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もう魔王なんて呼ばれたくない!〜500年城に籠ってた吾輩、勇者学校に通って汚名返上するのだ!〜  作者: 高端 朝
【第一章】勇者学校入学編

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【第十六話】知りたくなったぞお主のことを

桃色の髪の少女は、霞む青き瞳を擦る。朦朧とする頭で、外を目指した。腕に力が入らず、扉は僅かにしか開かない。


数センチの隙間から、外の景色が視界に飛び込んでくる。最愛を失った日。己が勇者でなかったことを憎んだあの日を、無意識に想起した。


「友が世話になったようだのお!」


薄暗い森の中。白い髪の少年が、高らかに声を発していた。彼の緋い眼の前に立つのは、誰だったか。黒い短髪の、ぬらりとした、目つきの悪い男。


「さっきのケルベロスは……ヒッポグリフのいた森だ。冥府の番犬くらいいて普通か」


項垂れるヴィンセント。自分は奴に負けたのだとフィリィは思い出した。しかしどのように負けたのか?頭の中は霧がかっていて、記憶の象は輪郭を曖昧にしている。


「全くとんだ一日だ。踏んだり蹴ったりだ。人間()は増えるのに魔物()は減る。まぁ、来たのは塵だが」


尋常ではない状況であることは明白であり、少女は少年──メイトを助けなければと思った。しかし、少年の表情は明るく……恐ろしいほど昂っており、踏み出そうとした彼女の足を竦ませた。


しかし、少女の目に映った印象ほど、メイトは万全ではない。


死際の際際にて足を踏み外そうとしているフィリィ、ならびにカリッシュ・リョーを回復させるには膨大な魔力を要した。


魔力によって体が構成されるメイト──レイメルナングスは、魔力の消耗に弱い。


消耗と呼べうる消耗などしないほどに魔力総量の多い彼でさえ、ほぼ死体状態の二人を回復しては疲れるのだ。


だが彼は昂っていた。久方ぶりの消耗は死の予感を呼び覚まし、五百年に及ぶ城籠りによって錆びついた彼の感覚を研ぎ澄まさせた。


「フィリィらは無事。あとはお主だけ。かかってくるがよい、怒れるテイマーよ」


手首をクイクイと曲げ、挑発する。


「待て、メイト・アクザー……」


ヘックスが言い終わるより先に、ヴィンセントは矢を放った。


「心配は無用だヘックスよ。吾輩久しぶりのことばかりで楽しんでおる」


「何ッ!?」


驚愕するヴィンセントの目線の先、真白き髪の少年の額より僅か数センチ離れた位置で静止した(やじり)。メイトはヘックスに顔を向けたまま、矢を素手で掴んで見せた。


何度かジャンプし、体を温める。


「外界もよい!」


笑顔を輝かせるメイトとは対照的に、ヴィンセントの顔はみるみる怪訝に染まってゆく。


「テメェ……誰だ?」


「む?知らないのか」


魔王と恐れられし彼だが、今の姿はただの少年そのもの。誰だか知らないのは当然のことだった。


メイトは腰に手を当て、胸を張る。


「知りたくば教えてやろう。一度しか言わぬから心して聞くように。……ヴンッ!」


喉を整える。緋き瞳が輝く。声を張り上げる。


「我が名はメイト・アクザード!勇者となりてこの世に勇名轟かすッ!」


決め顔を決める。


「……予定の一般人であるッ!」


ヘックスに向かって「入学試験の続き、楽しみにしておるぞ〜」と手を振った。ヴィンセントへ視線を戻す。


「そうかそうか。後輩みてえなもんだったか」


「うむ?お主、勇者学校の生徒か?」


「メイト、その男はずっと前、退学になった者。人を殺した、学校の恥だよ」


ヘックスが言う。


「なるほどのお。しかし、何故(なにゆえ)人を?勇者になりたかったのではないのか?」


「俺は教師と仲良しになれなくてな」


彼の言葉が遠回しにすぎた故、メイトは意味をよく理解できなかった。


「ふむ。ワケありと見た。先輩と聞き、余計知りたくなったぞお主のことを」


理解できなかったなら理解したいと思うものである。


メイトは──レイメルナングスは人を、現代世界を知りたい。それは名誉挽回を成し、従者を護るためであると同時に、外界への単なる好奇心でもあった。


視界の中央に見据えた男は敵。折角ならズケズケと心にお邪魔しようではないか。とメイトは考えた。


「聞かせてみよ。お主の気持ち」


「誰が話すかよッ!」


ヴィンセントは叫び、矢を射る。するりと躱されるやいなや、突進。


──奴に射撃は効かねぇな


逆手に持った矢を直接メイトに刺そうとする。


大剣を振りかぶるヘックス。加勢しようとする足が止まる。視界の中央で、今にも刺されそうなメイトが彼女を見据えていた。


「手出し無用」


彼は言外にそう言っていた。


直後、ヴィンセントの懐に飛び込み、数発の拳を打ち、回し蹴り。


「話したくないか。話したそうに見えるがのう」


吹っ飛んだヴィンセントに先程掴んだ矢を投げ返す。躱されるがもとより当てる気はない。空を斬った矢は地面にめり込み、砂埃を上げた。


「わざと遠回しな言い方をするのは、『それはどういうこと?』を引き出すためであろ?話題を避けようとしている風にも見えぬしな」


ヴィンセントが舌打ちする。口を開けてみるが、「…………」反論の言葉が出ない。図星。押し黙る。


「勇者んなるには学校からの評価が必要なんだよ。そこの二人には分からんだろうが、人並みの生徒にとっちゃ死活問題だ」


ショウとヘックスを指差し、不服そうな顔でようやく吐き出したのは、彼の本心か、或いは再びの不意打ちを狙った時間稼ぎか。


いずれにせよ、この間も彼は攻撃を続けた。矢、ナイフ、袖に隠した蛇。メイトはそれを相槌の片手間に防ぎ、躱し続けた。


「そのためにテイマーとかいうクソしんどい技術を身につけたのに、クラスメイト殺したとか言われて退学だ。そんときあのハゲ、教師がなんて言ったか分かるか?」


口の端を吊り上げる。顔の下半分だけで笑う。


「『逮捕されないだけ感謝しなさい』だってよ。ふざけんなよ」


彼の語調はもはや憎悪の面構えを隠すことはない。


「逮捕するだろ普通。しないってことは本当は殺してないって知ってやがんだ」


その殺意の向かう先は当時の教師か、眼前にて心に入り込んでくる超然とした少年か。


「勇者を育てる勇者学校が俺を勇者の道から悪人の道に突き落としたのなら、いいぜ。お望み通り、勇者学校を悪人を育てた学校にしてやる」


ヴィンセントの瞳の奥に、どす黒い意志が渦巻いている。腕を組んだメイトはそれを見、


「そうかそうか。お主、そんなに勇者になりたかったか」


けろりとした様子。


「勇者は人々を護るヒーローだ。誰だってなりてぇに決まってるだろ」


「勇者になどならなくてもよいではないか!」


言い放つメイトに、この場の全員が言葉を失った。小屋の中のフィリィも同様である。


数秒、数分、或いは数時間の静寂ののち、言葉を搾り出したのは、最強の生徒、今勇者に最も近い少女だった。


「……メイト、キミ勇者学校に入りたいんだよね?」


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