【第十二話】捜索
ヘックスとヴィンセントの接敵より十数分前。
「いいのですか?我々だけでの捜索で」
勇者学校区を出、区外の街を駆け抜けたショウとヘックスは森の中、言葉を交わしながらヒッポグリフの薄い気配を辿っていた。
フィリィが攫われた直後、試験会場は騒然としていたが、そこはさすがの勇者学校。フィリィの捜索に名乗りを上げる生徒は多かった。
しかしショウは極少人数での捜索を行うこととし、他の生徒は教師陣にこの件を伝えるよう指示した。
「相手が誰で何人いるかも分からない状況で未熟者らを連れてきても死体袋の必要数が増えるだけだ」
「そう仰る先生こそ、うっかり袋詰めされないでくださいよ?」
「……」
師の怪訝な顔を無視し、黒の混じった赤髪の少女は話題を転じた。
「狩猟部の部長が言っていましたが、昨日森で発見したリョコーバードの死体にテイマーの痕跡があったとか」
「今になって気づくとは、奴らしくもない」
「それだけ用意周到ということでしょう……今回の敵は」
「気を抜──」
ショウが言い終わるより早く「もちろんですとも」とヘックスは笑う。
「分かればいい」
ショウは頷くも、気がかりなことがあった。
今年勇者学校に入学する予定の者が、四月になっても多数、未だ区に辿り着いていない。入学式の日に間に合わない者は例年数名いるものだが、今年の数はその比ではない。
人攫いの可能性が、職員会議で共有されたのは半月前であり、そのときの調査では異変なしとの結論が出ていた。
しかし心配性、もとい慎重派のショウは納得しなかった。個人的に調査を進めていたところに、メイト・アクザードが現れた。
空から落ちてきたという彼を疑わない選択肢はショウになかった。一連の試験はメイトの調査を兼ねていた。
だが、同行者のフィリィ・サリアーが攫われた。それ自体は不思議ではない。問題は彼女がメイト以外の人間に攫われたことだ。
つまり、メイトは人攫いとは無関係。ショウは結論を急ぐことはしないが、その可能性は高くなった。
──だが何故、今まで隠れて犯行を重ねていた人攫いが今更このような大胆な手を?そもそも、何故入学予定者を狙う?
ショウは思考に疑問をへばりつけたまま、立ち止まる。腰に下げた刀を見、向かって左側。東を指差した。
「“喰”の反応が強くなっている。この方角だ」
鬱蒼と木々が生い茂る地帯。地面を覆い尽くすような背の高い緑が進路を阻む。
ヘックスは「ではお先に」と飛び上がり、木をひょいひょいと登る。木から木へと駆け抜けていった。
「待て!詳細な座標は分からないんだぞ!」
ショウは叫び声に怒りを滲ませる。一秒後に緑の向こうから、
「勇者の嗅覚で見つけまーす!」と明るく返ってきた。
「チッ……あの慢心屋め!」
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「悪意……ね」
鋼の如き色彩を帯びたヘックスの瞳を見、ヴィンセントは薄ら笑う。
「そうか。勇者学校最強の生徒さんは悪意や恐怖を“視る”っていう『ガルイアの眼』の持ち主だったな」
ヘックスは無言の睥睨で応じる。
眼前の男から発される憎悪は強く濃い。しかし霧のようにあらゆる方向へと拡散されており、輪郭が掴めない。同年代の若者と比べ多くの悪人と対峙してきたヘックスにとっても、初めて視る悪意の形状だった。
しかしその憎悪の正体が何であるかは、彼女には関係ない。
「人の汚れた部分を肉眼で視てきたお前なら、俺が何故勇者になれなかったのか分かるかもな」
「くだらん会話をする気はない」
多くの場合、ヘックスは戦闘や会話を楽しむ。しかし今回はそのような気持ちにはならなかった。この男に興味がないわけではない。
だが……
「攫った者はどうした」
救助が先決だ。
ヴィンセントはナイフに付着した狩猟部部長の血を袖で拭い、切先をヘックスへと向ける。
「聞き出してみろ」
かくして、勇者になれなかった男と限りなく勇者に近い少女の戦いが始まった。




