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12.愚かな王子は優しい



 王太子になって両陛下から長年強い洗脳を受けてしまっていたライオネル様は、今でも尊大な態度も乱暴な言葉遣いも中々治らない。


 

 しかし、今後この国の頂点に立つ彼なら目をつぶれる程度だろう。中身が伴ってくれば、それもまたカリスマ性と人の目に映る日も遠くないと思う。


 

 彼もまた、まともな教育をして貰えていなかったのだ。

 


 文字すらまともに書けなかった彼に、私は手紙を通して字や文章の書き方を教えた。検閲に両陛下が関わっていると私は睨んで、こっそり直接渡すことを選んだ。

 私は持ち主以外には認識できなくなる魔法の箱をプレゼントした。この中に保管をすれば、両陛下にもバレないだろうと思ったのだ。



「いつもごめんな。手紙ひとつ書くのに凄い時間がかかって」

 

「いいえ? 私はいくらでも待ちますから、絶対にお返事はしてくださいまし」


 

 彼は毎回手紙を渡す時に申し訳無さそうにするので、私も毎回同じ言葉を返すのだ。

 優しい王子は、手紙など書いたことがなかっただろうに、出来ないと放り投げることをせず自分で時間をかけながら返事を書いてくれた。


 

 


 そして王太子である彼は、日々命を狙われていた。

 


 食事に毒が入っていることなど珍しくなく、彼は食事に抵抗感を持つまでに至っていた。王太子とは思えないやせ細った姿を豪華な服で誤魔化そうとしていた。

 優しい王子は、私とのお茶会で率先してお菓子やケーキを食べて、紅茶を飲んでいた。




 その日は暑くて喉が渇いていた。彼が紅茶に口を付けた後なら構わないだろうと、ティーカップに手を添えていた。


 

「飲むな!!!」

 

 

 彼はテーブルの上を薙ぎ払い、ティーポットが床に落ちて割れる音が響いた。怒号とその行為に驚き、思わず口に運びかけていた手を止める。

 周りに控えている使用人達はいつもの癇癪だと思っているのか、即座に動いたりはしなかった。

 


「誰だ! これを淹れたヤツ!!」

 


 怒り狂っている彼に疑問を抱き、注意深く紅茶の香りを嗅ぐ。そうしてみると微かに嗅ぎなれない香りがした。

 


「紅茶に毒物が混入している可能性があるわ!! ライオネル様は一口飲まれているから直ぐに医務室へお連れして頂戴!! そして今すぐ怪しい人物を絞り出しなさい!!」



 私の張り上げた声に使用人たちが慌てたように動き始める。私は警備を固めた方がいいだろうと、医務室までライオネル様について行こうと彼に駆け寄る。



 その瞬間、彼が口元を押えて大きな咳をした。彼の手には血が付着しており、私は青ざめて悲鳴を上げる。

 それを見た騎士はライオネル様を抱きかかえて揺らさないように配慮しながら急いで医務室へと運んでいった。



 私は気絶しそうになったのを何とか堪え、侍女に支えてもらいながら医務室へと向かった。

 王宮医に話を聞けば、口にしたのは少量であったため命に別状は無いとのこと。安堵した私に、彼は口を開いた。



「しかし、強めの毒でしたから耐性のあるライオネル様だからこそ何ともなかったのが幸いですかな。もしキャンベル嬢が口にしていたら重体になっていたでしょうな」



 そこで私は全てを悟ったのだ。彼が日々毒の危険に怯えているのも。お茶会で私を守るために先に口をつけていたのも。



 私はぼんやりと眠っているライオネル様を眺めていた。 周りの使用人たちに「ライオネル殿下が目覚めたら連絡をするからもう帰っていい」と優しさから言われても、私は首を横に振っていた。

 何時間か経って、貴方はようやく目を覚ました。

 


「ライオネル様!!」

「……リリィ」


 

 目を開けたばかりだからかどこか眩しそうな顔で私を見つめる彼は、どこか安堵したように笑っていた。

 涙がこぼれそうになって、ついキッと睨みつけるように口を開く。


 

「貴方はずっと、私のために毒味をしていたのですね」


 

 彼は甘味など好きではないと、今日初めて知った。

 ガリガリに痩せた彼がお腹が空いているからではなく、毒味をしていたと気づいた時の私の顔はどんなものだっただろう。



 嘘をつくのが下手なライオネル様は、何も口にしなかった。ただ困ったように笑うだけだ。

 

 

「いけません! 貴方は私よりもずっと尊き御方、毒味なら私がしなければいけないわ」

「それは絶対にダメだ!」


 

 私の言葉を遮るように彼は叫び、何度も駄目だと首を横に振る。

 

 

「リリィが苦しい思いをするのが嫌なんだ」

 


 その言葉に、彼はなんて馬鹿なのだろうと泣いてしまった。私が「馬鹿」と言葉を零せば、彼は怒ることもなく、力なく笑っていた。



 

 彼は食事が怖かったというのに、私の手作りのご飯は食べてくれた。恐怖感を抱えたまま、青ざめながら完食してくれた。美味しいとも言ってくれた。

 

 

 私はまともな料理人を王宮に潜り込ませていき、彼の食事環境を改善していったのだ。

 ガリガリで小柄だった彼は、程よい筋肉がつき、背も私よりずっと高くなった。もう健康そのものだ。



 

 

 両親からまともなプレゼントを貰ったことも無く、品のいいプレゼントを贈ることが出来なかった彼に、私の好みや人に喜ばれる贈り物を教えた。


 

 優しい王子は、私の誕生日はもちろんのこと、何も無い日にもプレゼントを贈ってくれた。

 

 世の中には、誕生日にプレゼントを贈らない婚約者だっている。使用人に任せるのではなく、自分で考えてプレゼントしてくれていたのだ。それが嬉しかった。

 そして私が贈ったものも大切にしてくれた。私が手作りして贈ったブレスレットには、毒消しの効果を付与している。

 


 

 ダンスの授業を一度も受けたことがなかった彼の、初めての私と踊った社交ダンスは酷いものだった。基礎の足の運びすら分かっておらず、何度も足を踏まれた。


 

 優しい王子は、私が密かに手配したダンス講師の厳しい指導に、私と踊るためだと根をあげることなく必死に努力してくれた。そうして例え失敗しても私がフォロー出来る程度の、何とか形になるぐらいには成長した。


 

 私がさり気なくまともな人材を二人の周りに配置したのもあるだろう。それでもお世辞にも恵まれているとは言えない環境で、腐らずに優しく真っ直ぐに立っていてくれた。



 

 そんな二人だからこそ私のように貴族らしく冷徹で、時には残酷な手段も取れる婚約者が隣に必要なのだ。

 

 

 王族に無礼を働いた使用人を処刑することも出来ない、心優しいロザリア王女殿下は女王には向いていない。

 

 これから彼女は隣国との国交の強化という名目で、隣国の公爵令息に嫁ぐ事になっている。

 それはあくまで口実で、留学に来ていた彼とロザリア様が両思いになったのを知って、二人の婚約を取り付けたのは仕事の出来るこの私だ。


 


 そして真っ直ぐでまだ学の足りない、いい意味で貴族らしくないライオネル様も王には向いているとは言えない。

 

 しかし、それは私が補えばいいだけの話だ。

 

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