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09.完璧令嬢は粛清を終える


 そうして私達が卒業するまでに、無事全てを終わらせることが出来た。



 聖女アリスは既に学園を退学し、田舎にある小さな教会で今日も汗水垂らしながら疲れ果てるまで働いているのだろう。

 

 

 彼女が平民に戻った時、世間に衝撃が走っただろう。

 それならば囲い込むのも容易いと、数え切れない程の貴族連中が彼女を欲した。聖女という身分、聖なる力は喉から手が出る程魅力的なのだ。

 

 

 しかし誰も彼女の行方を掴むことは出来ず、私が聖女アリスを庇護下に置いたと宣言した。公爵位にある私に口出し出来るものは少なく、皆諦めるしかなかったようだ。

 

 

 唯一家族からは事前に相談しなさいと怒られてしまったのだが、キャンベル公爵家の利益になるのだから良いだろうと思う。


 

 学園では、「聖女が悪役令嬢の手に渡ってしまった、なんて恐ろしい……」などと散々噂されていたが、それは事実なので訂正はしなかった。

 



 

 オスカー先生も北の地方へと転勤した。

 

 

 学園長から許可をもぎ取ったあと、すぐさま教員寮で眠っている彼を横目に使用人たちに荷物を運び込ませ、質素な馬車に乗せて出発させたのである。目が覚めたら馬車の中で驚いたことだろう。一ヶ月程はかかる長い旅路なのだから。

 

 寒い寒い、北の大地で生涯を過ごしてもらうことになる。


 

 離任式もなく、次の日突然代理の先生からオスカー先生の転勤を告げられた生徒達は戸惑っていたようだ。それはライオネル様も同じようで、挨拶もなかったことを悲しんでいた。


 


 エリオットとローレンスは学園にはまだ居るものの、それぞれ忙しくライオネル様の周りをうろつくことは無くなったようだ。

 


 エリオットは放課後に文官たちの雑用係として働くことが義務付けられており、日々日々憔悴していくのが目に見える。学期末試験に向けて、今の現状を立ち直そうと勉学も頑張っているようで寝不足もあるようだ。

 

 

 それでも私は一位の座は渡すつもりは無いのだけど。


 

 元々優秀だと自負していた彼が、学園に入り筆記試験で二位をとった。女である私に負けたということがプライドを傷つけたのだろうと私は思っている。

 

 

 それから何かと突っかかってきて面倒だったが、一位と二位で切磋琢磨するのは悪くなかった。聖女アリスが現れてからは彼の順位が転落していくのを見てガッカリしたものだ。

 

 ライオネル様へ婚約破棄を進めたのも、私への意趣返しだったのだろう。

 

 

 身分もプライドも高い彼には雑用係としての仕事は中々厳しいことだろう。

 しかし宰相であるお父様に泣きついたって無駄だ。そうなったら私が絶対に許さないのだから。賢い宰相は私を怒らせるような事はしないだろう。


 

 年中人手不足な文官達にはとても感謝された。愚かではあっても、凡人よりは優秀であり仕事も早いとのこと。有効活用が出来て何よりだ。

 

「アイツの性根は叩き直してやりますよ」とベテランのおじ様達が快活に笑っていたので、案外数年後には立派な文官になれているかもしれないなと思う。



 


 ローレンスは就職活動に忙しいようだ。

 

 彼は元婚約者に泣きついたり、ライオネル様に縋ろうとしていたが、次にそのような行動をとったら更に罪を重くすると私が脅しをかければ大人しくなった。


 婚約者のいない令嬢方に媚びを売ったりもしていたが、卒業間近のこの時期に、婿入りが出来る相手などいるわけが無い。

 

 それでなくとも女性人気のあるかの侯爵令嬢に婚約破棄されたというだけで、ローレンスは女の敵であると噂が沢山出回っているのだから。

 


 諦めて就職活動を始めているようだが、結果は良くないようだ。まだ貴族プライドが邪魔をしていて、どんな仕事でも食らいつくという気概はないのだ。

 


 私はどうしようかなと考え込む。

 このまま卒業させて平民として街の自警団にでも入れようかと思っていたが、彼の平民差別思考は治らないようだ。このままでは平民を守る、救うという思考にならず良くないだろう。


 

 そこで私は辺境伯に連絡を取り、彼を働かせてくれないかと願い出た。もちろんお礼は物資の支援や金銭で。

 卒業前に辺境伯から兵になるスカウトが来て彼は喜んだようだ。貴族で兵士になるのと、平民で兵士になるのとでは待遇がかなり違うからだ。

 


 しかし辺境伯の兵士として働くということは、戦争があれば真っ先に戦い、魔物が出たら駆逐するという命懸けの仕事だ。

 

 戦い慣れをしていて気性が荒く、体躯も恵まれている人間が集う場所で、小柄で大した力もない彼が生き抜くためには物凄い努力が必要になるだろう。

 



 

 段々と周りから人が消えていき不安そうなライオネル様に私は寄り添う。


 

「みんな俺から離れていくんだ……初めて出来た友人達だったのに」

 

「私は離れていきませんから、心配しないでくださいまし」

 


 そう言って背中に手を回せば縋るように抱きしめてきたので、彼からは見えないように笑ってしまう。

 貴方を今悲しませている原因は、貴方の友人達を排除したのは私だというのに。


 抜けてしまった生徒会の穴を埋めるように、私が選抜した優秀な生徒でライオネル様の周りを固めた。

 彼らもこれからライオネル様の力となり支えてくれることだろう。


 

 

 卒業記念パーティでは、ライオネル様とお揃いの色の衣装を身にまとって彼と腕を組み堂々と入場した。

 

 その様子を見てハンカチを噛む令嬢方も沢山居たが、無視して穏やかな笑みを浮かべる。


 

 音楽が流れ、私達は優雅にダンスを踊った。


 

 神聖な場で婚約破棄など行われることもなく、無事私達は卒業することが出来た。



 

 学園内では悪役令嬢だと散々言われたけれど、未来の王妃に表立ってそんなことを言う訳にはいかず直ぐにその噂も消滅していく。


 

 私が王妃になった暁には、悪役令嬢と呼ぶものを諌めたり中立派にいた生徒たちを重用しようと思う。私に楯突いた物の顔や名前はしっかり覚えたもの。

 

 

 卒業後は私が王宮に移り住み、本格的に執務に励むようになる。戴冠式の準備や結婚式の準備もあり、とても忙しいのだ。


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