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もう魔王なんて呼ばれたくない!〜500年城に籠ってた吾輩、勇者学校に通って汚名返上するのだ!〜  作者: 高端 朝
【第一章】勇者学校入学編

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【第十三話】黄金の卵 割れた卵

接敵直後、一秒に満たぬ思考の中でヴィンセントは判断した。敵の──ヘックス・パーシアスの武器は大剣。対して自分はナイフ。


「近づくっきゃねぇなあ」


緑茂る森の中。彼は地を蹴る。瞬く間に間合いを詰める。しかし──


「フンッ!」


ヘックスの斬撃は突風のように、恐ろしく速かった。


ヴィンセントはナイフを頭上に掲げ、受け止めることには成功した。受け止めることには……。


「ううッ……!」


ヴィンセントの脚は土を突き抜け一気に膝下まで地面に埋まった。直後、周囲の土が吹き飛び、地面に小さなクレーターができる。


その大剣は重かった。重過ぎた。


身軽に動くヘックスに、あれは軽いと錯覚させられた。その少女は、ただ単に、常軌を逸した筋力で、常軌を逸した重量の鉄塊を振り回していただけなのだ。


「バケモンがッ……!」


見下ろすヘックスに、ヴィンセントは笑うことしかできない。が、すぐに思考を走らせ、斬撃にへし折れたナイフの先端を投擲。少女の回避に乗じて移動した。


ヴィンセントはこの森を知悉している。学生時代、この森で学びこの森を学んだ。当然、ヘックスとの戦いに役立つ地形は頭に入っていた。


陽光は完全に遮られていた。昼間にも拘わらずそこは暗闇に満ち、そして数歩歩けば壁にぶつかる。木々の密接する地帯にヴィンセントは逃れた。


枝葉に身を潜め、少女の隙を見定めた。引き絞る弓は狩猟部部長から奪ったもの。弦が立てるキリキリとした細かな音も、この場では居場所を知らせる手がかりとなりうる。


しかしその音は一瞬にして掻き消される。


ズバンッッ!!と轟音。直後にメキメキと木が折れ、バサバサと枝葉の揺れる音が鳴り響いた。


「逃亡する隙も、ヒッポグリフを呼ぶ暇も与えない!」


少女の堂々たる叫びが聞こえたかと思えば、ヴィンセントの体は宙に浮かび、落下した。


ヘックスは木を一本斬り倒したのだ。そしてそれは、ヴィンセントが潜んでいたもの。


「なんで分かりやがる!」


ヘックスは大剣を構えた。敵の着地を狙う。殺しはしない。だが致命的な一太刀を浴びせる自信がある。


「勇者の嗅覚だよ!」


ヘックスがニヤリと笑うと、ヴィンセントは突如「フーッ」と息をついた。険しかった表情も落ち着きを取り戻し、


「安心したよ。俺の勝ちだ」


唐突な勝利宣言に、ヘックスは不可解に思う。


「何……?」


「視れる悪意は人間のものだけみたいだな」


確かにヘックスは終始敵を圧倒していた。しかしながら、少女に与えられた天賦の才をヴィンセントの経験が、一手、上回った。


「うぐ……ッ!」


華麗に舞う蝶は、足元の蜘蛛の巣に気づかなかった。


ヴィンセントの狙いは逃亡でも、ヒッポグリフの不意打ちでもない。時間稼ぎだ。


待っていたのは猿魔の来襲。少女が警戒すべきは男の潜む頭上だけではなかった。男はテイマーであった。


東洋に生息する狒々にも似たその魔物は影に潜み、機を見て地上へ這い出る。瞬きする間もなく、長い手足が獲物の体に絡みついた。


このような魔物などに力負けするヘックスではない。だが、巧みに力の入りづらい箇所を抑える技術に為す術なく、彼女は全生物の弱点、頭部を晒してしまった。鏃が狙う。


「何度言わせるつもりだ」


怒りと呆れ、綯い交ぜの声が少女の背後から通り抜けた。


直後、悲鳴のようなけたたましい絶叫と共に、どす黒く荒ぶる異形の気配が、白鋼の刃から発された。背筋を怖気が走り、ヴィンセントは飛び退く。


その刀を持つは勇者学校教師、ショウであった。


刀の発する異形の妖気は彼の鞘へと納められた。ヘックスの体が軽くなる。猿の魔物は最初からこの世にいなかったかのように、姿を消していた。


「気を抜くな」


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