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15.完璧令嬢は密かに笑った



 ドアが閉まる音がした瞬間、疲労困憊の私ははしたなくもベッドに倒れ込む。眠気に抗うように、視線を動かす。

 やっと二人きりになれた寝室で、ライオネル様がずっとしょぼくれている。今日は雨に濡れた犬になる日なのだろうか。


 


「ライ」


 


 私はベットに座り、立ち尽くした彼の愛称を呼ぶ。微妙に離れた距離にいるので手招きをした。

 


「……リリィ、さっきはごめんな」

 

「あら、せっかく二人きりになれたのにまだ仕事の話をするの?」

 

 

 憂鬱な会議の話などしたくないので、話をそらそうと私が可愛らしく頬をふくらませれば、目線が泳ぐ。貴方は何も謝らなくていいのに。


 

「だってでも、また俺は何も出来なくて……リリィの仕事を増やしてしまったし」

 

「ライはそのままでいいのよ。そのための婚約者でしょう?」

 

「仕事をしてもらうために婚約者になったわけじゃない!」


 

 聞き慣れた怒鳴り声。でもこれは私への愛故なのだから嬉しく思う。


 

「ふふ、そうね。ライは私のことが大好きだものね」


 

 私が微笑みながら言えば、彼は顔を真っ赤にして押し黙る。昔から恥ずかしがり屋で、意地っ張りなのだ。彼も私も。

 

 それでもモゴモゴと先程の会議の話を蒸し返そうとしているので、微妙な距離感を保っていた彼にグイッと近づいた。


 

 

「もう、私と仕事どっちが大事なの?」

 

「もちろんリリィに決まっている!」

 

 

 私が執務室でのお返しに悪戯っぽく笑えば、予想通り即答で抱きしめてくれた。私もよ、と優しく笑えばそっと唇が重なる。胸に伸びる手も今度は避けたりはしない。

 

 

「愛している」

 

 と告げてくれる貴方の声に私は目を細める。

 

 私も本当に愛しているわ、





 




 





 

 私だけの愚かな王子様。


 

 

 私の手腕があれば優秀な家庭教師を周りに置き、立派な統治者に導くことだって容易い事だっただろう。


 

 でも、私はあえて王族として相応しい最低限の教育で留めた。だって、完璧になってしまったら私の存在価値が無くなってしまうもの。


 

 私が必要なくなってしまうなんて耐えられない。

 

 そういう意味では私も、彼の両親とやっていることは変わらないだろう。自分勝手な理由で、貴方の教育を制限した。

 でも私はいいの。アイツらと違ってライオネル様を心から愛して、最期までしっかり責任を取るのだから。


 


 彼が生徒会室で側近に婚約破棄を勧められたあの時、間違った選択をしなくて本当によかった。

 

 

 もし仮に、あの時私と婚約破棄をして聖女アリスを選んでいたなら。

 

 

 私は全てを投げ出して、すぐさま計画的なクーデターを起こし、穴だらけの王家を容易く落としていた。

 そして間違いなく私がこの国の女王として君臨することになっていただろう。



 そうして誇りも立場も居場所も家族も失って、心身ボロボロになったライオネル様を、私が助けてあげようと思っていた。そうしたら彼は私の手に縋るしかなくなるもの。

 

 

 私が国を導くその隣で、ライオネル様は日の当たることのない王配として暮らしてもらおうと思っていた。




 

 その時は、側近たちは今のような生温い制裁では飽き足らず、全員命を落とすよう仕向けていたかもしれない。

 聖女の意見を聞くどころか保護するなんて全く考えずに、聖なる力をただ利用することにしていただろう。


 

 

 ちなみに彼女を苦しめていた聖魔法制御装置を作ったのは何を隠そうこの私だ。

 


 もう何年前になるだろうか。

 今では読める人はほぼ居ないという古語を独学で習得し、古代の本を読み漁っていた私は、聖魔法についてこの国の誰よりも詳しかった。

 

 

 年々聖女が現れる頻度が減ってきているため現代の本にはたいした情報はないが、古代の本には聖魔法について詳細に書かれていたのだ。汚く腐ったこの世界で、清らかな魂を持つ者が産まれにくくなるのは必然だろうと私は鼻で笑った。


 

 きっと私は何度転生したとて聖女にはなれないだろうと思うが、それでいい。

 

 

 ちょうどその時の私は、暇つぶしとちょっとした小遣い稼ぎのため、全属性の制御装置を作成しているところだった。

 そして聖魔法について知識を得たため、ついでに作って販売していたのだ。

 

 それでも理論上は完成したが、その時は聖魔法の使い手がこの国には居なかったため、本当に使えるかどうか実験が出来なかった。

 

 どうせ買取手も聖魔法の使い手に使う用途ではなく、聖魔法信者のコレクターに刺さるだろうと思い軽い気持ちで販売したのだが、まさかちゃんと効果があるとは。


 

 毒を盛られる危険が日々付きまとう貴族なら喉から手が出るほどに欲しがるであろう、毒消しの効果があるブレスレットを幼少期から簡単に作り出すことができるぐらい私は天才なのだから当然か。

 

 そんな私でも、長時間座ってても疲れない椅子は作れない。とほほ。


 

 

 現在私の運営する教会で、聖女アリスは日々聖魔法の制御の方法や効率のいい聖魔法の取り扱い方を学んでいる。

 

 どうやら彼女は私が公爵家や次期王妃としての伝手で、聖魔法を教える事が出来る人材を派遣してくれていると思っているようだが、裏で指導内容を伝えているのはこの私である。もちろん私に不利になることは教えていない。


 

 

『聖女が愛される幸せな王妃になった時、その国は聖なる結界が張られ、聖女が亡くなるまで災害や不作、疫病に襲われることは無い』とかね。

 

 

 

 すっかり私の信者になった聖女アリスは、今日も私達の国民を救うために汗を流しながら笑顔で働いているのだろう。




 

 アリスは全て私の手のひらの上だということを知らずに、国民の為に力を使いたいという願いを叶えて幸せになったのだ。


 

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