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壇上に奮い立つ

「この娘のいう事はなにも正当性を持たない!儂等が今人間という劣等種を滅ぼさねばまたデインのような犠牲が生まれるぞ!」

「違う!じじいあんたはなんもわかってないのよ!」

「黙れ小娘!儂は竜神王の弟じゃ!」

「だからなんだってのよ!そんなこと言ったらあたしだって竜神王の姪よ!」

 3人が扉を開くと、わーわーというやじに混じって2つの怒声が響き渡る。

片方は聞き覚えのある声で、どうもケシニアが誰かと怒鳴りあっているようだ。

「小娘が儂に逆らうか!」

「関係ないわよ!じじいあんた達がやろうとしてるのは全ての世界を滅ぼすことよ!」

「2人とも落ち着いて!きちんと話をしないと!」

「黙れレイラ!そもそもお前が意味のわからんことを広めるからこうなるんじゃ!」

「……。」

 ディン達が入ってきたことには誰も気づいていないようだった。

あまりに幼稚な言い争いにディンは呆れつつ、スーっと大きく息を吸った。


「全員黙れ!」

「な、なんじゃ!?」

「だ、誰だ!?」

「ディン!やっときたのね!」

 そして集会場の入口から割れんばかりの大声を上げた。

 集会場の入口は1つで、そこからまっすぐに階段がありその先に演説場、それをぐるりと半円に木製の椅子が並んでいた。

 その椅子に座っていた竜神、そして壇上にいた3人がガヤガヤとしながら一斉にディンの方に目を向ける。

「もう一度いう!全員口を閉じろ!」

「……。」

「ディン、声でかいよ……。せめて一言……。」

「今は静かにするんだレヴィストロ。王を壇上に。」

「はいよ。」

 再び割れんばかりの声を上げると、今度は集会場が静まり返る。

レヴィストロとアリステスは小声で話し合うとディンを誘導し、ゆっくりと壇上へと向かう。

 ……あれは誰だ?……

 ……見たことがない……

 ……ケシニア様がディンと呼ばなかったか?……

 ……しかしそんなまさか……

 ささやき声がどこからともなく聞こえてくる中、100人ほどいるその場を進んでいくディン。

途中で、壇上にいる老人がこちらを睨んでいることに気づく。

「レヴィ、あいつは?」

「あー、僕のじいちゃんで、先代の弟だよ。」

「なる程……。」

 壇上にあがる直前、ディンはこっそりとレヴィストロに問いかける。

レヴィストロはため息をつきながら答え、肩を竦めて見せた。


「初めまして、ご老人。」

「貴様は誰じゃ。」

「俺はディン、100年後の未来からきた。」

「ディ、ディンじゃと?」

 自己紹介をすると明らかに戸惑いの色を見せる老人。

先ほどまでの威勢は何処へやら、信じられないものを見る目でディンを見つめている。

「竜神の皆さんも初めまして、俺の名前はディン・アストレフ。100年後の未来から時間を逆行してきた、10代目の竜神王だ。」

 ……やはり聞き間違いでは……

 ……どういうことだ!?……

「……。俺はデインに敗北し世界を守ることが出来なかった!だから時間を逆行し世界と人間を救うべくここに来た!人間を滅ぼすことは許さない!」

 ガヤガヤとうるさい大衆をぐるりと見回し、深呼吸とともにディンは2人の肩から腕を離した。

そして、痛みに耐えながら堂々と声を張り上げる。

 その場にいる竜神達のざわめきなど意に介さず、少年とは思えないような強い意思をもって。

「人間を滅ぼしてなんになる!全ての人間の闇が一斉に溢れお前たちは敗北し、世界が滅びるだけじゃないか!そんなこともわからないのか!」

「な、何をいきなり!?」

「デインの中にあった闇にはお前たち竜神のものも含まれていた!お前たちの闇がデインを蝕んでいるとも知らず、全て人間に背負わせるとは何事だ!お前らはそれでも守護神か!」

 老人が途中で何かを言おうとするが、ディンは必死の大声でそれをかき消した。

まだ体中が痛み、長くは立っていられないし呼吸も続かない。

 しかし、ここでやめれば竜神達は止まらない、そう考えたから。

「ここにいる全ての竜神に問う!王である俺に逆らい殺される道を選ぶか!それとも守護神としての宿命を果たすか!選べ!」

「こ、小童貴様が王である証拠はどこにある!」

「証拠ならここにある!この刻印は王の一族の人間と竜神の混血にしか現れない!そして王以外にディンの名を名乗る事を許されているものはいない!」

 老人の反論に対し、間髪入れずに左腕を天高くかざすディン。

竜の頭の刻印、それは力の制限を表した刻印。

純血の竜神には決して浮き上がらない代物だ。


 ……まさか本当にあの少年が……

 ……あの刻印はデインとディランにしかないはずでは……

 ……時間を逆行とはまさか……


「選べ!人間を滅ぼそうというものは今すぐ俺の前にこい!今ここで殺してやる!」

「こ、小童貴様好きにさせておけば!」

 ディンの決死の叫びに、やっと我に返ったレヴィノルが詰め寄る。

 しかしディンは動じない、今ここで決着をつけなければという思いが、肉体の限界を通り越して動かしていく。

「お前が最初に死ぬか!先代の弟レヴィノル!」

「ぐぅ……。」

「さあどうする竜神達よ!先代の意思を踏みにじりここで死ぬか!先代の覚悟を汲んで世界の為に戦うか!」

 もう誰ひとり口を動かしていない。

レヴィノルもディンの迫力に気圧され黙ってしまい、レイラ達もまたディンの決死の叫びに口を閉じる。

「世界の為に戦え!それが竜神に課せられた使命だ!光を守り闇を払え!」

 痛みと苦しみで顔が歪む。

今すぐ倒れてしまいたい、今にも泣いてしまいそうだ。

 ここにいる竜神達は、デインを見捨てあのような姿にした者たち。

そして自分はデインを止められず、弟達を失った。

「もう一度問うぞ!反旗を翻すものは俺の前にこい!切り捨てて俺の言葉が真実である事を知らしめてやる!」

 ディンの身体を動かすのは怒り、ここにいる全員に対しての途方もない怒りだった。

「竜神剣竜の誇り!」

 ディンは叫び、傍らに剣を発現させた。

闇のみを切り裂く剣、これで切られて傷を負えばディンの言葉が真実であると認めることになる。

「……。ディン、待ちなさい。」

「……?」

「ここにいる子は間違いなく私の子、未来からやって来た次の王。そしてこの子の言っている事は真実よ。私達一族が我が子デインを救えなかった結果、この子は家族を失いここにやってきた。私にはこの子が嘘をついているようには見えない。だって、若い頃のお父様そっくりなんですもの。」

 怒髪天をつくと言った形相のディンを止めたのはレイラだった。

ディンの手を握り剣を下に下ろしてから頭を撫で、凛とした声で竜神達に語り始めた。

「皆聞いてちょうだい、この子の刻印は私の息子たちと同じもの、決して純血ではない竜神にのみ現れるもの。そして今純血ではない竜神は3人しかいない。それが何よりの証拠。

それに……。」

 レイラはぐるりとあたりを見回し、ひと呼吸おいた。

「それにこの子がボロボロの状態で現れた時に傍らには竜の想い、デインの剣があったもの。きっとこの子は愛する者達を失ってしまったあとにデインを止め、デインは剣を譲渡した。それが真実ではなくて?この子の剣は誇りと言った、なら想いを持っている理由は一つしかないわ。」

 ……確かにレイラ様の言うとおり……

 ……しかし未来からやってきたとは……

 ……まさかあの術を……

 ……いやしかしあの術は王にのみ許されていると伝承では……

 レイラの確信めいた言葉にざわつく群衆。

「とりあえず皆考える時間を取りなさい、この子は未だ怪我がひどいのだから。尋問にかけようとするものがいれば私がお相手するわ、何人でもかかっていらっしゃい。」

「レイラ、さん……。」

「さあディン、貴方は一度部屋に戻りなさい、辛いでしょう?」

「そん、な、こと……。」

「ダメよ、貴方にはやるべきことがある。それを成す前に尽きてしまっては貴方の大切な子供達が悲しんでしまうわ。」

 ディンは気丈に振舞おうとしていたが、レイラには見えていた。

ディンが大切に握っている宝玉から、悲しみに満ちた声が響いているのに。

 おそらく痛みで限界のディンには聞こえていないのだろうが、それは今は休んでと叫んでいるように聞こえたのだ。

「テレスちゃん、レヴィちゃん、お願い。」

「了解しました。」

「ほらディン、行こう。」

 アリステスとレヴィストロはディンを両脇から抱えると、さっさと集会所から連れ出してしまった。

 レイラとケシニア、そしてケシニアの母アイラもそれに続き、竜神達もざわついたまま各々その場を後にした。


「おのれ小童……、まさか兄上の跡を継ぐじゃと……?」

 ただひとり取り残された、ふつふつと闇をにじませる老神を残して。


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