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もう魔王なんて呼ばれたくない!〜500年城に籠ってた吾輩、勇者学校に通って汚名返上するのだ!〜  作者: 高端 朝
【第一章】勇者学校入学編

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【第十九話】冬の名残

「メイト・アクザード。全く、嵐のような子ですね」


ヘックスは困った顔で笑った。彼女の目線の先で、男がため息をつく。


「貴様に言われたらお終いだ」


空の青さが見下ろす勇者学校区。その周囲をぐるりと一周する白い壁は数メートルと分厚い。それに穴を空けたような正門は、荘厳且つ堅牢な造り。


通り抜ければ、まず警備員室がある。街に辿り着いた者はみな、最初に警備員を務める勇者と出会い、入区理由の回答や持ち物検査等の入区審査を受ける。瞬間移動で直接街に“侵入”したメイトなどは警戒対処となって当たり前なのである。


半刻ほど前、森の中メイト・アクザードはショウとヘックスの前に気絶したヴィンセント・アリを差し出した。


「ヴィンセントは多くの者を殺したそうだが、裁くのは吾輩ではなく、規律や遺族であるべきだろう。然るべき対応は大人に任す」


友を傷つけられたことへの仕返しは済んだ。もはやヴィンセントはメイトの対処すべき領域に居ないのだ。


小屋を指差し、


「フィリィとハーフエルフの男は怪我人ゆえ、治療を。頼んだぞ!」


そう己の教師と先輩になるはずの者に命令し、メイトは嵐のように何処かへと去っていったのだった。


ショウとヘックスは学校に着いてすぐ、二人の軽傷者を保健の教師、人攫いの重傷者を警備員勇者と、それぞれ別の者に預けた。


「三人とも向かう先は同じのようですがね」


「病室に行けるだけマシというものだろう。あの男に殺された者は、もうどこにも行けないのだから」


気づけば、ヘックスの灰色の瞳『ガルイアの眼』が映す光景は変容していた。いつも彼女の視界の中央に居る男の怒りが、悲しみと悔しさにその姿を変えていた。


態度には出さないが、自分の教え子となるはずだった者らの死が、ショウの感情を大きく揺さぶっていることがヘックスには分かる。


ヴィンセントの簡易小屋に入ると、ドロリとした異様な空気を感じた。視界の端には誰のものだか分からない手脚、臓物。嘔吐くヘックスに代わり、ショウが少女と狩猟部部長を連れ出した。その間、彼の感情は静かな怒りのみだった。


ここに来るまで感情の色を変えなかったのは、弟子に不安を感じさせないため、感情を隠していたからだろうか。ヘックスと出会ってから、ショウはそのような技が上手になっていた。


ヘックスは不意に、高い位置にある彼の頭を撫でてみる。昔、悲しくて悔しくて泣いていた自分に、両親は同じようにしてくれた。


ショウは彼女の手を払い除ける。忌々しげな顔を見せるが、彼の悲しみが薄れるのを、少女は視た。


こんなとき、彼女は自分の無駄に高い背と、人のマイナスな感情しか読み取れない不便な眼に感謝するのだ。


「フハハハハ」


わざと悪戯っぽく、悪魔のような笑いをしてみるが、その奥には本当の喜びがある。


ショウは顔を背け、話題を変えた。


「目覚めればヴィンセント・アリは外の警察施設へ連れていかれるだろう」


「何故です?奴は区内でも事件を起こしましたから、学校で捜査可能と思いましたが」


勇者学校にはそれなりの権力があり、区内で起きた事件事故の捜査権限がある。それ用の機構も存在する。


だが、


「今は警察案件だが、私の予想では恐らく、勇者案件となるだろう。そうなれば学校主体で手を出せるものではなくなる」


「なるほど」


ヘックスは思い出す。テイマーの人攫いは、桃色の髪の少女フィリィにはこの件の依頼主が誰であるか話してしまったと。


眼前の男は、その依頼主が勇者という力をもって戦わねば負ける相手であると考えているのだ。


──もしかしたら、ガルイア王国の北端に存在する……


そこまで考えて、身震いしたヘックスはショウを見る。彼の姿に怒りの色が重なっていた。


「その前に、できることをしなければならない」


ショウは少女に顔を向けることなく、スタスタと歩き出した。


向かうのは天を突く白き城、その職員室。今回の事件に関する情報を上に報告し、今後の対策対応を講じる必要があった。ヴィンセントへの尋問は最優先事項の一つだ。


「メイト・アクザードが現れたら伝えておけ。貴様の入学を許可する……と」


ヘックスは「了解で〜す」と適当に返事をし、空腹を鎮めに足を踏み出した。時刻は既に十二時を過ぎていた。


更に時が過ぎ──


夕暮れの就寝、夜の目覚めと共に起き上がったヴィンセントは全身に巻かれた包帯の奥の痛みを知覚する。学校の警備勇者に連れられ、窓のない、棺桶のような馬車に乗り込む。


結局、区外の勇者組織の指示を待つことなく、警察施設へと彼の身を移すこととなった。


対応が臆病に見えるほど性急に過ぎるのは、教え子の罪が露呈することを恐れた者が学校内部に居たからかもしれない。


冬が名残惜しがっているような、春の最後の寒い夜だった。


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