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13.愚かではなかった聖女は罪を告げる




 私はライオネル様を庇うよう前に出て話し始める。


 

 

「長年続いている不作についてですが、聖女アリスが聖魔法を用いた新しい農業方法を取り入れています。

 

 試験段階ですが、寒さに強い作物が出来れば広範囲で栽培していく予定です。その過程で、平民の雇用を拡大し少しずつ状況が打破できると思われます」




 


 聖女アリス。彼女は決して賢くはなかったが、側近たちのように愚かではなかった。


 

 彼女のライオネル様を見つめる瞳に、恋する熱がないことを知っていた。彼女はいつも笑っていたが、どこか怒っているようにも見えた。


 

「あなた、私に言いたいことがあるのではなくて?」



 私は全ての粛清を始める前に、こっそりとアリスを呼び出した。思えば、二人きりで話すのはこの時が初めてだった。

 


 私の呼び出しに緊張した面持ちで、彼女はちゃんと一人でやって来た。私に何をされるか分からない状況で誰か男性を連れてくるかとも思っていたが、私のお願いを律儀に守っていた。


 

「……失礼ながら、正直言わせていただきます」


「ええ、今は無礼を許可するわ」

 

 

 そう言って、彼女はいつもの笑みではなく真剣な顔で私を見つめていた。小さく深呼吸をして、口を開いた。

 


 

「この国はまだまだ課題が多すぎます」

 

「えぇ、私も同意だわ」



 そう、今の国は決して豊かで活気に溢れているとは言えない。王家や一部の高位貴族の散財や見栄のために下々の税は重くなり、猛吹雪や災害による不作も続いている。

 貧民街は年々広がり失業者も増えている。

 冬を乗り越えるのが難しい人も、明日食べるものに困る人も大勢いる。そして不衛生な環境では感染症も広まり悪循環となっていた。


 

「私は本当は学園に通うのではなく、この力を使って今も苦しんでいる人を一人でも多く救いたい。聖魔法の新たな可能性を見つけたい。


 でも、伯爵様が許してくれなくて……多大なお金を寄付してくれた人にしか力を使ってはならないと制限されたのです」


 

 そう言ってアリスは喉元のチョーカーを見せる。それは聖魔法制御装置だと教えてくれた。

 彼女が伯爵家に引き取られた時に無理やり付けられて、逆らったり勝手に魔法を使えば電流が流れ気絶してしまうとのこと。それからは伯爵の言いなりになるしか無かったらしい。



「学園に通うのだって、この聖魔法の正しい使い方や他にも効率のいい使い方が分かればいいと通い始めたのに、何一つなかった」

 

「そうね、聖魔法について書かれた本はおとぎ話程度の記載ばかりだもの。ここの教師たちだってまともに教えられるはずがないわ」

 

「えぇ、私が無知なだけだったんです。

 そしてすぐに伯爵は私が高位貴族に見初められ嫁ぐために学園に行かせたんだって分かりました。


 できることが限られた中で、私は好意を持ってくれた男性を利用しようと思ったんです。

 私が貰ったネックレス一つで、孤児院の子どもたちが一年憂いなく暮らせるんです。ドレス一着で、貧民街の人達がパンを口にすることが出来る。そうしてお金を巻き上げていたんです」

 


 そう告白する彼女は自嘲気味に笑っていた。

 


「聖女様は平民の人気取りをしているって噂が流れていたわね」

 

「そう思われてもいいんです。でも、そうしているうちに王太子殿下に相応しいと持ち上げられるようになっていたんです。私が相応しいわけないじゃないですか!! 私、この間まで平民だったんですよ!?」

 


 肩を震わせて感情を露わにする彼女の言葉に嘘はないようだった。


 

「そうだったのね。でも聖女なら可能ではあるわ」

 

 

「私は王妃になどなりたくありません」

 

 

 私の言葉を鋭く切り裂いた。それは強がりでも謙遜でもなく、強い決意の目だった。

 彼女は男に囲まれて笑顔を浮かべていても、女子生徒から陰口を受けている時でも、いつもその瞳をしていた。

 

 貴族の平民差別意識は根深い。聖女と褒め称えられる反面、彼女がいじめにあっているのを知っていた。

 私の悪役令嬢という噂を隠れ蓑にしていたため、全て私のせいになっていたが。

 

 

「私は、自由な平民のままでいたかった。そうしたら、これからももっと誰かの役に立てたかもしれないのに」

 

 

 恵まれている彼女は伯爵家に縛られている。これからも彼女は鳥籠の中で生きていくのだろう。

 

 

「ねぇアリス、どうして私の元に大人しく来てそのような話をしたのかしら。学園で私は貴方ををいじめている悪役令嬢と言われているでしょう」


「だってリーリエ様は、私の事をいじめていないじゃないですか」


 

 まるで疑うことを知らないかのような、きょとんとした表情でそんなことを言われた。



「私、なんとなく人の悪意とかが分かるんです。伯爵様の時みたいに、悪意に気づいても活かせるかは別なんですけど……」


 

 聖女はそんな事まで分かるのかと目を丸くして、すぐに思い直す。


 

「嘘ね。私、貴方に悪意を向けてた自覚はあるわよ」


「いいえ。学園内でリーリエ様はずっと静観して、いじめをする人たちを馬鹿らしいと言う目で見ていました。さり気なく諌めたりもしてくれましたよね。

 

 リーリエ様から黒い感情を向けられた時もありますが、それはライオネル王太子殿下に近づいた時だけでした。

 婚約者であるリーリエ様なら当たり前のことなんです」



 諌めたつもりはない。ただ品のない会話や行動に辟易していて、身分を振りかざし黙らせただけだと言うのに。



「リーリエ様が私を呼び出した時、ついに怒られるのかと思ってました。それでもそれだけの事をしたので仕方ないと思ってもいたんです。

 でもリーリエ様に悪意の感情は見えなかったから、二人で話す機会も最後になると思って本音を話したんです」


 

「……そう。それなら、ライオネル様に近づいた理由も教えなさい」

「はい。次期国王に気にいられれば、支援や政策で国民が助かるよう仕向けることも出来ると思ったからです」



 半ば予想していた答えに私は目をつぶった。そして呆れた笑みが零れた。



「馬鹿ね、それなら私を頼るべきだったわ。あのライオネル様に政策を頼っても無理よ」



「そうですよね。

 でもその頃には、私は女子生徒にことごとく嫌われていましたから。きっとリーリエ様も悪意はなくても私のことが好きではないと思い、近づかなかったんです」


「……そう」

 

「それでも私は婚約者の居る王太子殿下に近づき、令息たちからお金を巻き上げ不敬なことを致しました。いかなる罰も受けます」


 

 そう言って彼女は深く深く頭を下げる。彼女が今、どんな表情をしているのかは分からない。


 

「……分かったわ。貴方に然るべき罰を下すわ」

 


 そう言って私は踵を返した。粛清を開始する。



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