずに、ずっと美しいリリィの顔を見ていたいに決まっているだろう!」


 

 その言葉にこれまた頭が真っ白になってしまった。

 私が何か返事を返さないとと口を開いたその瞬間、ライオネル様の足を思い切り踏んでしまった。

 

 

 ハッとして青い顔で謝り倒す私に、

 

「これでおあいこだな!」と痛かったであろうに溌剌とした笑みを返された。


 私が一回踏んだだけで、これまでの十数回をおあいこにされてたまるか!と内心罵りながらも歯噛みしていた。


 

 

 帰宅して直ぐに、もうお役御免と退職したダンス講師を手配するよう指示を出した。

 

 

「執事長、今すぐダンス講師を呼んでちょうだい!」

 

「お嬢様のダンスは完璧だと太鼓判を貰って、レッスンは終わったはずですが……?」

 

「私はもっと足さばきを磨かなきゃいけないのよ」

 


 それから改めてダンスのレッスンを始めた。

 

 完璧と謳われるこの私がライオネル様の足を踏んでしまったのだ。なんという体たらく。

 

 

 それにこのままだと踏まれすぎて私の足が壊れてしまいそうだし、お気に入りの靴が汚れてしまうから仕方なくだ。


 

 

 努力の末、ライオネル様の足の運びを予測し避けるという技術を取得したのだった。

 彼とのダンスにしか活用されないので努力に見合わない気もするが、何とか私達のデビュタントまでに間に合って良かったと安堵するのであった。


 



 そしてデビュタントの一週間前のこと。またまた王家から贈り物が届いたと知らせが入る。

 


「お嬢様、夜会用のドレスが届いてます」

 

「今見るわ」

 


 このドレスはライオネル様が贈ってくれたものだ。

 

 事前に御用達のお針子やデザイナーを指名して、ライオネル様のデザインの指示に従いつつ、お洒落にしてもらうようお願いしていた。

 オーダーメイドドレスの用意は時間がかかり修正が難しいので、ここは念を入れた。

 

 彼女たちが裏切っていなければ、私が夜会で恥ずかしくて着れないようなものにはなっていないはず。


 


 恐る恐る箱から取り出して、薄目でドレスを見る。


 

 

 ライオネル様の瞳を彷彿とする深い青色のドレス。

 

 小さな宝石や金色の刺繍が美しく散りばめられていて、何処か満天の星空のように見えて目が奪われる。

 デザインも私に似合うマーメイドラインのドレスだった。胸元が空いたデザインは好きではないので、レースで隠されていてほっとする。

 


 ……デザイナーとお針子が本気を出しすぎた?

 

 

 あまりにもセンスがよすぎる。ライオネル様のデザインを全て無視した結果だったら、お披露目の時に機嫌を損ねてしまったらどうしようと少し心配になる。



 

 色んな意味でドキドキしながら、デビュタント当日。

 会場に向かう前のエスコートでドレス姿をお披露目することになった。

 


 記念すべきデビュタントということで、今朝の侍女たちの気合いは凄まじく、メイクもヘアセットも一種の芸術作品かのように美しいものとなっていた。


 

「リリィ! 物凄く綺麗だな!!」



 私を目にした瞬間、満面の笑みの大声で褒め言葉を頂いてしまい、私は表情が崩れないよう口元をギュッとしめる。

 そしてこの数年更に磨き上げたカーテシーをする。

 


「ライオネル様、素敵なドレスをありがとうございます」


「うんうん、やっぱりリリィに似合うと思ったんだ」



 本当にライオネル様のデザインでこれが出来たのかと驚いてしまった。まぁプロの監修が入っているのでこのクオリティになったのかなと納得する。

 その後も私がもういいと言っても止まらない彼から、何度も賞賛の言葉を受け取った。まぁでもライオネル様がご満悦そうで安心する。

 

 

「ライオネル様もとてもお似合いですわ」

 

「そうか! リリィから見てもかっこいいか?」

 

「えぇ、とてもかっこいいですわよ」

 


 私とお揃いの深い青の礼服に、差し色で金色の刺繍が入っている。何だかお互いの色を入れ合って周りに牽制しているみたいだと脳裏をよぎっては振り払う。

 私がそう賞賛の言葉を返せば、彼は嬉しそうにはにかんでいた。


 そうして私たちが入場する番になる。

 エスコートも散々練習したので、きっと形になっているだろう。



 会場内を歩けば、熱っぽい視線が隣にいるライオネル様に突き刺さるのを感じる。私には胸への視線が突き刺さってゲンナリするが、優雅な笑みは絶やさない。



 ダンスが始まるまでは社交の時間だ。

 ライオネル様への挨拶にたくさんの人が並び、私は移動を始める。結婚したら彼の隣で挨拶をしなければいけないのだけど、今は婚約者だから自由なのよね。


 

 仲のいい友人たちから耳寄りの情報や噂話を聞いて、私は次の流行りの予想などを話していく。

 そうして人の間を渡り歩いていると、話し声が聞こえてきた。

 


「やっぱりライオネル王太子殿下と踊りたいわね。一曲目は婚約者と踊るから、二曲目を誰が踊るかが重要ね!」

 

「狙っている人は多いから、今からお近づきにならないと……!」


 


 

 ライオネル様は見目と身分が最高にいいので、彼と踊りたい令嬢は沢山いるのだ。

 しかしライオネル様と踊るための特殊な足さばきを極めている人間は私以外に居ないと確信しているので、ほかの令嬢が彼と踊ろうとしていればそれとなく注意している。

 


「やめておきなさい。貴方のダンス技術ではライオネル様と踊れないわよ」

 

「……そっ、そんな酷い。婚約者だからって他の人とダンスをさせないよう牽制なんて、嫉妬ですか……?」


 

 そんな泣きそうにさせてごめんなさいね、貴方の足を守るためなのよ。きっと今日のために新調したであろう、リボンが着いた可愛い靴が汚れては可哀想でしょう。

 

 

 心の中では謝罪するが、これ以上馬鹿正直に「王子のダンスが下手すぎて貴方の足を踏んでしまうかもしれないの」と言っても私が不敬罪で捕まってしまう。


 

 どうしたものかと悩んでいれば、いつのまにか隣に来ていたライオネル様に肩を抱かれた。

 

 

「あぁ! 俺の婚約者が嫉妬してしまうから遠慮して貰えるか?」


 

 私が否定の言葉を入れる前に肯定されて、怒りで顔を真っ赤にした私は何も言えなくなる。しかし人前で王族の言葉を否定するわけにも行かない。


 

「それに俺はリリィ以外と踊る予定は無い!」


 

 ライオネル様の登場とその言葉に、ご令嬢は苦い顔をしていたが大人しく去っていってくれたので良しとしよう。

 大声で彼がそう宣言したからか、踊りたそうに周りに集まっていた令嬢達が蜘蛛の子を散らすように去っていき安堵する。


 というより挨拶はどうした挨拶は。あの長蛇の列をこの時間で捌ききったとは思えない。見れば置き去りにされた人の列が目に入ったので、私は彼を元の場所に戻し、一緒に挨拶を行うことになった。腰に回る手が外れないのである。


 

 

 先程の物言いに腹が立ったので次のダンスではわざと足を踏んでやろうかしらと考えたが、完璧な淑女である私がそんなことをする訳にはいかない。

 

 


 何とか挨拶の列を捌ききって一息ついた頃に音楽が流れだした。

 ダンスが始まる合図に、私達はホールの中央へと向かえば、自然に視線が集まっているのを感じる。全く、見目ばかり良くてエスコートは様になっているのが腹が立つ。


 


 何度も何度も練習したおかげか、冷や冷やすることも無く軽やかなステップを踏む。笑みを浮かべていれば、ライオネル様と目が合う。


 

 

「リリィは本当に綺麗だ」

 


 そう言って、私の身体が宙に舞う。くるりとターンをする時に身体を浮かされ、そのまま抱きとめられた。

 練習と違うことをするなと怒りたくなるが、歓声が上がっているので先程の動きは綺麗だったのだろう。

 

 

 華麗なファーストダンスが無事終わる。

 

 

 すると周りから溢れんばかり拍手を頂いて、練習した甲斐があったかなと笑みがこぼれたのだった。



 

もし「面白い!」「続きが気になる!」と思って頂けたら、


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こちら短編版もあるので良ければ読んでみてください!



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