【第二話】勇者学校へ徒歩などで向かう魔王様
「つまりだな、吾輩は名誉が欲しいのだ。だから貴様のような者に跪き従者となってもらいたいのだ」
我が『レイメルナングス城』から瞬間移動した森の中の小道を歩きながら、同じく勇者学校を目指す小娘を仲間とすべく説得を行っている。
城の外の従者が増えれば吾輩の名声もうなぎ登り、評判ダダ上がりであろう。
そうすれば魔王などという蔑称は消え去ること間違い無し!
「うーん、ごめんね!」
「ふんふん、良いへんじ……えぇ?!どうして!」
「初対面の人とは……」
ぐ、ぐぬぬ……たしかにそれは厳しいか……。
吾輩が断られるとは……正直勧誘は500年ぶりで、テクニックを完全に失っているようだ。
「私は『フィリィ・サリアー』。友達ならなってあげる」
「なんだとぉ!?」
……友達だとぉ!?こやつ、何を言っているのだ!!
「友達って……なんだ?」
「んぇぇ!?友達知らないの!?」
「吾輩にも分からないことはある。当然のことであろう。吾輩は神ではないからな」
「いや……神様とは思ってないけど、友達を知らないなんて……ま、まぁそういうこともある……か。あるか?」
フィリィが腕を組んで考え込んでいるようだが、そんなに驚くようなことなのだろうか。
吾輩もしかして人類に疎すぎる?
「と、とにかく友達っていうのは、一緒に遊んだり、努力をする関係のこと。仲良しってことかな」
「あー!仲良しのことか!そうかそうか……我が従者にも仲の良い同士の者らもいたな……うむ!今日からフィリィと吾輩は友達だ!仲良しなのだから仲良くしようではないか!」
「う、うん!とりあえず勇者学校向かおうか!」
「うむうむ」
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「これは『ファイア』。炎魔法の中でも初級中の初級魔法だから、少し練習すれば簡単に習得できるよ!」
そう言ってフィリィは手のひらで燃える炎を消す。
しばらく森を歩いている間、フィリィは魔法の話をしてくれた。なんでも幼い頃から学んでいるらしく、魔法は得意なんだそうだ。
「ほぉほぉ!フィリィはすごいではないか!……やはり従者に欲しい」
こんなに小さく炎をコントロールするとは。吾輩も従者連中も魔法の出力を抑えるの苦手だからなぁ。よくデカイ魔法で城が大変なことになったものだ。
「そんなそんな……メイトもすぐできるようになるよ。ほら、そろそろ勇者学校に着くよ!」
ふむ……照れるフィリィはなかなか愛らしいではないか。
人の子もやはり子供か。
「フィリィは誰から魔法を教わったのだ?吾輩は教わったことがないか……」
「下がって!」
「え……うわっ!」
いきなり突き飛ばされ、吾輩はすっ転んでしまった。
「フィリィ何を─────」
起き上がるとそこに彼女の姿はなく、周囲を見回しても地面の足跡すら見当たらない。
しかし何が起こったのかわからない吾輩ではない。
「魔物か……」
突然対象を消し去ったり、瞬間移動させる術は存在する。しかしそのような上級魔法を使った場合必ず魔力の痕跡が残る。
だから吾輩もわざわざ勇者学校から少し遠くのここに瞬間移動したのだ。
今回、魔力の痕跡は無い。つまり───
「空か……」
浮遊魔法陣を脚に展開、身体が地面を離れ次第に高度を上げる。
森の木々を超え、上は空一色、下は森一色となった。
「居た。およそ一キロ先、直線」
目線の先を飛ぶのはフィリィを足で掴む猛禽類系の魔物。羽を広げて3〜4mと大型だ。
「低級の魔物。フィリィを食糧とするつもりか……生きるための狩り。それはよい。だが──吾輩と友達の会話を遮った罪、重いぞ」
炎魔法……はやめておくか、フィリィも焼いてしまう。ならば……。
「地に堕ちろ……空は貴様の物ではない!!」
風刃魔法『ウィンド・ブレイド』。
風の刃は空を斬り裂き、魔物へ迫る。
魔法は音速を超え、巨大な猛禽を縦一文字に直撃。
「グギャア!!」
真っ二つとなった魔物は少女を離し、重力に逆らうことなく落下した。
「空は吾輩の物だ…………ア"ッ!フィリィすごい落ちてる!」
誤算……放り投げられたフィリィはそのまま宙に浮いたままなはずがなかった。
「キャァァアアア!!」
ヤバいヤバい!!ヤバいぞ!フィリィがすっげぇ叫びながら落ちてるぅぞ!!
吾輩混乱してる!そそそそうだ魔法だ魔法。魔法で助けるのだ!えっ!?どの魔法?どの魔法が正解?
「あわあわあわあわあわあわあわあわあわ」
あっそうだ!瞬間移動魔法!これで拾うのだ!
「瞬間移動ぅぅぅぅぅううう!!!」
景色が一瞬にして変わる。といっても空の下、森の上というのは同じだが。
腕にはフィリィ。怯えるように目を瞑っている。
「安心しろフィリィよ、貴様は既に吾輩が助けた」
「えっ、メイト!?って落ちるうぅぅ!!」
フィリィが抱き着いてくる。吾輩がいるから大丈夫だというのに。
少しして着地する。うむ?やけに地面が硬い。まるで石畳のような……。
「お、おい!人が降ってきたぞ!」
「なんだなんだ!?」
「……おや?ま、まさか!?吾輩……」
瞬間移動で街の上まで来てしまっていたのかぁぁあ!?!?目立つのはダメなのにィ!?
読んでくれて感謝