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14.心の綺麗な聖女は涙を流す



 公爵家である私は伯爵家に圧力をかけ、アリスの養子縁組を切るよう仕向けた。でっぷりと太った貴族らしい伯爵はしばらく渋っていたが、私にとっては端金である手切れ金をチラつかせれば目を輝かせてすぐに頷いた。

 


 そうしてアリスと無事に縁が切れたあと、伯爵の脱税の証拠や聖女の力の悪用を世に知らしめた。そうして彼の爵位を剥奪し、平民となった彼はあっさりと死刑となった。

 

 

 聖女は護られるべき者と国の法で定まっているのだ。

 


 かなり昔に制定されたものなので、ただの伯爵である彼が知らないのは無理ないが、少し考えれば分かりそうなものを。



 その話題を聞いて、聖女アリスを虐めていた人達は恐れだろう。それでも、悪役令嬢リーリエが全ての罪を被っているからバレることは無いと思っていたかもしれない。

 


 しかし冤罪を被せられたまま大人しく泣き寝入りするような女は悪役令嬢ではなくってよ。


 

 私は今までじっくり集めていた証拠をばら撒き、虐めていた人達の名前を世間に知らしめたのだ。学園内は阿鼻叫喚の嵐だった。それぐらい小さな虐めに加担していた人も含めると人数が多かったのだから。

 


 退学、停学、内定取り消し、婚約解消など、様々な事が短期間で起こるようになった。学期末に起こり、この先の未来に困っている皆を助けるのも私だ。困らせたのも私だが。

 若ければ誰でもいいと言った後妻募集中の子爵を紹介したり、人手不足の傭兵や兵士団に送り込んだり。

 勿論人材の提供ということで、私にはたんまりお礼が届いているので皆幸せだ。

 


 

 そうして平民となり学園をやめることが出来たアリスは、聖魔法制御装置を外され私の管理する教会で働くこととなる。

 

 

 聖女、聖なる力を求める貴族は数多く居て、せっかく平民に戻れたのにまた貴族の養女にされて二の舞になりかねなかったので、私が聖女をキャンベル公爵家の配下に置いたことを宣言した。その上で聖女を誘拐でもしようものならば、我が公爵家を敵に回すことになるのだ。


 

 私は彼女に聖女の位に相応しい立場を与え、人々を救うという仕事を与えた。

 

 

 人を癒し、各地を周り地を繁栄させ、この国を豊かにすることを義務付ける。それに責任はあれど、貴族であるよりはよっぽど自由だ。


 


 私はある日仕事の合間を縫って、彼女のいる教会へと訪れた。


 

 アリスは子どもたちと一緒に土にまみれて畑を耕していた。遠くからでも彼女の笑い声が聞こえてくる。

 目を細めて爽やかな風に吹かれていれば、私に気がついたアリスが慌てて駆け寄ってくる。

 


「リーリエ様! どうしてこんなところに」

 

「田舎にあれど一応私が管理する教会ですもの。自由に来ていいはずよ。それに貴方がしっかり働いてるか見に来たの、どうやら息災のようね」

 

「えぇ、毎日が幸せです。なんとお礼を言っていいのか……しかしこれでは罰にはなりません」

 

「いいえ? 貴方は死ぬその時まで、この国のために、次期王妃となるこの私のために働き続けなさい。それが罰よ」


 

 私の言葉を聞いたアリスは、涙を零していた。泣きじゃくり、土にまみれて質素な服を身に纏う平凡な姿。

 


 しかし、学園にいた頃よりよっぽど彼女は美しかった。


 

 聖魔法は、清らかで高潔な魂にしか宿らないとされている。この汚い世界に生まれてしまった、心優しい人間を守るための神からの贈り物が聖魔法なのではないかと私は思っている。


 

「リーリエ様の御心のままに」


 

 彼女が落ち着いたところで、聖魔法について教えることが出来る人材をここに派遣すると言ったらまた感謝された。

 今は畑に聖魔法が使えないか確かめていると教えてもらった。寒さに強い種や栄養豊かな土が出来れば、作物の成長具合も大分変わるだろう。

 

 

 彼女は広がりかけていた感染症を食い止め、災害があれば怪我人を治しに行き、今は不作の改善を試みている。

 きっと遠い未来では聖女アリスの名が深く刻まれ、数多くの功績が記されているだろうと思う。



 遠い未来で、私とライオネル様は一体どんな風に書かれているのだろうか。



 

 


「聖女アリスが国のために聖なる力を捧げ、豊かになるよう努力しているのは、学園時代にお世話になったライオネル王太子殿下のおかげだと言っておりました。

 

 彼女がライオネル王太子殿下のためにこれからも奇跡の力を使っていくのであれば、今後は安泰に向かうと考えています」


 

「あの聖女アリスか……!」

 

「いやはや、これは素晴らしいですな」

 

「ライオネル殿下もいい働きをしたものだ」

 


 私の言葉に彼らは沸き上がる。どの世代でも聖女は夢の存在だ。その彼女を囲い込み、国のために働かせられるならば安泰だと騒いでいる。

 ライオネル様がなにか言いたそうにしているのを、腕をギュッと握りしめ止める。


 

「これが資料ですわ。次の会議では詳しい計画書を持ってきますので、今日はここまでとさせて頂きます」

 


 簡易的な礼を取り、立ち尽くす彼の腕を引っ張ってその場を後にする。扉が閉まる音で、息苦しい会議も終わったと実感しようやく肩の力が抜けた。


 

「もう部屋に戻りましょう」


「わかった」


 

 時間も遅いし疲れたので、今日は仕事を休もう。残りの仕事は部下がやってくれるだろう。そういうことにしておいて、私はライオネル様と寝室へと向かった。


 

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