11.優しい王女は救われる
彼らの劣悪な環境に気がついたのは、私が正式な婚約者になってから数ヶ月が経ち、何度かお茶会をして王妃教育のため王宮に通い慣れ始めた頃。
たまたまロザリア王女殿下の部屋の近くを通った時、部屋から悲鳴が聞こえた。私は不敬と知りつつも、暗殺者や強盗の可能性があるため彼女の部屋を覗き見た私は驚いた。
「どうしてこんな事も分からないのですか!!! 王族に生まれたという自覚がないのですか!?」
高貴なる身分である王女殿下に、家庭教師ごときが理不尽な授業をし、あろうことか鞭を降るっていたのだ。
すぐさま信頼出来る騎士を引き連れて扉前で待機させ、私だけが中に押し入った。
突然開いた扉に警戒したようだが、入ってきたのが小娘一人とわかると彼女は鼻で笑った。
「今は王女の授業中です。出ていきなさい」
「そうですか。私はリーリエ・キャンベル。将来は王族に連なる身、ご一緒しても宜しくて?」
顔を赤くして涙に濡れたロザリア王女殿下を庇うようにして彼女の前に経つ。
そうして授業とも呼べないお粗末なものに乱入し、その家庭教師を知識と言葉で完膚なきまでに叩き潰した。
「こ、この……っ!! 子供如きが私に逆らうんじゃないわよ!!!」
案の定彼女は逆上し、私が鞭を打たれそうになった所で私が合図を出した。その瞬間、扉が大きな音を立てて開かれ、控えていた騎士たちがその家庭教師を素早く捕らえた。
「ご苦労様。その女はとりあえず牢屋へ入れておいて頂戴」
ロザリア王女殿下の手当をしようと振り返ろうとすれば、私の服の袖が引っ張られた。
「ま、待ってください……私は、命を奪う処罰は、望みませんわ」
私はそのまま処罰をと思ったのだが、あんな目に合わされていた張本人、心優しきロザリア王女殿下が涙ながらにそう告げた。たどたどしく自信がなさげな彼女の、それでも真っ直ぐな瞳に、私は気づかれないよう小さく溜息をついた。
「分かりましたわ。皆様、彼女はクビにするのでそのまま外に放り出してください」
「あ、ありがとう……!」
だから私は、処刑はせずに家庭教師の彼女の人生を破滅に追い込み、生き地獄になるよう仕向けた。
紹介状もなしにクビにして、過去の被害者達を見つけ出して証拠を集め、慰謝料を請求するように仕向ける。
「慰謝料を請求するべきだわ。だって、貴方の心の傷は決して癒せるものでは無いのだから。お金は貴方たちを守ってくれるわ」
酷い目にあっていても告発も出来なかった臆病で優しい人たちの背中を押して、手続きを手伝ってあげて、家庭教師に沢山の慰謝料請求が集うようにした。
そこで、危うい闇金が手を差し伸べるように仕向けたのは私。でも、まともな人なら手を振り払うでしょう?
次に王女殿下の元にやってきた家庭教師は、人に教えたこともないような新人のリアナという女の子だった。これも両陛下の差し金だろう。
「よ、よろしくお願い致します!」
没落したばかりの元下位貴族で、まだ小さい弟と妹を育てるために高給のこの仕事に飛びついたらしい。また性根の腐った者なら追い出そうと、しばらく彼女の動向に目を光らせていた。
しかし彼女は知識が覚束無いだけで学問に対する熱意も、王女殿下に対する敬意と、まるで妹を見守るような慈愛の感情も見て取れたので合格とした。
しかし下位貴族の教育しか受けていない彼女が、一朝一夕の努力のみで王家の高水準の教育などできる訳もない。
そこで仕方なく私が教鞭を取ることになった。
家庭教師の子から教科書と専門書を奪い取り私が読み解き、噛み砕いて2人に説明する。そうして二人は十分な教養を身につけていった。人に教えるということは私も勉強になったので結果的には良かったと思う。
ロザリア様が成人しお役御免となったリアナは、今では引く手数多の優秀で素晴らしい家庭教師になったと聞く。
そしてロザリア様の使用人の質も最悪だった。
王女殿下の宝飾品を盗む、陰口、お湯が水に張り替えられている、食事がお粗末なものに変えられているなど、挙げればキリがなかった。
聞けば、ライオネル様が産まれてからはずっとこうだったらしい。両陛下も黙認しているも同然だと涙ながらに語っていた。
「私が王太子にもなれず、王女としても役に立てないから悪いのです」
「いいえ、ロザリア様は悪くありませんわ。
未来の王妃で、そして貴方の義妹になる私に任せてくださいまし」
そう言って使用人ではなく自分を責めてしまう彼女の背中を撫でて、粛清を開始した。
私が将来暮らす環境が悪いままなんて耐えられないもの。
王族の宝飾品を盗んだものは逮捕し借金苦になるよう仕向ける。
陰口を叩いた物は不敬罪で紹介状も無くクビにした。
水に張り替えたメイドには、ロザリア様に近づこうとすれば私の水魔法で真冬だろうと水浸しにする。
メイドの中には王宮に奉公に来た下位貴族のご令嬢が沢山いる。花嫁修業と、王宮に来る貴族や文官などから未来の旦那様を探しているのだ。
そのためロザリア様に酷い行いをした者の顔と名前を覚え、私がパーティやお茶会で素性を口にすればたちまち噂になる。
そうなるとまともな嫁入り先も見つからないどころか、噂を聞いた実家から怒られることになり連れ戻される。
王家に楯突き、未来の王妃に嫌われているなんて恐ろしすぎるもの。
賢い令息達は、私に嫌われていて、そもそも王家に不敬を行うような令嬢を隣に置くなんて、社交においてリスクが高すぎると分かるものね。
またある日のこと。普段ロザリア様に食事を作り運んでいる者達を呼び出した。
私お手製のスープとパンを彼女達の前に置く。
腐った匂いのする芽の出た野菜のスープとカビの生えたパンだ。
「ロザリア王女殿下に毎日このようなものを出すのだから、貴方達はこのような料理が好きなのでしょう?
この私がわざわざ作ってあげたのよ。食べなさい」
王女殿下の食事を床にわざと落としていた人の分の皿は、わざわざ床に落としてあげた。冷たい瞳で見下ろす私に震えたまま、誰も口にしない。
「公爵令嬢である私が作ったのに酷いわ。今すぐ、これを完食するか辞めるか選びなさい」
彼女達は青ざめながら辞めることを選んだ。もし料理を口にしていたら毒で身体が暫く痺れてしまっていただろう。賢い選択だ。
彼女達は心優しいロザリア王女殿下を見下し、何をしても咎められず反撃されるなんてないと思っていなかったのだろう。愚かな事だ。
そうして抜けた穴に私の息がかかったまともな使用人を周りに配置していった。段々とロザリア様の笑顔が増えていった。




