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04.愚かな王子は好き嫌いが多い



 まだ暑さの残る秋のお茶会の日。もう片手では数え切れないほど、彼とのお茶会を過ごしてきていた。



 私は手に持つ扇子を少し揺らしてはそよ風を浴びていた。少しマナー違反だが、目の前にもっとマナー違反をしている人がいるため、多分私が怒られることは無いのでよしとしよう。


 

 私はいつも通り紅茶にもお菓子やケーキにも手をつけず、手を上品に膝に置いたまま目の前のライオネル様を見つめていた。


 

 彼はガツガツと下品に数多くのお菓子やケーキを口にして、ぐびぐびと音を立てて紅茶を飲み干し、おかわりを飲んでいた。


 

 それは毎回のことでもう慣れてしまった光景である。

 何度も食べ方や紅茶の飲み方について注意をしても、残念ながら治る気配はなかった。

 

 

「俺が全部先に食べるんだから、俺がいいって言うまでリリィは食べるなよ!」


 

 私がお茶会の席につけば、王族である彼がそう命令するのである。


 

 この完璧なスタイルや美しい肌を保つためにあまり甘味を食べない人生だったので、甘味を目の前で待てされてもそこまで怒るほど食いしん坊ではないのが幸いか。

 ライオネル様はどれだけお菓子とケーキが好きなんだと呆れるばかりである。

 


 初めの頃こそ呆れや戸惑いに満ちていたが、今では早く食べ終わらないかなと眺めるばかりだ。

 この間はまともに話せないので、ライオネル様を見つめるぐらいしかすることが無いため暇なのである。

 


「もう食べてもいいぞ!」


 

 ようやく満足したらしい。

 口の端にクリームやらお菓子の食べかすなどを付けているライオネル様にそう言われてから、私はようやく紅茶に口をつけるのだ。

 

 

 私は犬か?と馬鹿にされたように感じて眉をひそめてしまうが、犬のようにお菓子やケーキを食べている彼を思い出して怒りを鎮めるのが毎回のことだった。



「このお菓子は甘さが丁度良くてリリィも好きだと思う!」


 

 これで口にしてみれば、本当に私の好みの味なのだから少し悔しい気もしてくる。私は彼の好みはあまり知らないし、そもそも私も好みをまだ公言していなかったはずなのだが。

 私は甘ったるい味は好みではない。しかし食べている時に顔に出てしまっていたのだろうかと思い気を引きしめる。


 

 この後は先程とは逆で、紅茶やケーキやお菓子に口をつける私の事をジッと見つめられるので、少し居心地が悪いのである。


 視線を緩和しようと、私はライオネル様に会話を振る。これがいつものお茶会の風景であった。

 



 

 そんなライオネル様は好き嫌いが多かった。

 


 お昼休憩の時間に、私はライオネル様の所へ向かっていた。その日は珍しく彼が私の元へ会いに来ていなかったため、何かあったのかと思ったのである。

 どうやら彼は今昼食の時間のようで、顔だけ見ておくかと王族専用の食堂を覗いた時、驚いたものだ。

 

 

「こんなもの食えるか!!」

 

 

 と並べられている皿にほとんど手をつけずに、彼は派手な音を立てて立ち上がる。そうしてそのまま立ち去ってしまった。


 

 私が近くにいた料理人に聞けば、彼が食べられるものは本当にわずかしかないらしい。

 お茶会ではお菓子やケーキをあれだけ食べていると言うのに。

 


 

 このままでは栄養が偏り倒れてしまってはいけない。

 

 それに美しい私は、ガリガリやぶよぶよな婚約者を隣に置くつもりはないのだ。程よく筋肉質ぐらいが好みである。


 


 次の日私はいつもより早起きをして、髪をまとめてラフな格好に着替える。そして我が家の厨房へと向かった。

 


「おはようございますリーリエ様」

 

「あらおはよう。お邪魔してごめんなさいね、私に気にせず料理を続けて頂戴」


 

 こんな朝早くから料理人たちはあくせく朝食の準備をしていて忙しそうだ。邪魔をしないよう端の方を使わせてもらう。我が家の冷蔵庫は大きく何個かあるため、朝食用の食材は使わずに何か作ろうと新鮮な食材たちを眺める。


 

 私は花嫁修業として家事も一通り覚えている、完璧令嬢なのだ。簡単な料理ぐらいなら余裕で作れるので、過去には使用人に振舞った事だってある。


 

 公爵令嬢にしてはとても珍しく、掃除洗濯もお手の物だ。

 ドレスなどの難しい服でなければ、着替えも一人で出来るのも珍しいことだろう。

 万が一、明日何かがあって平民になってしまったとしても家の事は大抵出来ると思っている。そんな人生甘くは無いかもしれないが。

 


「あとこれから私の昼食は自分で作るからもう作らなくていいわ。そして毎朝ここに来るようになるので、よろしく頼むわね」

 


 私が包丁と野菜を手に、ここにいる料理人達に告げれば予想通り動揺の声が聞こえる。抗議の声が聞こえなくもないが、とりあえず野菜を切る力強い音でかき消しておく。

 

 

 特に怪我をしたりすることも無く、無事に完成した。


 

 丁度朝食も出来たところだったのでそのまま食堂に向かい、家族と食事をとる。いつもより早起きをしたせいか少し眠くて欠伸を我慢するのが大変だった。

 


 私は気持ちを切り替えて午前の王妃教育に励む。欠伸なんでしようものなら先生から雷が落ちること間違いない。



 

 そうしてやっと訪れたお昼休憩の時間に、私はライオネル様のところへ突撃した。朝一番に彼の昼食は要らないと使用人に伝えていたので、彼はまだご飯を食べていないことだろう。

 

 

「ごきげんよう、ライオネル様。一緒に昼食を食べましょう」

 

「リリィ?」

 

 

 彼は突然現れてそう言った私に驚いたようだった。

 私はそんな彼を無視して横に座り、家から持ってきたカゴを開ける。

 そして野菜とお肉がたっぷりの栄養満点サンドイッチを取り出して、困ったような表情の彼に見せつける。

 

 

「私が作りましたのよ、このサンドイッチ」

 

「え、公爵令嬢のリリィが?」

 

「私に出来ないことはありませんわ」

 


 私は彼に笑顔を向けて、サンドイッチを口にする。

 勿論優雅に見えるよう小さな一口である。そのため大して口の中には入らなかったのだがしっかり咀嚼する。

 

 

 野菜を多めに入れているが、どれも新鮮なものを選んだため苦味が少なく瑞々しい。

 お肉やチーズも入っているため食べ盛りの男の子であるライオネル様でも満足感のあるボリュームになったのではないかと思う。

 手づくりソースにもこだわったので、自画自賛にはなるが中々美味しい出来だと思う。

 

 

 私の休憩時間は決して長くないので彼に食べさせる前にしっかり私も食べなくては。淑女の食事は時間がかかるものなのだ。


 

 私がひとりでゆっくり昼食を楽しんでいれば、そっと彼の手がカゴに伸びる。

 何だか野良猫に餌をやっているようだと思いながら、何か声をかけることはせず横目で見るだけにとどめる。

 

 

 野菜が多いからか彼は覚悟を決めたようにギュッと目を閉じて口に入れて、何度も咀嚼して飲み込む。

 

 

 するとライオネル様はパチクリと目を丸くして、その後は夢中で大きな口を開けて食べていた。

 食わず嫌いは良くなくってよ。


 

 私はようやく一つを食べ終わり、ライオネル様が美味しそうに食べている姿を眺めていた。

 すると途中で私の分を気にして、珍しく気をつかったのか彼の手が止まり、私の方をちらりと見た。


 

「私、もうお腹いっぱいですの。あとは食べてくださる?」

 


 これは本当だ。私は貴族令嬢らしく少食な方であり、ボリュームのあるサンドイッチ一切れでもう満腹になっていた。

 それにカロリーも気になるので、もう食べるのはやめておきたいのが乙女心の本音だ。

 

 

「……そうか! じゃあ俺が食べてやる!」

 


 私の言葉に分かりやすく嬉しそうな笑みを浮かべたライオネル様は、残りのサンドイッチをバクバク口に放り込んでいく。

 

 

 綺麗に食べないものだから、ソースやパンくずが口の周りについてしまっていた。優しい私は紙ナプキンで拭ってあげる。


 

 そうすれば彼はキョトンとした顔をしてこちらを見つめた。不敬だったかと少し後悔したが、特に「不敬だぞ!」と怒鳴られることもなく大人しいままだったので良しとしよう。

 


 そう安堵していれば、ライオネル様はわざとつけてもそうはならないだろってぐらい口の周りを汚していた。

 仕方ないので拭ってあげて、また汚れてというのを繰り返していれば、気がつけば完食してくれていた。



「すごく美味しかった……!」

 

「それはようございました。明日からは一緒に食べましょうね」

 

「……え? 今日だけじゃないのか?」

 

「えぇ。また明日もここに来てくださいまし」

 


 あらいけない。午後の授業に遅れてしまうわ。

 

 

 私は彼に華麗なカーテシーをして、軽くなったカゴを片手にマナーの先生に怒られないほどの速さでその場を後にする。

 

 

 そして私の王妃教育のある日は、ライオネル様と昼食を一緒にとる事が習慣となった。


 

 彼に会える口実ができて嬉しいとかは決して考えてなどいない。毎朝わざわざ早起きして昼食を作る手間が増えて、とても面倒なだけである。

 彼の苦手な野菜を肉で巻いたり、肉の中に隠したりと試行錯誤することも難しいのである。


 

 

 そうして今日も私は二時間ほど早起きをして、厨房で料理人達に混ざりながら、前日から仕込んでいた食材を手にするのであった。


 

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